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「しかし、本当に好きなんだね、ギューミン」
「だって…可愛いじゃない」
いつになくリラックスした状態で、祭壇の前にやってきた。
昨日の死の記憶が少しは和らいだ気がする。たとえ毎晩が辛くても、日常の安らぎを忘れちゃいけないな…。
「なんだなんだ? 無様な死を迎えた後だというのに、間抜けづらしおって」
案内人が興味深そうに悪態をつく。
「ギューミンって知ってます?」
「おう、知ってるぞ」
意地悪で聞いてみると意外な答えが返ってきた。
「え、本当に?」
「俺ともなればギューミンくらいはな…」
「騙されないで。嘘でしょう」
「ま、嘘だな」
あっさりと認める。うぐぐ…簡単に騙された自分が憎い。
「冗談はさておき、前回の死は誉められたものではないぞ。祝福を与えた甲斐がない」
「私たちの様子を見ていたの?」
「見ずとも分かる。祝福を与えているのは俺だぞ?」
「なるほど…死に方によって、何か変化があるのね…」
「やっぱり戦士として、戦って死なないと評価されないのかな」
「そういうことだ。無駄死にはおすすめしないぞ。果敢に死んでおけ」
「なんて言い草なの…」
でも、前回の死はもったいなかった。祭壇前のろうそくの数も2本減っている。
残り26本…2人で13日分だ。確実に、終わりが近づいている。
「今日はさらに注意を払って進みましょう」
「そうだね。がんばろう」
互いに誓いあったところで、空間が歪んだ。
―――――
目が覚めると、そこはいつもの部屋だった。
「またここか…死んだ場所からの復活ってわけじゃないんだな」
看守を倒して、そのまま死んだ時も、再び目覚めたのは小部屋からだった。
何かルールがあるのだろうか。
「あ…でも、鎧と剣がある」
前回と異なり、鎧を身にまとっていた。脇には剣を携えている。
眠っているうちに体に突き刺さったらシャレにならないな…バカな事を考えていると、成宮さんが部屋に入ってきた。
「やっぱり、あなたも装備品は維持されてるのね」
成宮さんも軽い鎧と、弓矢、それに綺麗な布の服を身にまとっているようだった。
「鍵もちゃんとあったわ」
看守から奪った鍵も所持品として維持されたらしい。
手に入れた物、身につけたものは次回の夢に引き継がれるのか…。
「よかった、また看守の体を調べて鍵を手に入れるのは気が進まないからね…」
「布の服がなくなって、裸だったらどうしようかと思ってたんだけど、大丈夫だったわね」
なるほど、そういう可能性も…ダメダメ、またそっちの妄想が…。
「さて、進む前に現状を確認するわよ。中央の部屋に移動しましょう。それから、ちょっと剣を貸してもらえる?」
装備品の貸し借りは問題ないのだろうか、と気になったけど、何も起こらずに渡す事ができた。
もし今死んだら、剣の所有はどちら扱いになるのだろうか。
「見て、これまでの踏破具合はこんな感じ」
中央に移動した後、成宮さんは剣を使ってテーブルにマップを描いていた。
「どれどれ…なるほど」
成宮さんが描いたのは、実際には可愛らしい似顔絵を交えていたものの、要素をまとめればこんな感じだった。
?
