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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
37/154

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 月曜日の放課後、僕らは学校から数駅離れた駅のファーストフード店にいた。

 成宮さんは不思議がっていたが、学校の連中に見られるのは危ない…と、どうしても思ってしまう。

 当の成宮さんは熱かったのか、コーヒーの蓋を外して、フーフーと冷ましていた。

 それが終わるまで、僕は炭酸の氷をかき回して待っていた。


「よし、この熱さなら飲めそう」

「砂糖は入れないの?」

「ブラックが好きなの。頭が冴えるから。味も無糖が好きかな」

「そうなんだ」


 甘めの炭酸をすすりながら、少し敗北感というかプライドが傷つく。


「で、昨日の最後の…」

「炎の矢」


 燃え盛る矢。

 ナメクジにかなりのダメージを与えたことは間違いない。


「熱くなかったの? 矢全体が燃えててさ…朦朧としながらも、それが気になって」

「あの時は熱さのことより、燃え上がったことに驚いてて…でも、そうね。熱くなかったはず。だって、普通なら持ってられないわよね?」

「燃えてるのに熱くない…けど、実際には燃えてるから、ナメクジには効いたんだよね」

「うん。松明で燃やした自然現象とは全然違う…見た目より、もっと強烈な熱量を感じた」


 そういえば、ナメクジに突き刺さった瞬間、炎が燃え広がったようにも見えた。


「次回の夢でも燃える矢が打てて…矢も回復してたら…」

「勝てるかも知れない」


 そうなると、矢が燃え上がることについて理解を深めておきたい。


「きっかけはネックレスに赤い石をはめたことだよね?」

「偶然ネックレスの宝石が壊れて、その直後に石が赤色に染まったわ」

「もともと、ネックレスにそういう機能があったのかな。もともとはまってた石が、むしろ邪魔だったのか」

「無意識のうちに石をはめてたの。きっと、初めて石を手に入れた時、サイズが似ているなって考えていたのかも。それがあの瞬間に思い出された…そんな感じ」


 ネックセルはハード、石はソフトという感じか。で、石は火のソフト…火の石とか、ファイアストーンって言えばいいのかな。ということは、火の矢はファイアアローか…。


「ファイアアローって?」

「あれ、口に出してた?」

「うん、ソフトとかハードとか…タオルでも買うの?」

「あーいや、ゲーム的な言い回しだよ。ほら、火がついた矢とかだと言いにくいし、火の矢だと、ちょっと実際の威力と差がある言い方でしょ?」

「まあ…名前をつけることで他の要素と比べることが可能になったり、共通理解が早まったりするわね。でも一番は行動の強化かしら」

「強化?」

「たとえば黙って剣を振るうより、声をだして振るうほうが自然だし動きやすくないかしら?」

「そう言えば、声を出すようになってきたな。剣道の授業だと、どうしても恥ずかしいんだけど」

「恥ずかしい…か、あれって、より自分の動きをより良くするために発してるの」

「声を出すと何か変わるの?」

「気を奮い立たせる…つまり自分自身を勇気づけることができるわね。あとは気の勢いを強めて、攻撃の威力を高める狙いもあるわ」

「な、なんか色々あるね」

「あと、これはあくまで一説なんだけど…ものを持ち上げる際によいしょっと、と掛け声をかけるでしょ? あれによって、脳が荷物を持ち上げるモードに変わるのね。それで、全身の筋肉も準備ができて、スムーズに持ち上げられるようになるの」

「なるほどね…剣を振るうとき、声を出すことで脳と全身が攻撃モードになってるのか…」

「あくまで一説だけどね」

「これからは、もっと声を出すようにしよう…」

「ということだから…ファイアアローっていう名前も、決して悪くないと思う」

「そ、そう…」


 ただの妄想が、つい口に出ただけだったんだけど…なにやら真剣な話になってしまった。なぜファイヤーじゃなくてファイアなのか、なんてどうでもいいツッコミはこないようだった。


「ファイアアローがあれば、かなりのダメージを与えられるわね」

「う、うん。ファイア…アローがあれば」


 自分で命名したくせに、口に出すのは恥ずかしい。


「ただ。あの触手の猛攻…」

「盾を持ってきててよかった、とは思った…けど、結局防ぎきれなかった」

「前と同じように…先手必勝はどうかしら?」

「前って…通路のナメクジ? ああ、そうか、相手の攻撃の前に剣を突き立てたね。今回のやつは図体は比較にならないけど、その分遅いから、十分時間はありそうだね」


 こうやって考えてみると、触手以外は恐ろしくない相手な気がしてくる。

 けど、成宮さんは浮かない顔をしていた。


「どうしたの?」

「おそらく、巨大ナメクジは主だと思うんだけど…そう簡単にいくはずがない気がして…考えすぎかもしれないけど」


 そうかもしれない…でも、一度殺されているし、弓矢の数は限られているし、命がけであることに変わりはない。


「考えすぎ…ってことはないんじゃないかな。ただ、僕らにやれるのは落ち着いて、一生懸命戦うだけ…だよね」

「ふふ…そうね、そうだったわね。不安があっても、立ち向かわないわけにはいかないもの。限界まで戦って、無駄な死を迎えないことが大切よね」

「うん」


 何度も悪夢と死を繰り返して、僕らの中に覚悟のようなものが自然と生まれていた。

 やるしかない。

 決意を新たにし、僕らは別れ、夜に備えた。


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