第68話 賞金稼ぎのアルベロ (7) 〜善徳は報われますか?
な、なんだ?
何が起きてるんだ?
まるで頭の働かないユリオ。
追剥に捕まって誘拐されて。気づくと曠野で荷台の上。
で、誘拐犯の一味が獲物にヒャッホーしていたら、いきなり仲間割れだかが始まって、みんな殺された。
残ったのは、ただ1人。両刃剣の男。
恐ろしい手並みの男だ。
こいつは、ユリオの正体を見抜いている。
どうしよう。なんて言えばいいんだろう。
はい、ユリオです……なんて……言えないよね。生死を問わずユリオを捕らえし者には、10万パナードなんだし……
いいえ、旅商エスト=デュレイですと言い張って逃げる?
でも、こいつも追剥だよね。
ともあれ。
ルル、何やってるんだ。もう魔法だ。やるんだ。
焦るユリオだが、ルルは落ち着いて、うう、と体をモゾモゾ動かしている。
◇
「俺はアルベロってんだ。賞金稼ぎだ」
やっと身を起こしたユリオたち3人を前に、荷台にどっかと座ったアルベロ。もう両刃剣は握っていない。
「賞金稼ぎ?」
ユリオ、震える。やっぱりやばいじゃないか。いや、ユリオの立場、賞金稼ぎでも賞金稼ぎじゃなくても、とにかく誰かに正体がバレるのがまずい。
アルベロは屈託なく、荷台に転がるラドゥマ一味の亡骸を眺める。
「ああ。俺はこいつらを追って来たんだ。こいつらは有名な追剥殺人のラドゥマ一味だ。聞いただろう? 300デュエルの賞金首だ。北のほうの街道筋で暴れてたんだが、最近、こっちに仕事場を移したんだ。俺はその情報をつかんでね。それでこっちで張ってた。そうしたら、あの宿で、ユリオ、あんたを見かけたんだ」
「……」
「驚いたぜ。当代2位の賞金首を追ってたら、当代1位様の登場だからな。そしたら、もっと驚いたことに、俺の隣に座った2人組が、お前の正体を見抜いてたんだ。そして、お前の誘拐する計画を立てていた」
なんだ、そりゃ。変装してここまでバレずに来たのに、コステクに着いた途端、正体を見破る人間が湧いてきたのか。訳が分からない。
「で、俺はこれはいかんと思った。何とかして助けようと思った」
「助ける?」
へ? となるユリオ。何を言ってるんだろう? このアルベロは、賞金稼ぎって言ったよね? で、ユリオの正体に気づいた。そして、他の人間がユリオを誘拐しようとするのを助けようとした? なんで?
訳が分からずポカンとなるユリオを前に、アルベロは続ける。
「俺は、その2人組の仲間になった。2人組は、どう見てもチンピラ小物の悪党で、肝の据わった悪事のできるタイプじゃなかったけどな。ともあれ、ユリオ、お前の正体を知っているだけでも危険だと思ったんだ」
そりゃ、危険である。
「そこに、ラドゥマの一味が現れた。お前たちにまとわりついて、眠り薬を飲ませたやつらだ」
ラドゥマの一味。騙し役が金を持ってそうな旅人に取り入って、隙を見て眠り薬を使い、相手が倒れたところを介抱すると連れ出し、追剥を働く。それが常套手段だった。
この辺の街道筋を調べ、派手に散財している旅商エスト=デュレイ一行に目をつけたのだった。
「こりゃ、危ないと思った。俺は荷馬車を借りてきて、あんたらが潰れたとき、すかさず掻っ攫って連れ出したんだ。ま、追いつかれはしちまったけどな。でも、この人気のない曠野でちょうどよかった。思う存分、ラドゥマの一味を始末して、ユリオ、あんたを助けることができた。そういうわけだ」
そういうわけ……と言われても。まだ話がよくわからないユリオ。こんがらがりすぎている
ともあれ、2つの悪党一味がユリオを狙っていたのを、このアルベロが助けてくれた、そういうことらしい。
「あの」
1番訊きたいこと、やっと訊けた。
「ええと、おたくは賞金稼ぎなんだよね? で、俺をユリオだと知って助けてくれた? それ、どういうこと?」
賞金稼ぎが賞金首を助ける? なんだ、そりゃ。あべこべ。天地がひっくり返ったようなものだ。
ユリオの問いに、微笑むアルベロ。
「俺は、コルソヴァ村の人間なんだ」
「あーー」
コルソヴァ村。その名、引っかかった。そうだ。ルーベイ大公爵領にある村の1つだ。
アルベロは、静かに、力強く語った。
「俺がほんのガキの頃、俺の村の辺り一帯は、酷い凶作になったんだ。俺の両親は途方に暮れて、もうみんなで首を縊るしかないって悲嘆していた。その時、助けてくれたんだ。お前の父、クロード様がな」
ユリオが生まれて、すぐの頃の話だ。
凶作で苦しんだ領民のために、クロードは私財を投じたのだ。
それでアルベロの村の住民は、みんな助かったのだと言う。
