季節の変わり目に厄介ごとはやってくる
久しぶりのビークロイドに興奮しました。ブーブー好きだから嬉しい。
当時、デッキを組んだらサイバー流にフルボッコされた思い出。
やはり弟は兄を越えられないのか……。
あとガンダムは、ニャアンとマチュの百合だと思って喜んでいたら、そんなことはなかったぜ!悲しい……。
そんな色々な悲しみを背負った上での更新です。
祝日の真昼間に訪れた西新十区鉄道の傾奇町駅前は、大勢の人で賑わっていた。学生やカップルだけでなく、かなり年の差がある男女やならず者、外国人など色々で、飛び交う話題や言葉も多種多様だ。
老朽化ビルの屋上にあるビルボードを見ると、ホストクラブ以外の広告も貼られていた。「黒光りエナジー注入で夜もビンビン」などと謳う医療クリニック、「カードの声を聴いたスピリチャルパワーでレス回避」とアピールする宗教団体。土地柄なのか変な団体の広告が目立つ。
また交差点の向かいにある商業施設の大型ビジョンでは、アーティストの宣伝や最新ニュースと天気予報が流されていた。さっきからニュースは、フリーダムユニオンのドンナ・トラップ大統領による「相互挿入関税」の話題で持ちきりだ。どうやら相互挿入できる男の娘以外は課税3000倍となるらしい。
相変わらずこの世界はイカれている。
最寄りのパチンコホール「デスカス二択」の近くで、私はスズを待っていた。ここはパチンコ化した有名アニメの巨大看板を設置しているので非常に目立つ。最近は人気の『P引きこもります!アマテラスちゃん2』に登場する主要キャラが勢ぞろいした看板なので、ファンとしては眺めているだけで楽しい。
『あ……!じゃ、じゃあねマスター!また後で!』
「え?」
他愛もない話で雑談していたら、突然ホムラは慌てたような様子で身をくらませた。
一体何がと思っていたら背後から愛しの幼馴染が抱きついてきた。なるほど、スズが怖くてあのアホは逃げたのか。小学生にビビるなんて情けない魔法少女。だから低APなんだよ雑魚が。
私に抱き着いてきたスズは、落ち着いた水色のワンピースを着こなしていて、中々の清楚美少女に見えた。流石は私の嫁である。
「スルメちゃーん!ごめんね!待った?あっ……うん、長袖Tシャツにジーパンかぁ……」
「なに?変?」
「うん変だよ凄く変あり得ないというか言葉にするのも憚られるくらいにおかしいもっとフリフリのドレスとか身体のラインが出る服装とか露出度の高いエッチなコスプレとかせめて最低限ホットパンツじゃないとダメだようんなんなの馬鹿にしてるの魅惑のボディをそんな隠してカマトトぶるなんて傾奇町いや人類の損失だよ悲しいよ私苦しいよ私神は死んだんだねだから2人で新しいアダムとイブになろうよいやイブとイブだねうふふふ」
「落ち着いてスズ。どうどう」
「フーッ……!フーッ……!ごめん、スルメちゃん。ちょっと真夏の暑さにあてられちゃった」
「今、5月ですけど?」
なんなら少し肌寒いくらいだけど。てか黒い靄が少しチラついた気がした。まぁ、すぐ消えたしいいか。
これから2人でカンナさんのカードショップに行くのだ。カードバトル大会が開かれた傾奇町デスタワーや、有名な飲み屋街である「金球街」などを通り過ぎて、お店へと向かう。
「そういえばスルメちゃん。ドブ袋ハンシャインシティのハンシャタウンが閉鎖されるって知ってた?」
「え、知らない。マジで?鉄砲玉のワン・ザ・キッド好きだったのに……」
「寂しいよね。でも最近はお客さん減ってたみたいだし、仕方ないのかも」
「そこまで栄えてなかったけどさ、なんで今になって閉めちゃうの?」
「うーん……なんか裏組織とのつながりが問題視されたんだって。数年後にはリニューアルオープンするって話らしいけど、よくわかんない」
「ハンシャタウンか。昔、ヤクジュと何度も行ったよね」
「そうそう!スルメちゃんがよく迷子になって一緒に探し回ったの覚えてるよ!ヤクジュちゃん、元気にしてるかなー?」
道中は昔話に花を咲かせた。1040区にあるターミナル駅のドブ袋の近くには大型商業施設の「ハンシャインシティ」があるのだが、そこのテーマパークがどうやら閉鎖するらしい。
幼稚園に入りたての頃、カードの精霊であるメンヘラクソ女が暴走する前、の幼馴染との思い出を懐かしむ。あの事件が起こってからヤクジュやカルティとは連絡を取れていない。果たして元気にやっているのだろうか。
そんなことを考えていたら、いつの間にかカンナさんの「カードショップ不夜城RED」の前に到着していた。扉に手をかけようとしたら、店内から大声が聞こえてくる。
「なんだって!?またコンカフェが襲撃されたのか!?いくら何でも多すぎだろ……っ!」
「半グレや外国人ギャングが、傾奇町で幅を利かせるようになってから、治安がさらに悪くなりました。風俗店などでも、カードバトルで事件が起きていると聞きます」
「くそっ!真正宝傾組が独立したせいで傾奇町は滅茶苦茶だ!新しい警察当局の局長は腰抜けの小役人だし家政宝傾組も代替わり直後で頼りにならねぇ。アタシらでどうにかするっきゃねぇのか……?」
なんか大変そうだ。色々と揉め事があるみたい。
スズと顔を見合わせて入店するか迷っていたら、ガチャリと扉が開いた。中から出てきたのは、気だるげな半目のメイド女だ。漆黒のヴィクトリアンメイド型のドレスを着こなし、赤いメッシュの入った深緑色のロングヘアをポニーテールでまとめている。なんというか、キリッとした美少女だ。公荘レジィといい、どうやらカンナさんの好みはスラッとしていて気の強そうな女性らしい。
小学生からしたら、平均的な背丈とはいえ背筋を伸ばしてジト目で見下ろしてくるメイドは恐怖の対象だ。怯えたスズがギュッと腕をつかんできた。豊満なバストがムニュムニュと押し付けられる。おっほ!
