七
「それでー、夏川君がー、写真にー、きょーみをもってー、カメラをー一緒に買いに行ったんだーよねぇ」
天水の話すスピードがまた遅くなった。そしてなぜか、さっきから左右にゆれ続けている。体の揺れと言葉の句切りが一致しているようだ、と水上は気付いた。
「このくらいでいいですか」
天水がまとめたので、夏川は話を切り上ようとして、二人に確認を取ったらしい。
「バイトの話だと思ったら、なれそめを聞かされたでござる」
「いとをかし」
古泉と水上はそれぞれ感想を言った。
「なな、馴れ初めじゃないですよ」
「ねー」
わかりやすく狼狽えている夏川に対し、天水はどこか楽しそうだ。古泉の目は半分閉じていて眠そうにも見えるし、睨んでいるようにも見える。
ふと、彼女は何かに気付いたように顔をあげ、天水に耳打ちをした。天水はゆっくり何度も頷き、正面を見て、
「夏川くーん。わたしー、ちょっとー、酔っちゃったー、みたいー」
相変わらず揺れている。
「だいぶ酔ってますよ」
「あれー?」
天水は古泉の方を向いた。
「効果がないようだ」
古泉はチラリと水上に視線を投げかけてから、天水の頭を撫でた。
テーブルの上の食べ物がなくなってきた。
夏川が辺りを見回してから古泉の方を見た。古泉はにらみつけるようにメニューを凝視していた。
水上は席の後ろ、上着を掛けてあるところに置いてあるメニュー表をとって、夏川に渡した。
「ありがとうございます。水上さんはなにか追加しますか」
「お前らが決めてから考える」
「わかりました」
天水はさっきから刺身のつまをチビチビと食べている。
空になった大皿とさげられたものを合わせると、けっこうな量を食べたのではないかと思う。明日実家に帰るから、あまり気にしないで注文してきたが、今になって値段が気になってきた。
しかし、まだ食べたりない気もする。アルコールと一緒だといつもより多く食べてしまうと思う。これが居酒屋の戦略なのだろうか。
「あまみー、焼酎っておいしいの?」
半眼のまま、古泉はメニューを見据えながら聞いた。
「しょーちゅー? 飲んだことない、から、私も飲むー」
「やめてください」
夏川が止めに入った。
「えー」
古泉はともかく、天水にはこれ以上のませない方がいいだろう。
「天水が酔いつぶれたら夏川がおんぶでもすればいい」
古泉が言った。さっきよりも目が開かれ、心なしか生き生きしているように見える。
「それは、ありですか?」
なぜか古泉に尋ねる。
「ありです」
古泉は頷いた。
「まあ、送り先は実家だけどな」
水上が水を差した。
「そして玄関でお父さんのお出迎えが」
「焼酎はやめておきましょう」
水をもらって、それでお開きとなった。