「俺は誓ったね。この身は、クロード様のものだと。いつかきっとクロード様のために働ける勇士になろうとな。何せ俺は、腕っ節しか取り柄がないから、戦士の仕事しかできない。クロード様に認められる戦士になるため、日々鍛錬を積んでいたんだ。でも、クロード様は、俺が出征志願できる年齢になる前に、戦死してしまった。それからは、ユリオ、あんたを俺の主だと決めていたんだ。あんたのことは、去年、コルソヴァ村に巡行に来た時、しっかり顔を拝んでいた。付け髭と鬘でなんか誤魔化せやしねえよ。ここで出会えて、やっと願いを果たすことができた。あんたを助けることができた。どうだ、クロード様に助けられた村のガキ、一廉の戦士にはなっただろう?」
「う、うん……ありがとう」
とりあえず。
正体がバレてもよかったんだ。少なくともこのアルベロには。
ルルが、口を挟む。
「でも、どうして私たちを縛ったの?」
ああ、と笑うアルベロ。
「お前たち、薬が切れて、急に目を覚ましたらどうする? 荷台に積まれて、どこかに運び去られる。びっくりして、飛び降りて逃げようとするだろ? それで追いかけてきたラドゥマの餌食になる。それを心配したんだ。あれこれ細かく説明している暇はないからな」
そういうことか。
ともあれ助かったんだ。凶悪追剥団と、凄腕賞金稼ぎに目をつけられたってのに。
そういえば。
アルベロがコステクの宿で出会ったチンピラ、ユリオの正体を見抜いたらしい2人組はどうなったのか? 気になるが、アルベロも、わからない、勝手に逃げたみたいだ、との返事であった。
アルベロに、これからどうするのか? と訊かれたユリオ、西の大森林へ行くと応えた。そこに某筋から隠れ家を提供されていると、適当な嘘をついておいた。アルベロは信用が置けるが、何でもかんでも全て話してしまう必要はない。
「そうか、じゃ、お別れだな。本当はずっとお前の護衛をしたいんだけどな。実は、そうはいかんのだ。村に残した母親が、病気で容体を悪くしている、そういう便りが来たんだ。だから、この仕事を片付けたら、一旦村に帰る、最初からそのつもりだったんだ。ユリオ、達者でな。お前が謀反人だなんて、誰も信じちゃいねえぜ。必ずお前は復活する。みんな、そう信じている。簡単にくたばるなよ。戦士が必要なときには、いつでもコルソヴァ村のアルベロを頼りにしてくれ」
「わかった。ありがとう」
アルベロは、荷馬車にラドゥマ一味の亡骸と荷物を載せる。これから代官所に行って、賞金首ラドゥマを討ったと申告し、金貨300デュエルを受け取るのだ。アルベロの名も、また上がるだろう。
別れ際に、アルベロは、首飾りを一つ、取り出した。
「これ、持っていってくれ」
首飾り。鎖に、小さな不気味な頭蓋骨が嵌められている。
「なに、これ?」
「大蛇マドゥラの頭だ」
「大蛇マドゥラ?」
「ああ、俺もよくわからんが、ものすごく貴重で珍しいものらしい。俺が捕まえた大盗賊のセリエムトが持っていたんだ。どっかの大貴族から盗んだものだと。気になったんで代官所には届けず、俺がずっと持ってたんだけどな。使い途もわからんし、ちょうどいい、お前のものにしてくれ。こういうのは、戦士より、大貴族様のほうが似合うかな」
「そう……」
とりあえず、貰っておくことにした。
じゃあな、と御者台で手を振るアルベロ。
去り行く荷馬車を見送るユリオ一行。
なんだか、コステクの宿で気を失ってから、あっという間の出来事だった。ともあれ、アルベロが凄まじい剣の使い手なのはわかった。あの調子なら、王国で評判の剣士になるのも時間の問題だろう。それがユリオに、絶対の忠誠を誓っているのだ。
なんとも心強い。今度はいつ会えるのだろうか。
そして。
大蛇マドゥラの頭蓋骨の首飾り。
「ルル、これ、何かわかる?」
「うーん、大蛇マドゥラ……どこかの魔術書に出てきたような気がするけど……何だったか思い出せないな。たぶん、魔法に関わるものよ」
「ふうん、いくらくらいの値段がつくのかな」
「値の付けられないなもの。よかったじゃない。大事にとっときなよ」
◇
「さて、行くとしようか」
ユリオたちは、追剥一味の乗っていた馬で行くことにした。アルベロにそう勧められたのだ。馬があるのだ。わざわざ、コステクに戻る必要は無い。
ユリオもエミナも、幼少より武人の鍛錬をしている。騎乗は何の問題もない。
「ルルは?」
美少女は、うーんと、
「乗馬クラブで、ちょっと乗ったことはあるけど……」
さすが上級お嬢様、琴見咲良だ。乗馬クラブときたか。
しかしーー
「馬で旅するんだぜ。安全なコースをパカパカ行くのとは、だいぶ違う。街道でも、急に追われて駆け出さなきゃいけなかったり、道が悪くなったり、いくらでもある。無理するな。俺の後ろに乗って、つかまっていな。それでいいから」
「う、うん。ありがと」
「さあ、お嬢さん、お手を」
ユリオは、ラドゥマの乗っていた一番立派な馬を選んだ。先に乗って、ルルに手を差し伸べる。
そのまま手を握って、引き上げる。
ウホッ、
ルルの手を握れた……
手を握るのは初めてじゃないけど。
普段、指1本触れのも難しいので。
こうして何気なく手を握るだけでも、うきゅっ、となる。
尊い!