───扉──────┘ │
? 緑☓ │
──┐ ┌───────┘
│ │
│ │
│ │
│ │
│ │
└┬┘
┌─┐┌─┴─┐┌─┐
│空├┤ ├┤私│
└─┘│ 看 │└─┘
┌─┐│ 守 │┌─┐
│君├┤ ├┤剣│
└─┘└─┬─┘└─┘
┌─┴─┐
│木箱2│
└───┘
「この緑が…あの風船みたいな、シャボン玉みたいなヤツね」
「あ、やっぱり成宮さんもシャボン玉だと思った? 似てるよね」
「コホン、余計なことは言わない」
「ごめんなさい…この☓っていうのは…」
「前回の死亡地点ね」
「こうして見ると、今回は2つの『?』のどちらを探索するかってことになるね」
「そうだけど…やっぱり緑のヤツがいる通路は…緑のヤツって言い方、言いづらい…」
「じゃ、爆弾スライムで」
「スライム?」
「ゲームで登場するゼリー状のモンスターで、大体最弱なんだ」
「私たちに襲いかかったヤツらは最弱って感じじゃなかったわね…いえ、こちらが弱すぎるのかしら」
「自然の脅威って感じだったからね…まあ、ゲームの設定とここでの強さは関係ないし、名前だけ拝借しようかと」
「分かった。爆弾スライムね。ちょっと実際よりも怖さが足りない気がするわね」
「爆殺スライムとか?」
「…逆にバカっぽく感じるから、爆弾スライムのままでいいわ」
「そう? で、爆弾スライム通路なんだけど…今回も探索しようと思うんだ」
「え? 何か対策でもあるの?」
対策なんてない。
けど、屋上で成宮さんが言っていた「せめて先に進んでおけば…」という言葉が気になっていた。
爆弾スライムは怖いけど、あの先について何も知らないままでいるのも今後の行動に影響がでる気がする。
「対策と言えるほどのものはないんだ、残念ながら」
「でも、無策でもないってこと」
「そ、鎧を脱いで、バーっと走って、ちらっと奥を見て、バーっと戻ってくる…それだけの作戦」
「危険じゃない?」
「もちろん危険だけど、寝る前に思い出してたんだ、爆弾スライムが破裂するまでの時間を。そしたら、思ったより猶予がありそうだなって。もちろん恐怖を感じた状態での体感時間だから、正確じゃないとは思うけどさ」
「ううん、私も思ってたの。結構時間あったなって。その分悔しかったのよね、冷静な判断を下す時間はあったのに、心の余裕が無かったことが」
それであんなに悔しそうだったのか。やっぱり色々先を見てるな、彼女は。
「その作戦、成功すると思う。任せてもいいかしら」
「大丈夫。ちらっと見るだけだから。何か収穫があるといいんだけどね」
作戦を決めた僕らは、再びT字路に来ていた。
正面の扉は相変わらず鍵がかかっている。
一応、手持ちの鍵を再び試してみたけど、開かない。
「じゃ…鎧を脱ぐね」
「一応、目をつぶっておく」
成宮さんが目をつぶる。
まったく、無防備な人だなあ。
あ、鎧ってどうやって脱ぐんだ?
わたわたしていると、体が薄く光って、鎧が地面に転がった。
ボロボロの布の服を着ているだけの姿に戻った。どうやら念じれば脱げるらしい。
間違ってすっぽんぽんになりたい、なんて願わないようにしないとな。
「大丈夫、脱げたよ」
「じゃ、目を開けるわね」
成宮さんがゆっくりと目を開ける。
眼差しを向けることでその目に出発の意思を伝えると、僕は爆弾スライムの通路へと体を向ける。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
なんだか新婚の玄関先でのやりとりのようだ。
いけない、今は集中しないと…。
呼吸を整えて、気持ちが収まったところで、走り始める。
爆弾スライムは…まだいない!
曲がり角に差し掛かった時、目の端に緑色のあぶくが映り始める。
スライムの活動が、思ったより早く感じる…!
曲がり角の先は…扉!?
どうする、そろそろ戻らないとマズい…けど!
このままじゃ、なんの収穫もないのと同じだ。
そう思ったときには扉に駆けつけ、ノブを回していた。
「くそっ、開かないのかよっ!」
扉にはご丁寧に鍵がかかっていた。なるほど、鍵穴もある。
もう限界だ。今にもはじけそうな緑色のあぶくが通路を埋め尽くそうとしている。
「早く! 戻って!」
悲鳴のような成宮さんの声。
無我夢中で走る。爆弾スライムを何体か蹴っ飛ばした気もするけど、構ってられない。
とにかく走り続けた。そして――
「お…おかえりなさい」
「ただいま…」
なんとか、無事に成宮さんのところに戻ってくることができた。
奇跡的に無傷で。
爆弾スライムのほうへ振り返ると、はちきれんばかりに膨れていた姿が、次第にしぼんでいくのが確認できた。
「外敵に反応してるのかしら…高度な知能はもっていなさそうね」
「そうだね…つ、つかれた」
収穫はしょぼいながらも、爆弾スライム通路の先には鍵のかかった扉があることが分かった。
残念じゃないと言ったら嘘になるけど、それでも情報は情報だ。きっと役に立つ時がくるに違いない。
休息しながら、そんなことを考えていた。




