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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
54/154

14

 両開きの扉の前まで戻ってきた僕らは、作戦をもう一度確認した後、扉に手をかけた。


「本当に上手くいくのかしら…」

「ヒカリ、アタシを信じろって!」

「信じたいけど…」


 やれやれ、前回死んだ恐怖はどこへやら…。

 そう思ってアルコを見ると、ふざけた口調とは裏腹に、手は細かく震え、目には怯えが見えた。

 そうか…本当は怖いのか。

 自ら恐怖を克服しようとするアルコの態度に感銘を受ける。それを人に見せようとしない強さ…いや、あるいは弱さかもしれない。

 守らないと。

 そう決意する。


「それじゃ、頼んだ。開けてくれ!」


 アルコの号令とともに、成宮さんと二人で扉を開き始める。

 僕が通れるほど扉が開いたところで、先に大広間に飛び込む。

 それに続き、僕の体に隠れる形でアルコが駆け出す。

 成宮さんは扉の影で待機している。


「この辺りでいいかな?」

「おう、ここなら十分だろ」


――カツン。


 おっと、ゴブリンの矢が地面にあたった。


「時間がねーな。始めるぞ!」


 ゴブリンたちの攻撃が本格化する前に、作戦開始だ。

 すぅーっとアルコが深く息を吸う。


「おおーい! テメーら! ゴブリンどもぉ!」


 その小柄な体のどこから出ているのか。

 まるで応援団のような大声で、アルコが叫ぶ。


「テメーらはなぁ…バカばっかりだ! 顔色も悪い! 目つきだってサイッテーだ!」


 何ごとかとゴブリンたちが攻撃を止め、二階からこちらを覗き込む。


「それに…臭いんだよ! ドブくせー臭いがプンプンするぜ! 歯磨いてんのかぁ!?」


 歯は磨いてないだろう。

 アルコの罵りは見当違いの方向を目指していたけど、ゴブリンたちもようやく自分たちが馬鹿にされていることに気がついたらしい。


「ギャッギャッ!」

「ギィギィ!」


 武器を頭上で振り回しながら怒りを露わにしている。


「なんだぁ? いっちょ前に怒ってんのかぁ? だったら、アタシを殺してみな!」


 アルコの声を合図に、怒りの頂点に達したゴブリンたちが二階から飛び降りてくる。

 残念ながら弓使いのゴブリンたちはその場に残っているが、これも作戦通りだ。


「ほーれほれ、殺してみろって!」

「あ、アルコ…そろそろ」


 調子に乗ってあっかんべーなどしているアルコに注意を促す。


「そーだな…もういいか。よーし、逃げるぞ!」


 怒り狂り武器を振り回すゴブリンたちと、頭上から降り注ぐ矢から全力で逃げる。

 ゴブリンたちの素早さに、追いつかれやしないかとちらりと背後を見ると、どうやら怒りのあまり互いにぶつかりあって、上手く追ってこれないようだった。


「ヒカリぃ! 待たせたな!」

「ぎりぎり過ぎる!」


 成宮さんが開けてくれていた扉の中に飛び込む。

 そして、もう一度、今度は限界まで扉を開ける。


「アルコ、お膳立ては済んだわ! 頼むわよ!」

「任せておけって!」


 狙い通り、ゴブリンたちは「ひと塊」になって扉に向かって来た。

 アルコが杖を回し始める。


「よーし…無知なる者共、自らの運命を知らず。愚劣なる者共、自らの死を恐れず!」

「あ、アルコぉ?」


 成宮さんが間の抜けた声を出す。

 おかしい…作戦と違うぞ。


「或る時は母の手の如き優しさで、また或る時は父の鉄拳の如き厳しさで!」


 アルコは悦に入った表情で口上を繰り出している。

 こりゃまずい。

 ゴブリンたちは、もうすぐ側まで来ている。

 アルコを再度注意しようと思った時、杖の石が激しく緑に光った。

 アルコの精神に反応しているのか…?


「時は来たれり! 集え風の精霊たちよ…喰らえ、悪鬼共! ウインドォ…カッタァー!!」

「ギィヤアァーー!!」


 あたりに風が入り乱れる。

 あまりの威力に、一瞬体がアルコの方へ、杖の方へ引っ張られる。

 ゴブリンたちは目に見えない風の刃を受け、バラバラになり、空中に放り出されていく。

 

「す、すごい…!」


 成宮さんも、アルコの魔法の威力に呆然とした顔をしている。

 魔法の威力は一定じゃないのか?

 この威力は…ファイアアローとは違う理で発動しているようにしか…。


「へへっ…どうだ? 借りは返してやったぜ…」

「アルコ!」


 崩れ落ちるアルコに成宮さんが駆け寄る。


「サンキュー、ヒカリ…作戦通りだろ?」

「もう…長いのよ、前口上が」

「上手くいったからいいだろ…それに前口上は魔法のロマンなんだよ…」

「もう…なにそれ!」


 成宮さんは困ったような嬉しいような顔でアルコを支え続ける。

 アルコの無事を確認した後、ゴブリンが残っていないか大広間の方を見る。

 すると、ゴブリンたちが持っていたであろう鍵が落ちていた。

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