ああ、このまま蹂躙してしまいたい!
俺の奴隷!
ラドゥマの馬の背には、立派な大きな鞍があった。十分2人乗りできた。
「ルル、遠慮しないで、しっかりつかまってね」
「うん」
内心、ルルがかじりついてきて、女神の豊満すぎる胸が自分の背に押し当てられるんじゃないか、などと期待したユリオだったが、ルルがしっかりと握ったのは、ユリオの腰帯だった。
ちょっとガッカリ。
でも、美少女はすぐ後ろにいる。
髪の甘い匂いも。
「じゃ、行くよ」
馬を走らせる。エミナは、ユリオに馬に乗せてもらうルルを羨ましそうに見ていた。
「ルル、今日は危なかったのに、なんで魔法使わなかったの。結果的には使わなくても助かったけどさ。どう考えても魔法ズドンの場面だったよ」
「信頼できたから」
「え?」
「アルベロって人よ。すっごく優しい目であなたのことを見ていた。これは信頼できる、そう思ったの」
おいおい。
ドルジェで詐欺グループに2度も騙されたこと、もう忘れてるのか。目を見りゃわかるだなんて。
「あ、エミナも思いました!」
すぐ傍に馬を並べるエミナも、胸を張る。
「絶対いい人だなって思いました。やっぱりクロード様を尊敬する方だったんですね! クロード様を知る人に、悪い人はいません!」
あちゃー、と毎度ながら頭痛の痛くなるユリオ。
勇者女神モードに、正義突撃モードか。
紙一重で命を亡くすところだったのに、無邪気なもんだ。
◇
荷馬車と2頭の馬が、反対方向に分かれ去った後。
血闘のあった場所からやや離れた茂みが、ゴソゴソと動いた。
現れたのは、セムトとロムニ。
この2人、一旦荷馬車から飛び降りて茂みに隠れたが、すぐ、ラドゥマ一味が追いかけてきたので、姿を現すのは危険と見て、ずっと茂みに隠れていたのだ。
アルベロの血闘も遠くから見て、肝を潰していた。
やっと。
誰もいなかったので、出てきたのである。
キョロキョロする2人。
何かおこぼれはないか?
どういう闘いだったのか、それはよくわからない。でも事情なんてどうでもいい。
あれだけの人数が殺されたのだ。ひょっとして何か、落ちてないか?
もう、日没。
薄暗い中、必死に探る。
「あっ!」
セムトが、茂みから、小さな革袋を拾い上げた。
「見てみろ」
革袋の中身は、金貨だった。最後の陽の中、ハイエナ2人は必死に数える。
12枚あった。金貨12デュエル(約120万円)。ラドゥマが落としたものだった。アルベロの剣に斬り裂かれた時、鎖帷子の内側に蔵ってあったのが飛んで、茂みの中に転がったのである。
「やったぞ!」
叫ぶセムト。
「大勝利だ!」
ロムニも。
ホクホク顔の2人。
追剥一味の馬も、まだ6頭所在なげに残っていた。
なるべく良さそうなのを選び、飛び乗る。縄で繋いで、残りの馬も引いていく。この馬も、高く売れるだろう。
「兄貴、良かったな」
鼻歌交じりで騎行のロムニ。
「おうよ」
セムトも。
「それもこれも、俺たちの心がけがよかったからだ。デカい悪事は踏まねえ、身の丈に合った稼ぎをする。小さな悪事をコツコツと。この気持ちを忘れちゃならねえな。アルベロの奴、評判以上のヤバいやつだったぜ」
あの剣技を思い出しただけで、身が竦む。
「逃げようって言ったのは、俺だぜ」
得意顔のロムニ。
ユリオの空情報から、とんでもない儲けが生まれたものだ。
意気揚々と街道を行く2人。
一方。
空情報に名を使われただけとは知る由もないユリオは。
チンピラなんぞに変装の正体を見抜かれたかと、しばらくの間、ビクビクし通しであった。
( 賞金稼ぎのアルベロ 了 )




