#1 余命が見える令嬢
「気持ち悪い」
「呪われてる」
陶器のように白い肌に輝く銀髪。青くて大きな目を持つ、まるでお人形のような可愛い可愛い女の子。
そんな5歳の少女に大人たちがかける言葉は、ある時を境に冷たくなった。
それは、公爵家でお茶会が開かれた時のこと。
容姿端麗な娘を持つ公爵夫人は、その娘を自慢するために子供のいる夫人たちを集めて盛大なお茶会を開いていた。
「皆さん、今日は集まってくれてありがとう。この子がうちのサーシャです。」
公爵夫人は自身の後ろに隠れていた女の子の背中を押して、参加者によく見えるようにした。
そして見惚れるように髪を手で撫でながら、
「恥ずかしがり屋な子なのだけれど、どうぞ仲良くしてやってくださいな。」
と、まるで宝石を誇るかのように周囲を見渡した。
「まぁ、なんて綺麗な髪なの」
「顔もとても整って…将来が楽しみですわね」
貴族たちの賛辞が飛び交い、公爵夫人が満足そうに微笑んでいるその時、少女がやっと口を開いた。
「おばさん、あと5秒で死んじゃう」
まるで鈴が鳴るかのような可愛い声で少女は話した。その小さな指は、お茶会に参加していた1人の貴婦人を指していた。
1、2、3、4、5……
賑わっていたお茶会に、5秒間の静寂が生まれた。
そして…
「キャーーー!!!」
貴婦人が倒れると同時に、悲鳴が上がった。
青白くて肌に生気がなく、まるで白髪のような髪。不気味なほどに大きい目を持つ、まるで呪われた人形のような気持ち悪い女の子。
余命が見える令嬢は、かくして世間から疎まれるようになった。
--------13年後---------
「アーノルド・クロレンツ公爵と、サーシャ公爵令嬢が到着されました!」
豪華絢爛な光に照らされながら、宮殿に親子が入場する。
今日は一年に一度の建国祭。国中の貴族たちが集まる。
"呪われた公爵令嬢"サーシャ・クロレンツが出席する唯一の舞踏会だ。
「お前はどこか違う場所に行っておけ。」
会場に到着するなり、父が私にそういった。
「かしこまりました。」
まるで使用人のように父に頭を下げた私は、毎年のように1人で壁の方へ向かう。
「見て、あれが呪われた令嬢よ」
「なんでも人の余命が見えるんだとか」
「なんて気味が悪いのかしら!」
言われ慣れているとはいっても、四方八方から好奇の目で見られ、陰口を聞かされ続ける舞踏会は、私にとって苦痛でしかない。しかし、建国祭だけは貴族の出席義務があり、避けることができなかった。
「……」
息がつまる。そう思った私は、壁から離れ、バルコニーへと足を運んだ。
「ふぅ…」
早く終わらないかな。
「こんばんは」
背後から急に声をかけられ、私は肩をビクッとさせながら後ろを振り返る。すらっとしたスタイル。黒髪に赤い目の男性がこちらを見ている。
……見たことのない顔だ。
「…こんばんは」
「ふふっ…」
挨拶をされたから返しただけなのに、なぜか彼はおかしそうに肩を振るわせながら笑う。
「何がそんなにおかしいんですか」
少しイラッとしながら尋ねると、彼はクスッと笑いながら言った。
「いや、あまりにも警戒されてるなと思って」
「そりゃあ警戒しますよ。私はあなたが誰かすら知らないんですから」
怒ったように発される私の言葉を聞いて、彼はさらに笑顔になりながら
「確かに、そうでしたね」
と言った。
私には何がおかしいのか皆目検討もつかなかった。
「初めまして。キース・ヘルマンと申します。」
鮮やかにお辞儀をしながら口にしたのは、二代公爵家のもう一つ、ヘルマン公爵家の名だった。
「あぁ、ヘルマン公爵家の。ご子息が確か留学に行かれていたかと…」
「ええ、そうです。先日、留学先から帰ってきました。ご存知だったんですね。」
彼はなぜか顔を輝かせながらこちらに詰め寄ってくる。
「えぇ、父が言っていたのを小耳に挟みまして。」
話しながら私は逆に彼と距離をとる。
「あなたはここで何を?」
「何をって…ただ涼んでました。」
「そうですか、でもこの季節、その服装じゃちょっと肌寒くないですか?」
「いえ、大丈夫です」
一歩、また一歩と後ろに追い詰められていく。
「クシュン!……あ」
「ふふふ」
私のくしゃみを合図に彼の足は止まり、ほら、と言わんばかりにこちらを見つめてきた。
「これを」
彼は着ていたマントを脱ぎ、私に着せた。
「やめてください。要りません。」
私は必死に返そうとしたが、すでに着せられた後で、彼の強い腕に服を抑えられ、脱ぐことができなかった。
「また今度お会いした時に返してください。」
そう言って彼は私の顔を覗き込んだ。
「……無理です。一年後になりますよ。」
「いいですよ。」
なぜ一年後になるのか、その理由を彼は知っているかのように私の主張を一蹴した。
「また、一年後、ここでお会いしましょう。」
そう言い残して、彼は消えてしまった。
「本当にいらなかったのに…」
そう呟きながらバルコニーの手すりに寄りかかりながら地面を見つめる。
ここから落ちたらどうなるのかな。
私の余命は…縮まる?
バルコニーに昨夜の雨の名残が少し残っていた。水たまりに映る自分の余命を見ながら呟いた。
「まぁ、どうせあと2年だけど。」




