#2 この能力
私は人の余命が見える。
頭の上に数字が浮かんでるイメージだ。見ようとしなくても目に入ってしまうもので、生まれた時から見えていた。だからこそ、他のみんなも見えているのだとばかり思っていたし、最初はなんの数字かすらわからなかった。
周りの人もそう簡単に死ぬわけじゃない。数字の意味に気づいたのは、例のお茶会の前日だった。
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『5時間』
庭師のおじさんの頭の上に浮かんでいた数字は、今まで出会ったどの人よりも一番短い時間だった。当時、ちょうど時間の読み方を教わっていた頃で、それがどれくらいの時間を指しているのかがわかっていた。
でも、その時間が指す"意味"はわかっていなかった。ただ、減っていく時間を見つめながら、
「短いな」
と、思うだけだった。
ちょうど5時間が経つ頃、おじさんの数字がどうなるのか気になって、2階の部屋から外を覗いていた。
3、2、1……
きっかり5時間後、おじさんはその場に倒れた。
「おじさんが…」
私は驚き、おじさんの様子をメイドに伝えた。おかげで、倒れて間も無く大人たちが駆けつけたが、息はすでになかったそうだ。
その時、私の目に見えている数字が、人の余命を指すのだと知った。
恐ろしかった。自分でも。
人がいつ死ぬかわかるなんて…。
数時間はショックで何も考えられなかったが、一晩ベッドで横になりながら、ある考えにたどり着いた。
私はおじさんがいつ死ぬのかを知っていた。
知っていたのに、誰にも告げることなく、そのまま死なせてしまった。
死ぬ時間がわかっていたのなら、救うこともできたのではないか?
……おじさんが死んだのは私のせい…?
そんな罪悪感から、母親にも能力のことを告げることができずにお茶会の日を迎えた。
そして、見たのである。目の前のおばさんの頭の上に、『5秒』の数字があるのを。
私は、今度こそ周りに伝えなくてはと思った。また、私のせいで死なせるわけにはいかない、と。
だから言った。
「おばさん、あと5秒で死んじゃう」
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あのお茶会の後、母親の余命が一気に縮んだ。
50年ほどあったものが、3ヶ月になった。
可愛い人形のような自慢の娘が、一気に呪いの人形に成り果てたのだから、無理もない。
母は世間の噂と共に日々衰弱していき、3ヶ月後に亡くなった。
今度こそ、本当に私のせいだった。
あの日、あのお茶会で何も言わなければよかった。
いつものように、お人形のようにおとなしく座っているだけでよかった。
私が余計なことを口にしたせいで、母は死んだ。
だからなのか、私の余命があと2年なのは。
これは罰なのか。
でも、罰にも何にもなっていない。
私には生きる気力がないからだ。
明日にでも死んでもいいと思っている。
ただ、2年だけなら、自分から死ぬこともないかと生きているだけだ。
だから、未来の約束なんてしてはいけなかったのだ。私は窓から外を見つめながら、昨日出会ったキースという人を思い浮かべた。
「お嬢様、このお召し物は…!?」
舞踏会から屋敷に帰った時、私の専属メイドのマリーが驚いたように彼の羽織を手に取った。
「あぁ…人に借りただけよ。返すわ…一年後に。」
「人に借りたって、いったい誰に…?いや、それより前に、男物の羽織だなんて、公爵様に知られたらなんて言われるか…!
……いや、公爵様は、、何も言われないですね…、失礼しました。」
私が軽くうなづくと、マリーは申し訳なさそうに
「こちらは一度洗っておきますね…」
と言い残して部屋を去った。
公爵様、つまり父は、私に関心が一切ない。たとえ私が男物の羽織を着て帰っても、一瞥するだけで何も言わないだろう。
互いに不干渉。そう悪いものでもない。
ガラガラガラガラ
音に反応して顔を再び外へと向けると、普段来客がほとんどない我が家に、一台の馬車が到着していた。
珍しいが、概ね父の仕事関係の来客だろう。
……と思ったが、馬車から降りてきたのは想定外の人物だった。
バチッ
目が、あった。
そして、離せなかった。
そこに立っていたのは、キースだった。




