旅に出る
「……奥さん奥さん。これはどういう事なんでしょうか?」
少女になった姿を鏡を見ながら、これまた小さな手でペタペタと触る。ほのかに紅い金髪に10代を迎えたばかりぐらいの体型。目は少しつり目ぎみであり、どちらかと言えばキツい印象を受ける顔立ちだが、中身が俺のせいか無性にマヌケっぽく見えてしまう。あ、そういやこっちはどうなんだろう。むぅ…小さい……あっ!でもお腹周りは程よく筋肉がついてて結構気もち…じゃない何やってんだ俺は!自分の(?)身体だぞっ!!
「どうもこうも、あんな姿で出歩けると思うの?」
「歩けなくはないと思うけど…まぁ目立つか」
この世界がどうなってるかは知らないが、鎧と霧で出来た生物が出歩いてたら危険を感じるだろう。だが、それにしてもだ。
「でも何も女に、しかも少女姿にする必要はないでしょう。俺本来(?)の姿にしてくれた方が楽なんだからさ」
「ふざけないでよ。あんなむさ苦しい野郎なんかと出歩きたくないわ」
「いやいや、鍛え抜かれた美しい体でしょ?首から上はともかく」
「あれで美しいなら、全部が美しいわよ。てゆーか文句言ってないで、さっさと行くわよ」
スタスタと廊下を歩き始めてく。
そういや、俺あいつの名前聞いてなかったな。あれ?そういや何で俺、初対面の人にここまで親しみ抱いてんだ?
………まぁいっか。気にしても仕方ない。それに、一応とは言え知ってる人がいたお陰でパニックにはなって無いが、正直言って何故俺がこんな事に合っているのかわからない。いやまぁさっきの映像を見切らなかった俺が悪いんだけどね!とりあえず先々行ってる彼女の後を追いかけ関係を構築する上で必要な事を尋ねる。
「ところでさ、お前の名前なんて言うの?」
「クロエ、クロエ=ユースティア。クロエでいいわ。そう言うあんたの名前、なんて呼んだらいいのかしら?あんたの世界での名前?それとも真名?」
「いやまぁ、そりゃ本名がいいけど、この見た目にはそぐわないしなぁ」
佐々木 元治郎とか、この可愛らしい姿には不似合い極まる。
「真名とか気になるけど、それも似合いそうに無いから、なんか適当に決めてくれ」
「そうねぇ………」
立ち止まったクロエは顎に手を当て、少し唸りながら考える。
俺はネーミングセンスが無いと自負しているが、クロエはその点どうなのだろうか。自分よりひどいセンスを持って無ければ問題無いが……
頼んでおきながら不安感を募らせ始めた俺などはさておき、ハッとクロエが顔を上げ指を鳴らした。
「アリシア!アリシア!はどうかしら‼︎」
あ、よかった俺よかマシだった。
とりあえず俺は右手を差し出し、
「うん。気に入った。今日から俺はアリシアだ。今後ともよろしく、クロエ」
「こちらこそ、暫くの間よろしくね」
クロエも応じてくれた。
はて?暫くってどう言う事だろうか?
