第20話 『僕らはつかの間、楽しく過ごす』
「最悪な寝覚めだったわね……」
「生きたまま揚げ物になった感覚って、ああなのかな……」
「ちょっと、やけに具体的な表現はやめて!」
いつもの放課後の屋上で、昨晩の夢について愚痴を言い合う。
「注意していたつもりだけど、全然ダメ。服が手に入って気が緩んでたのかしら」
「いやでも、あれは予想できないよ」
「そうなんだけど……せめて、進むか戻るかすればよかった!」
あのときは冷静ではいられなかった。
でも、そういう判断力がこれからは重要になりそうだ。
生存本能って、どうしたら磨けるんだろう。
「曲がり角はすぐだったから、少し先を見て、すぐに戻るくらいはできそうだったわね……でも、危険かしら……?」
成宮さんは思考を続けている。
このままじゃパンクしちゃいそうだ。
「今日は息抜きしない?」
思わず口に出ていた。
「え?」
成宮さんがびっくりしている。
言った僕もそうだ。みんなの憧れの成宮さんに、なんて軽率な発言を!
「ご、ごめん。冗談。ただ、ほら、夢の中も普段も、どっちも緊張してたら疲れるなーって思ってさ」
しどろもどろ。何言ってんだ、僕。
ほら、成宮さんが不審そうな顔を……あれ、笑ってる?
「いいわよ」
「え?」
「たまには休みも必要よね。ふふっ、まさかあなたからそんな誘いを受けるなんてね」
「う……そ、そうだよね」
「あ、普段だったら、男子の誘いには乗らないのよ。お高く止まってるって思われるかも知れないけど、学校以外で過ごすのは苦手というか、怖いというか」
「お、おっけーです。問題ナシデス」
「なにそれ、壊れたロボットみたい」
ぎこちない態度のまま、街に繰り出すことになった。
僕らの学校は都内の丸ノ内線沿いにある。
成宮さんの誘いで、丸ノ内線後楽園駅の東京カプセルシティにある喫茶店に行くことになった。どうやらお気に入りの店があるらしい。
「ありがとう、座らせてくれて」
「いえ、当然デアリマス」
「……ロボット?」
電車の中は混んでいたけど、1駅過ぎると1つだけ席が空いた。
もちろん成宮さんに席を譲ったものの、彼女は丁寧に感謝してくれた。
レディファーストは当然として、成宮さんを立たせて僕だけ座るなんて、考えられない。
姿勢を正してちょこんと座る成宮さんは、やっぱり綺麗だった。
僕のことを見上げる顔が可愛らしくて、正直正視しづらい。
変な話、つむじや髪の生え際も綺麗だと思った。
それに、華奢だ。女の子だ。毎晩の悪夢に晒されていい人じゃない。
「ね、聞いてるの?」
「あ、う、うん。聞いてるよ」
怒られてしまったが、成宮さんは笑っていた。
ぼーっとしているうちにカプセルシティに到着した。
ここは東京カプセルという野球場のそばにある遊戯施設……もとい遊戯空間で、スパからジェットコースター、フードコートからグッズショップまでなんでもある、高校生憩いの地だった。
その中の喫茶店がお気に入りらしい。
「今更気がついたんだけど」
「どうしたの?」
さすがに、緊張は解けていた。
喫茶店に入るときに、また緊張しそうだけど、考えるのはよそう。
「今から向かう店。私らしくないっていうか……イメージと違う、とか……言わないでね!」
「う、うん」
何を気にしてるんだろうと思って店の前に到着すると、そこは国際的に有名なキャラクターの世界観をコンセプトにした喫茶店だった。
「ぎゅ、ギューミンカフェ?」
フィンランドの作家が作り出した国際的に有名なキャラクター『ギューミン』。
牛をモチーフにした、間が抜けたような何を考えているのか分からないような表情は、子どもから大人まで、特に女性に人気があった。
「好きなのよ…ギューミン」
顔を赤くした成宮さんが、消え入るような声でつぶやく。
「い、いいね! 僕も好きだよギューミン。特にギョロギョロだっけ? あの電気を発生させるヤツが怖かったなー!」
「そ、そうよね。私も子どもの頃怖くて……今は大好きなんだけど」
確かにイメージと違う気もするけど、むしろ成宮さんの女の子らしい一面を知れて嬉しかった。
女の子と喫茶店に入るのは初めてで緊張したし、どうやら男性客が少ないらしく恥ずかしさもあったけれど、成宮さんと楽しく放課後を過ごすことができた。




