第93話 秘境魔境への旅の支度 〜大森林へは何を持っていきますか?
「よし、いよいよ大森林だ! 目指せ禁断の森!」
雄叫びを上げるユリオ。
ルヴォンの都では余計な足止めを食ってしまったが。
ともかく出発だ。王国西部のルヴォニア大森林のさらに西へ奥深く進めば、禁断の森である。
もちろん、普通の狩人猟師、冒険者が近寄る場所では絶対にない。
「さあ、準備」
危険に思えるこれからの冒険に別に乗り気ではないが、行く以上は、きっちり装備を整えなきゃ。
ユリオもエミナも、武人鍛錬で森林山野の踏破、野営生活は散々経験している。準備から何からお手の物なのだ。
禁断の森へ着くまでは、まずは大森林踏破の旅である。
「ルルさん、私の弓の腕前、ご覧に入れますよ!」
狩の大好きなエミナも、張り切っている。
保存食は持っていくが、これは非常用なのでなるべく食べない。
森林では鳥獣を射て食料にする。
街道はルヴォンで終わり。
宿や乗合馬車や馬の、安全快適な旅も終わりである。
追剥や詐欺師のことを考えると、これまでの旅も十分安全快適とはいえなかったけど。
大森林には行く手を塞ぐ密集林もあるので、馬は使えない。馬の通れないところをぐるっと大回りしてたら、大変な日数がかかってしまう。
ひたすら徒歩である。
コステクから乗ってきた馬も売った。これは金貨28デュエルになった。
徒歩での森林野営の旅。
必要最低限のものだけをもっていく。余計なものは全て捨てる。
森林踏破に必要なものは、すべてルーリャの店で買った。
ルーリャは無料で提供すると言ったが、ユリオはきっちり代金を支払った。この女とは、貸し借りなしの方がいいと思ったのだ。
大森林監督所へ行って森林税を払い、エスト=デュレイ一行の名義で狩猟許可証を貰うのも忘れなかった。これで森林の狩りは合法。狩人小屋猟師小屋も使える。
宿で。
真剣な顔で装備の最終チェックをするユリオとエミナ。
「これでいいかな」
「そうですね」
ユリオとエミナが厳選した装備。
まず食料。
燻製肉や乾果の保存食は1週間分。
そして1粒で3日はもつ元気丸が30粒。これだけで、3人が1ヵ月保つ筈だ。いよいよの時しか使わないつもりだけど。
何しろ禁断の森は未知の世界。食用になる鳥獣果実が見つかる保証は無い。売店だ宿も無いだろうし。非常食は必須である。
次に武器防具。
弓と箙をユリオとエミナ用に2セット買った。これは食料の鳥獣を狩るためである。
そして、アスティオの最高級魔法強化剣。
ユリオとエミナが一本ずつ。
防具は、ユリオが魔防強化の革鎧。ルルとエミナは魔防戦衣。森林の道中ずっと着込んでおく。いつ何が起こるかわからないからだ。魔防具の上に、革の長衣をふわりと纏う。ルヴォン一の毛皮商ルーリャ自慢の最高級品。軽くて動きやすく、しかも丈夫である。
あれこれの魔法具も。
その他、日用品。
調理に使う大鍋小鍋。
草木をかきわける鉈に、鳥獣を捌く短剣。もちろん、武器にもなる。
あと、縄に火打石、細々としたもの。
もちろん金貨はタップリ。
ここから先の旅で金貨がどの程度役に立つのかはわからないけど。
最後に。
王貂の毛皮。
ルーリャが丈夫な皮袋を用意してくれた。丸めてそこにしまう。
一国の至宝を森林行に禁断の地の冒険に持っていくのは、どう考えても危険だと思ったが、ルーリャが持っていけ、と強く勧めたのだ。
「ユリオ、これはあなたに王者の気を纏わせる。絶対に役に立つわ」
そんなものかなあ、と持っていくことにした。
◇
「いざ、出発!」
「さあ、行くのです!」
「ユリオ、エミナ、頼りにしてるよ」
輝く朝陽の中、ルヴォンの城門を出る3人。
ここからはひたすら歩き。しかも大森林だ。
ルヴォンから更に西へ。
すぐ森に入るわけではないが、急に道が悪くなったりする。馬車だなんだは使えないのだ。
この先は完全に狩人猟師冒険者の世界。
ユリオもエミナも武人鍛錬を経て、すっかり森林荒野の旅の心構えはできている。
単なる大森林なら、別に恐ろしくはない。
迷わず、しっかりと地を踏みしめて歩いて行く。
ルルは。
「いいの? みんな持ってもらっちゃったりして」
ズッシリとした荷を背負うユリオとエミナを気遣う。
ルルは軽装備。重いものは持たせていない。腰の短剣だけ。
重い金物類は、すべてユリオとエミナが。
ユリオは弓矢に大鍋を背負い、剣に鉈を下げている。
エミナも同じく弓矢と小鍋を背負い、短剣を持っている。
これはユリオの采配判断だった。
ルルは異世界に来たばかりである。前の世界ではテニス部で、結構真面目にやっていたので普通の女子高生よりは体力筋力脚力がある。
しかし所詮、快適な都会のスポーツ。舗装された道路や整備されたグラウンド、コートで鍛えていたに過ぎない。
これに対し、ユリオとエミナは異世界で幼少より鍛えている。15歳と14歳だが、17歳のルルよりがっちりとしていて、足腰も強い。森林山野もお手の物だ。鍛えられ方が違うのである。
「ルル、気にしなくていいぞ。これは、お前を白月王の樹だかに連れて行く旅だからな。お前がへばったら話にならない。こういうのは俺たちは慣れている。隊の最適な役割分担。全員が無事で旅するためには、それを考えなきゃいけない。ここは俺が指揮をとる。信頼してくれ」
「もちろん信じてるよ。私だって、足手まといならないように頑張るから」
「無駄に頑張らなくていい。とにかく頼ってくれ。エミナだって力はあるからな。頑張ろうなんて考えると、すぐにへばるぞ。その代わり、魔法が必要な時はよろしく頼む」
「うん。ありがとう。ユリオ、本当に頼りになるね」
「エミナにも任せてください! 私は都会より森の方が好きなのです!」
これはルルの宿命の勇者ロードだが、魔法が必要になるまでルルは脇役である。
ユリオは武人鍛錬で、隊での冒険や戦闘を数多く経験している。何かあっても助けを呼べない地で、全員無事であるための判断の重要性、それを叩き込まれている。
大公爵として、いずれは部隊指揮官、軍司令官ともなる立場である。水、食料と安全の確保から行軍の最適行動についての指揮訓練の学習も始めていたところだった。
自然、隊の指揮を取る立場になるのである。
もっとも。
ユリオの考えていることといえば。
(森の旅。ルルは初心者だよな。いくら女勇者様といっても、俺からすれば、赤ん坊同然。武人鍛錬はずっとしてきたけど、お嬢様の護衛先導しての旅なんて初めてだ。大森林の中。何があっても助けは来ないし呼べない。究極美少女と一緒に……ふほっ……もし機会があれば、機会があれば、ルル、容赦なく蹂躙してやるからな!)
相変わらずの妄想。
清々しい空気の中、グヘヘとヨダレを垂らす。