俺から離れられないのは、呪いか何かの類だろうけど、回呪法でも見つかったのだろうか。まぁそうでなくては俺を連れ戻す必要は無いだろうし。いや、俺としては無理矢理連れてこられた訳だし、理由も知らないから納得はしていないのだが…
「よし、それじゃあ本当に行きましょう!そろそろ日も暮れてくるしね」
「そうだな。日が暮れてからは危ない。だがな、その前に一ついいか?」
「?なにかあるの?」
あぁ、あるとも。特に気にしてなかったがとても大事な事が。
「うん。とりあえず服くれ」
そう。変身してからずっと裸だったのだ。
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その後、クロエがちゃちゃっと服を作り出してくれた-正直便利すぎて引く-のだが、これが特に装飾もされていない白のワンピースに白のコルクサンダルであり、クロエが特に何も考えずに作ったと言うのがうかがい知れる組み合わせだった。
それはさておき、とりあえず俺達は城から出た訳なのだが、こうやって外に出て見てみると、思いの外大きく、内装に比べ外見が著しく劣化しているのが見て取れる。もしかすると、あの内装も魔法でどうにかしていたのだろうか。
城を眺めながら思いを馳せている横で、クロエは、もう少しで沈みに入ろうとしている太陽に顔を向け大きく伸びをしていた。
「ひっさしぶりの外だ〜〜!!あ〜やっぱし外に出なきゃダメね。人間って!」
「それはよぉございましたなぁ勇者どの」
いきなり知らない声がしたかと思うと、すぐそばの茂みから、ガサガサと俺より少し大きいぐらいの、二足歩行の亀が出てきた。
「かっ、亀が喋った!」
「あら、お久しぶりね。ケル爺。もうとっくの昔に死んだと思ってたわ」
「なぁに、寿命を迎えるにはまだ2000万年ほどありますのでな。勇者どのが死ぬより先に死ぬ事はありますまいて」
驚いている俺を他所に、2人の談笑は盛り上がっていく。やれ、冷たいものが美味しくなって来ただの、クロエが窓から捨てた物に当たったゴーレムの修理に4ヶ月もかかったのだの、周辺で取れた野菜で出来た漬物が良くできただのと、話が続いていく。
「あんのっ!すんません!盛り上がってるとこ申し訳ないんだけど、アンタ誰!」
会話に割って入ろうとすると、2人はキョトンとした顔になった後、後ろを向いてヒソヒソと話したかと思うと、急に振り返って、咳払いをした。
「えーと、お嬢ちゃん。はじめまして。で、この際は合っとるのかの?まぁわしはケル爺と言うてな。嬢ちゃんと勇者殿が、その城の中に入った時からずーっと周囲に暮らして居る。見ての通りの亀じゃ。」
「あ、どうもはじめまして。アリシアという名前にさっきなりました。」
「アリシア…アリシアのぉ………ふむ。勇者どのにしては、悪く無いせんすじゃな」
カっカっカっと亀らしからぬ笑いをするのを、クロエがカチンっと来ているのが、なんとなくわかる。
「ところで、勇者どのはこの先どうするのですかな?儂はもうここで余生を過ごすつもりなんじゃが?」
「そうねぇ…はっきり言って何にも考えてなかったから、目的と言ってもねぇ…」
考えなかったんかい!
あぁ爺さんも『やっぱりこいつ何も考えてねぇな…脊椎反射で生きてんじゃねぇの?』って顔になってるし。
「考え無しなのは、今に始まったばかりじゃおりませんが、呆れて罵倒したくなりますの。」
「そうだよなぁ。俺も他に頼るやつがいないから付き合うかって思ってたんだけど、もう早1人で生きた方が良いような気がしてきたよ。」
爺さんに乗っかって軽く貶してみたら、ドビョォンという音とともに右腕が吹っ飛んだ。
「殴るわよ」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!あ、ゔぉはぁ!?!!!」
えええええいきなり何で俺の腕腕腕がってあるぇ?
「痛くも無いし、なんか触れてる感覚がある。」
吹き飛んだ腕はバラバラにちぎれ飛んでるが、その1つ1つから触れてるものの感覚が伝わってくる。
気持悪いな。
「そりゃそうよ。貴方のその姿は悪魔でもカモフラージュに過ぎない。ほんたいが霧みたい何だから殴っても消えたりなんかしないわよ。ちょっと念じれば元に
元に戻るはずよ。」
言われた通りに念じると、散らばった腕が千切れた所にベチャベチャと引っ付いていく。うっわキモチわりぃ……
「はぁ……相変わらず化け物と言うか何と言うか…見てて気持ちのいいものではありませんの。さて勇者どの。行先が決まっておらんのでしたら、この森を西に抜けた先に末裔達が暮らして居る国がございます。ひとまずはそこに訪れて見てはいかがでございましょう?」
「ふーん。そんな近くに人がいたんだ。気がつかなかったわ」
「まぁ昔と比べたらスラム街以下の国ですが…あの惨状から人が国を作れる様になりましたし、大したものですよ。」
「それもそうね。よし!それじゃあねケル爺。多分また会うと思うわ。行くわよアリシア。」
「あーはいはい行きます行きます。それじゃな。爺さん。もっと話してみたかったわ」
「わしも話して見たかったの。それでは勇者どのをよろしくお願い申し上げますれば、あの様な暴力魔なれど、どうかお見捨てなき様」
「へいよ。保証はしないけどな」
深々と頭を下げる爺さんに対し、適当な挨拶をして俺とクロエは旅に出た。
何をする為かもわからぬまま。




