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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
38/154

38

 石の祭壇で、案内人が相変わらずニヤニヤしていた。


「ようやく、魔法が使えるようになったか」

「魔法? …ファイアアローのことね。どうして黙ってたの?」


 肩をすくめる。


「はは、教える義務はないだろ。道具自体は揃ってたんだ、気が付かないほうが悪い」


 壊れたネックレスに、別の場所で手に入れた石をはめるなんて、気がつくわけないだろ…。


「いいわ。ところで、あの巨大ナメクジ、アイツが主なの?」

「それも答える義務はないな。主であろうとなかろうと、全力で戦えばいい」

「ふうん、あくまで何も教えないってわけね」

「必要があれば、教えるさ」


 二人は睨みあっていたけど、成宮さんが諦めたようにため息をつく。


「仕方ないわね。行きましょう」

「しっかりとあがくことだな」

「言われなくても、そうするつもり」


 空間が歪み、吸い込まれる。


―――――


 目覚めると、そこは泉の部屋。

 バウニャンがてしてしと歩いている。

 装備品を確認する。

 鎧や盾も壊れてない。

 成宮さんの弓矢も補充されていた。


「燃え尽きてないかと不安だったけど、そういうことはないみたいね」


 バウニャンを軽く撫でてから、次の部屋へ向かう。


 魔法陣の部屋は静かなままで、剣士が再び現れることはなさそうだ。


「どうしたの?」


 成宮さんが立ち止まり、考え込んでいる。


「ん…一応、この剣を持っていこうと思って」


 剣士が残した剣だ。

 前回は、その重量から放置していた。


「使いこなそうなんて思ってなくて、何か役に立つかもしれないから」


 長旅であれば邪魔だろう。

 けど、今回は主…らしきナメクジのと戦いが中心だ。戦術の幅が広がるなら、持っていったほうがいい。


「僕が持っていようか?」

「ありがとう。でも、いざというときにすぐに使いたいから。私が自分で持つ」


 少し重そうだけど、もっともなので、それ以上は申し出ない。

 どう持つのかと不思議に思うと、器用に背中に括りつけていた。

 準備が整ったようなので、次の部屋へ向かうことにする。


 赤い扉の前に立つ。この先が巨大ナメクジの部屋だ。とにかく、戦って活路を見出すしかない。


 二人でゆっくりと扉を開ける。

 周囲は松明が照らし、中央は相変わらず暗い。

 ナメクジの姿は見えない。天井も暗くて様子は分からない。

 部屋の中央に向かう。

 足元を、ぴちゃりと水たまりが濡らす。

 ナメクジの体液だったのだろうか?

 接近したせいか、天井から巨大ナメクジが降ってくる。


――ずとぉん!


 地面が揺れる。

 傷は回復しているようだ。

 僕らと同じルールが適用されているのか。


「下がってて!」


 成宮さんが弓矢を構える。

 さっそくのファイアアローだ。

 けど様子がおかしい。


「くっ…どうして!?」


 ネックレスにはめ込んだ石が赤く光らない。

 矢も燃え上がらない。これではファイアアローを打てない。


「一旦引こう!」


 迫りくるナメクジから距離を取る。

 怒らせなければ、相手は鈍重、難なく距離を取れる。


「なにか、条件が…」

「落ち着いて。ゆっくり思い出してみよう」


 前回はどういう状況だった?

 石をはめた直後…まさか1発だけなのか?

 けど、弓矢の残数は回復している。魔法だけ回復しないということがあるか?

 それに、案内人は魔法が使えるようになったか、と言っていた。あの言い方は、一度切りではなく、習得を褒めていた気がする。


「弓を放つ際に特別な動きはしてないわ。頭の中で燃えろ、なんて念じてもいない」


 命からがらの危機的状況だったから?

 それじゃ、あまりに利用が限られる――


 そこで、気がついた。


「成宮さん、ネックレスを見て!」


 ネックレスが時々赤く光る。

 最初は松明の光を反射しているのかと思ったけど、そうじゃない。


「松明に…反応しているのね」


 松明に接近すると、石はさらに赤く輝いた。

 そして、眩しく光ったかと思うと、きらきらと赤い光を保ち始めた。


「炎を閉じ込めているのか…」

「松明が消えてないところをみると、吸収してるのかもしれないわね」


 原理はともかく、これでファイアアローが打てる。


――ぎり…!


 成宮さんが弓を引き絞り、燃え盛る矢を放った。

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