なんて……なんて……最高のショーなんだッ!
ほんの少しだけサイコ要素があります。
ほんの一つまみ分。カップヌードルに入ってるネギくらい。
武装カード【ガールズ・ファイトミラー】で強化されたので、場の【JKガールズ・深緑のリリカ】のAPは1200ポイントに強化されている。対して、スズの場に並ぶ3体の【LNGミント・ソルジャー】はAP500ポイントのクソ雑魚だ。
「さぁ我が僕のリリカよ。目の前の虫けらどもを蹂躙し、死と絶望を与えるがいい」
『……もうちょっとマシな表現できませんか?いくらなんでも魔王すぎるというか』
『うおー!リリカがんばえー!存在価値のない雑草どもをすり潰して立場をわきまえさせろー!』
『ホムラちゃんまで!?ど、どうしてそんな酷いことを言うの!?』
魔法ロッドを掲げたリリカは、祈るように魔法陣を形成している。少女の周りには青々とした樹木たちが身を揺らしている。深緑と名前につくだけあって、森林などをモチーフにした魔法少女らしい姿だ。
『くっ!行きます!ピュアウィップ!』
リリカが目を開くとともに、樹木の根が敵に襲い掛かる。頭にミントを生やした少女は、小さな盾を構えて防御しようとするが、大きな樹根に耐え切れず押し潰されてしまう。
プチッという小気味いい音を上げて、血飛沫で色鮮やかな花を地面に咲かせた。綺麗な花を見ることができて心が洗われる。
『え?あれ?え?な、なぜ……?』
「リリカって、優しい子なんだね」
『え?……あ、うん。そうだね、リリカは優しいよ?』
怪訝な表情を浮かべたホムラの頭を撫でてやる。よくわかっているじゃないか、褒めてつかわす。クソ雑魚アタッカーが死んだ程度のことで涙を浮かべられる娘は、優しいと思う。私の基準では。
慌てふためいているリリカの狼狽えた表情がなんとも愛らしい。自分の意図しないグロテスクな攻撃に困惑しているようだった。清楚な乙女が泣きそうになりながらオロオロしている姿は見ていて気持ちが良い。
本来の彼女の魔法攻撃は、樹木の力を借りて敵を抑え込んだりするものだった。鞭のように攻撃することはあっても、圧殺するようなグロい攻撃方法なんてなかったはず。
どういうわけか私がバトルユニットを使ってカードバトルすると、たちまちエフェクトがリアルでグロテスクになる。その影響がリリカにも出ているのだろう。まぁ、各々のJKガールズならではの残虐な攻撃は見ていて胸が高鳴るから全然良いのだけどね。
残された2体の【LNGミント・ソルジャー】は、血だまりの近くにへたり込んで大泣きしている。甲高い声で泣きわめく姿は、なんだかコミカルに見えて、傍から見る分には中々面白い。
『きゃはは!見てよマスター!負け犬が無様に泣いてるよ!これから自分たちも後を追うのにね!』
「ふふ、滑稽だね。弱き者から狩られるのが自然の摂理なのに。群れからはぐれた羊は生き残れない」
『どうして女子会みたいな和やかな雰囲気で笑っていられるんですか!?小さな女の子が死んでるんですよ!?ホムラちゃんも極悪非道なマスターに染まらないでっ!』
「なんて酷いことをするの……!?スルメちゃんを惑わすメスが……!邪悪の塊……!」
『何で私が非難されてるんですかぁっ!?』
だって所詮はカードだもん。ねー、とホムラと一緒に笑い合った。スズと遺された雑草女たちが、リリカを恨めしそうに睨んでいるけど、カードバトルだから仕方ないね。力なき己を恨むがいい。
そんなことより状況整理だ。アタッカーを展開するため、スズはすでに1000ELを消費している。これで残りELは2300ポイント。だけどスズは2枚伏せていたカードのうち、1枚を発動してきた。
「場のアタッカーが戦闘で破壊されたから、私はカウンタースペル【復讐の誓い】を発動できる!デッキからハイグレードアタッカーを1体手札に加えられる」
「むむ……。じゃあ私はカードを1枚伏せてターンエンド」
「私のターン!ドロー!……うん、いいね。今からスルメちゃんに見せてあげるよ!私の愛の束縛タクティクスを!」
『な!?気を付けてマスター!さっきよりも多くの黒い靄をまとってる!きっと強力なカードを引いたんだ!』
