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石の祭壇で、案内人が相変わらずニヤニヤしていた。
「ようやく、魔法が使えるようになったか」
「魔法? …ファイアアローのことね。どうして黙ってたの?」
肩をすくめる。
「はは、教える義務はないだろ。道具自体は揃ってたんだ、気が付かないほうが悪い」
壊れたネックレスに、別の場所で手に入れた石をはめるなんて、気がつくわけないだろ…。
「いいわ。ところで、あの巨大ナメクジ、アイツが主なの?」
「それも答える義務はないな。主であろうとなかろうと、全力で戦えばいい」
「ふうん、あくまで何も教えないってわけね」
「必要があれば、教えるさ」
二人は睨みあっていたけど、成宮さんが諦めたようにため息をつく。
「仕方ないわね。行きましょう」
「しっかりとあがくことだな」
「言われなくても、そうするつもり」
空間が歪み、吸い込まれる。
―――――
目覚めると、そこは泉の部屋。
バウニャンがてしてしと歩いている。
装備品を確認する。
鎧や盾も壊れてない。
成宮さんの弓矢も補充されていた。
「燃え尽きてないかと不安だったけど、そういうことはないみたいね」
バウニャンを軽く撫でてから、次の部屋へ向かう。
魔法陣の部屋は静かなままで、剣士が再び現れることはなさそうだ。
「どうしたの?」
成宮さんが立ち止まり、考え込んでいる。
「ん…一応、この剣を持っていこうと思って」
剣士が残した剣だ。
前回は、その重量から放置していた。
「使いこなそうなんて思ってなくて、何か役に立つかもしれないから」
長旅であれば邪魔だろう。
けど、今回は主…らしきナメクジのと戦いが中心だ。戦術の幅が広がるなら、持っていったほうがいい。
「僕が持っていようか?」
「ありがとう。でも、いざというときにすぐに使いたいから。私が自分で持つ」
少し重そうだけど、もっともなので、それ以上は申し出ない。
どう持つのかと不思議に思うと、器用に背中に括りつけていた。
準備が整ったようなので、次の部屋へ向かうことにする。
赤い扉の前に立つ。この先が巨大ナメクジの部屋だ。とにかく、戦って活路を見出すしかない。
二人でゆっくりと扉を開ける。
周囲は松明が照らし、中央は相変わらず暗い。
ナメクジの姿は見えない。天井も暗くて様子は分からない。
部屋の中央に向かう。
足元を、ぴちゃりと水たまりが濡らす。
ナメクジの体液だったのだろうか?
接近したせいか、天井から巨大ナメクジが降ってくる。
――ずとぉん!
地面が揺れる。
傷は回復しているようだ。
僕らと同じルールが適用されているのか。
「下がってて!」
成宮さんが弓矢を構える。
さっそくのファイアアローだ。
けど様子がおかしい。
「くっ…どうして!?」
ネックレスにはめ込んだ石が赤く光らない。
矢も燃え上がらない。これではファイアアローを打てない。
「一旦引こう!」
迫りくるナメクジから距離を取る。
怒らせなければ、相手は鈍重、難なく距離を取れる。
「なにか、条件が…」
「落ち着いて。ゆっくり思い出してみよう」
前回はどういう状況だった?
石をはめた直後…まさか1発だけなのか?
けど、弓矢の残数は回復している。魔法だけ回復しないということがあるか?
それに、案内人は魔法が使えるようになったか、と言っていた。あの言い方は、一度切りではなく、習得を褒めていた気がする。
「弓を放つ際に特別な動きはしてないわ。頭の中で燃えろ、なんて念じてもいない」
命からがらの危機的状況だったから?
それじゃ、あまりに利用が限られる――
そこで、気がついた。
「成宮さん、ネックレスを見て!」
ネックレスが時々赤く光る。
最初は松明の光を反射しているのかと思ったけど、そうじゃない。
「松明に…反応しているのね」
松明に接近すると、石はさらに赤く輝いた。
そして、眩しく光ったかと思うと、きらきらと赤い光を保ち始めた。
「炎を閉じ込めているのか…」
「松明が消えてないところをみると、吸収してるのかもしれないわね」
原理はともかく、これでファイアアローが打てる。
――ぎり…!
成宮さんが弓を引き絞り、燃え盛る矢を放った。