ホムラの言葉に気を引き締める。どうやら次のターンに仕掛けるみたいだ。
「私は場のアタッカーを1体生贄に捧げて、ハイグレードアタッカー【LNGデルフィニウムの尋問官】を召喚するよ!高貴で傲慢な尋問官が場に存在する限り、相手はアタッカーを通常召喚・生贄召喚できない!」
薄い水色と紫色の軍服風ドレスをまとった華奢な少女があらわれる。指揮杖を手にした嗜虐的な笑みを浮かべる尋問官は、APが1000しかないけども強力なロック効果を持っていた。
そう。スズが使うLNGカテゴリは、相手の盤面や展開を制限するロック効果に特徴がある。私の行動を制限することで勝利する魂胆らしい。
そして気づけば、デルフィニウムが私の脚に巻き付いている。
「私を包みこむ綺麗なお花。そっか……これがスズの愛なんだね。暖かいなぁ……」
『いや!?ミチミチ音を立てて締め上げてますけど!?』
『マスターってスズちゃんのことになるとIQ下がるよね~……』
骨が軋む音とか聞こえるけど、きっと勘違いだ。歩きすぎて疲れたのか脚が痛い。
「さらに私はスペル【食虫花の誘惑】を発動!場のLNGと名の付くアタッカー1体を墓地に送り、500ELをコストとして支払うことで、手札からトップグレードアタッカー【LNGネペンテス・ガンナー】を特別召喚できる!」
場のちびっ子ミント戦士が毒々しい蕾に包まれる。そして食虫花の大輪が咲くとともに、場に小柄な魔女っ子が飛び出してきた。ウツボカズラを模したカノン砲を背負った幼女は、影のある笑みを浮かべている。
「AP2000?トップグレードアタッカーにしてはステータスが低いけど……」
「ふふふ。この娘の真価は殲滅力だよ?1ターンに1度、相手の場に存在するアタッカー1体を破壊できるんだ」
『……え?』
『あー、またそういう展開ねー。リリカってばすぐ死ぬんだからー』
「なんだよ。せっかく武装カードを装着してやったのに。リリカも情けないね」
『なんなんですか2人とも!?私殺されるんですよ!?い、いやだ!こんなだらけた空気の中で死にたくない!ホムラちゃんとのラブラブコンビネーションもまだなのに!』
「黙れ!薄汚い虫けらが!愛と狂気に満ちた食虫花の魔女よ!他人の恋路を邪魔する羽虫をその溶解液で消し去れ!アシッド・レイン!」
カノン砲から放たれた毒々しい液体を全身に浴びる。
刹那、魔法少女の悲鳴と絶叫が轟いた。
見ると、リリカの肉体がじゅうじゅうと煙を出して溶けていく。皮膚は中華あんのように滴り落ち、筋繊維と骨があらわになる。そして、それさえも魔女の毒液によって溶け始めていた。悪魔の産声のような慟哭をBGMに、ゆっくりと時間をかけながら、しかし着実に深窓の令嬢を醜い肉塊へと変化させていく。今のリリカは、さしずめゾンビのようだ。
『……ぇ、あ……。…………うそだうそだうそだちがうわたしはちがうちがうちがうやだやだやだ』
先ほどまで元気だったホムラが、目を見開いて愕然としている。
愛する友の命が尽きようとしている場面に恐怖したのかと思ったけど、様子がおかしい。何やら早口で言葉を繰り返している。断片的に聞き取れたが、リリカの死を恐れる内容ではなかった。むしろ、自分に対して暗示しているようだ。
『ちが……っ、ちが、う……』
ホムラの視界に映っているのは、もはやリリカではなかった。
爛れた皮膚。剥き出しの骨。滴り落ちる、自分の肉。
何度も。何度も。何度も繰り返された、あの感覚。スペルに侵食されるたびに自分が自分でなくなっていく、あの恐怖。指先から腐っていく感触。魔法少女である自分が、ただの腐肉に成り下がっていく瞬間。
ホムラは自分の手を見た。普通の手だ。爪も、皮膚も、ちゃんとある。
でも。でも。でも。それがドロリと溶け落ちる感覚で脳が支配される。
『わ、私は……』
喉が震えて言葉が出ない。正しい言葉を探そうとするのに、頭の中が白く塗り潰されていく。
代わりに浮かぶのは、呪いのように刷り込まれた問いだけだ。ホムラの周りを黒い靄が漂う。
お前は、本当に人間か?
『私は……にんげん……正義の、まほうしょうじょ……』
ホムラの声が震える。自分に言い聞かせるように、祈るように、縋るように繰り返す。
原形が崩れて肉塊になりつつあるリリカは、最後の力を振り絞って手を伸ばす。悪夢に苛まれて自問自答を繰り返す幼馴染に。
『ホ……ムラ……ちゃ……たす……け……』
『ひっ……!?近寄るな化け物ッ!』
乾いた音が鳴り、場は静寂に包まれた。
救いを求めてリリカが伸ばした手を、溶けかかっているそれを、ホムラは払いのけたのだ。
誰よりも信頼している大好きな幼馴染による拒絶に、リリカは言葉を失う。
『……ぇ……ぁ……?』
『わ、私はッ!私はッ!ゾンビじゃないッ!』
ホムラの瞳に映ったのは、大好きな幼馴染でも、液状化する人体でもない。かつて、スペルでゾンビ化させられた自分自身の姿だった。幾千も繰り返され、エースアタッカーに喰われ、一時はアイデンティティクライシスに陥るほどのPTSDを発症していたその記憶は、彼女の魂に深い爪痕を残していた。
『ほ……ぅ……ぁ……』
『違う!違う!違うッ!私はみんなに愛される正義の味方ッ!可愛くてカッコいい魔法少女ッ!』
『ど……、し…………て……』
『わたしはにんげん!にんげん!にんげん!ぞんびじゃない!ぞんびじゃない!ぞんびじゃないぃぃ!』
血走った眼でガリガリと頭を掻きむしり癇癪を起こすホムラに、全身がドロドロに爛れたリリカは手を伸ばす。拒絶されてもなお、愛する幼馴染を心配して、優しくホムラを抱きしめようとしたのだろう。
いや……あるいは、その手に込められたのは疑問と絶望かもしれない。心の通じ合った幼馴染の豹変に理解が追いつかず、ただただ縋るように、あるいは非難するように、手を伸ばしたのかもしれない。
いずれにしても食中花の毒に蝕まれたリリカは、本来の力を失っている。最後の力を振り絞ったものの、筋繊維の残骸と骨だけになった手は、ホムラに届くことなく空を切った。
溶けることなく残ったのは、骨と一部の肉塊、そして漆黒の闇が刻み込まれた眼球だけだった。
私はその光景を、呼吸を忘れたまま見ていた。愛し合う幼馴染がすれ違い、どちらも壊れかけている。それは痛ましい場面のはずだ。
なのに、なぜだろうか。口元が、ゆるんでいた。
自分でも気づかないうちに。気づいたときにはもう、止められなかった。背筋を雷のように走り抜けた何かが、下腹部にじんわりと落ちてくる。不道徳な多幸感だと分かっていた。分かっていて、でも手で口を抑えることしかできなかった。
なんて……なんて……最高のショーなんだッ!
弧を描いて震える口元を手で抑えるが、笑みがこぼれてしまう。快楽物質が全身に広がったせいだろう。脳内麻薬に支配された頭部は甘く蕩けていて、下腹部の多幸感で、気を抜いたら漏らしてしまいそうになる。
『やだっ!やだ!やだぁっ!こないでっ!こないでよぉっ!嫌われ者の蟲のくせにっ!なんでっ!なんで私を食べるのっ……!?私は正義の魔法少女でゾンビじゃない!ゾンビじゃないのにぃっ!』
「ん、ん~っ……!…………ふぅ。ほむらぁ、だいじょうぶだよお」
『ますたぁ……?ますたぁ!』
「おー、よしよし。つらかったねぇ。こわかったねぇ」
勢いよく抱きついてきたホムラの背中をさする。不安で満ちた鼓動が感じられた。やわらかくて、あたたかい。生きている。よかった、まだ壊れていない。
気のせいだろうか。ホムラを定義する魂のようなものが、酷く揺れ動いているような感覚がする。
いつの間にかホムラの傍を浮遊していた黒い靄が私の中へと戻る。あと少し。何かきっかけがあれば、きっとホムラの本心を暴き、心をこじ開けられそうだ。どんな風になるのか、今から楽しみで仕方がない。
「……っ!」
「あーあ……。やっぱりスルメちゃんってダメだなー……」
呆れるようにボソッとこぼされた言葉に突如、空気が張り詰めて自然と背筋が伸びる。恐ろしいオーラをまとったスズが目を細めて笑みを浮かべていたのだ。薄目なのではっきりとは見えないが、その瞳は漆黒のように先の見えない闇で満ちている。
「あ、いや、その。か、勘違いしないでよスズ!これは未熟な雑魚アタッカーを戦線に送り出すための儀式だから!ホムラが好きとかそういうのじゃなくて!一番愛してるのはスズだから!」
「ふふふ。大丈夫だよスルメちゃん。今さら浮気とか関係ないよ。だって、このバトルに私が勝ったら、スルメちゃんを永遠にお家に閉じ込めるんだから」
「ヒエッ。できれば……自由が欲しいというか。ほら、私って白鳥のように美しく自由な存在だから」
「蛾みたいに飛び回って火に突っ込んだり、粉かけて他人を誘惑するくせに?だめだよスルメちゃん。悪い虫さんは標本にして飾ってあげるからね」
ダメだ。何を言っても聞いてくれなさそうだ。こうなったらカードバトルで勝つしかない。
「ば、場に存在する【JKガールズ・深緑のリリカ】が墓地に送られたとき、500ELのダメージを与えるとともに、山札から【ガールズ】と名の付くスペルを手札に加えられる。私は【ガールズ・アッセンブル】を手札に加える」
「なら私は【LNGネペンテス・ガンナー】で直接攻撃。浮気者にはお仕置きだよ」
「え?は?…………ぐぼぇぇぇえっ!」
『ますたぁ……?』
いつの間にか目の前までやって来た魔女っ子が、私の鳩尾にライフルを叩き込んだ。突然の衝撃に、賄いで貰ったカレーをすべて吐き出してしまう。酸味が口の中に広がり、視界がぼやける。痛い!
「まだまだぁ!【LNGデルフィニウムの尋問官】で直接攻撃!フラワー・スパンキング!」
「はぁ……はぁ……。ぇ?……いだぁっ!」
『あ……だ、だいじょうぶ?ますたぁ?』
お腹を抑えて蹲っていたら、サディスティックな少女にお尻を引っ叩かれた。あまりの痛みに歯を食いしばる。ママにお尻ペンペンされた時と同じくらい辛い!
目尻に涙が浮かぶ。攻撃されたところを触ったら、ジーンと痛みが広がった。
「ごめんねスルメちゃん。でもこの痛みも私からの愛なの。受け取ってくれるよね?」
「ぅ……くぅっ……。も、もちろんだょ……」
「うれしい!やっぱりスルメちゃんは私のヒーローなんだね!大好き!」
「うぅ……くすん……」
『ご、ごめんっ!私が守るべきなのにっ!』
「ぐす……こんかいはいいよ。つぎからしょーじんするがいい」
『うぅ~……!ますたぁ!』
「ぅ……。いたぃ……」
ホムラに強く抱きつかれて痛みが増す。正直泣きそうになったけど、スズから発せられる嫉妬の圧に負けてしまい涙も引っ込んだ。私の幼馴染の愛が重すぎて怖い……。
とにかく。これでスズのELは残り1300ポイント、私は1000ポイント。しかもスズの場には強力な効果を持つアタッカー2体がいて、カウンタースペルも1枚伏せられている。はっきり言って劣勢だ。
どうにか打開できるカードを引けないか。私はデッキに手を伸ばした。
コロナ、インフルエンザ、鬱で更新が遅れました……。
申し訳ございませんでした。感想、評価など本当にありがとうございます。
ベストを尽くしたのですが、面白くなかったらごめんなさい。
不定期、鈍足更新ですがこれからもどうかよろしくお願いします。