「失礼。貴女方はいったいどちら様でございましょうか?御用がないようでしたら直ちにお引き取りくださいますよう、お願い申し上げます」
「……私は神引スルメ。カンナさんの恩人。カードを貰いに来た」
「はぁ?いったい何をおっしゃるかと思えば……礼儀を弁えぬ無礼千万にも程があります。只今、愛しきご主人様との秘め事に興じておりますゆえ、誠に僭越ながらクソガキサマは大変目障りに存じ上げます」
「あ?」
「恐縮ではございますが何卒この場より即刻ご退出賜りますよう、伏してお願い申し上げます」
なんだこいつ。さっきから慇懃無礼で随分と喧嘩腰じゃないか。スカートの端をつかんで恭しくお辞儀をしてきやがった。中々立派なカーテシーだが「とっとと帰れクソガキ」というメッセージを強く感じる。
愛する幼馴染にカッコ悪い姿は見せられない。ムムムとにらみ合っていると、メイド女の後ろからカンナさんが現れた。
さり気なくメイドの肩に手を置いて、身体を寄せている。流石は傾奇町で数多の浮名をとどろかせたプレイガール。案の定、メイドは満更でもなさそうに頬を赤らめて身体をモジモジとさせている。
ぺっ……所詮はカンナさん大好きクラブの女か。ビビって損したわ。
「おいおいズイ、どうしたんだ?って、スルメじゃねぇか!相変わらず死んだ魚みてぇな目してるな!」
「この間のカードバトル大会のお礼を貰いに来た。有りカード全部寄越せ」
「ははっ!ぶっ飛ばすぞクソガキ。まぁいいや!ほら、入った!入った!」
店に入る途中でメイド女、ズイを見ると心底不愉快そうな表情で、エプロンのポケットから取り出したカトラリーを拭いていた。真っ黒な布巾でステーキナイフをゴシゴシと乱暴に磨いている。どうやら一泡吹かせられたようだ。ざまぁ。
そんなこんなでカードパックやシングルカードをオマケしてもらいながら、スズと2人でデッキを組みなおす。【JKガールズ・深緑のリリカ】は、サーチ効果と墓地肥やしの能力があるので、上手く合わせられそうなグロカードを選ばないと。
店内の空きスペースでカードを吟味していたら、隣に並んで座っていたスズがカンナさんに声をかけた。
「そういえば、さっきは何の話をしていたんですか?コンカフェが襲撃、とか」
「あー……まぁ、あれだ。最近は治安悪いから気をつけようって話だ!お前たちもあんま夜遅くまで出歩くなよ!傾奇町にはならず者も多いからな!」
バツの悪そうな顔で頬をかくカンナさん。明らかに話をそらそうとしている。
「え、でも……」
「ねぇ、スズ。このカードどうかな?デッキに入れた方がいいと思う?」
「あっ……えっと、うん。そうだね、いいと思うよ」
「ありがとう」
不安そうなスズには悪いけど、この話題は終わりにしよう。関わらないが吉だ。
夜に外を歩いたり、出歩くときに繁華街を避ければ、きっと大丈夫なはずだ。いくらこの世界がホビーアニメの舞台とはいえ、小学生がトラブルを解決できるとは思えない。
それに、今は我がデッキの強化が最優先だ。この邪悪な雰囲気の武装カードは3人娘と組み合わせが良いんじゃないかな。
「そういえばカンナさん。カードちょうだい。トーナメント大会で優勝したでしょ?」
「しょうがねぇなぁ。ほら、このゾンビ族のアタッカーはどうだ?お前が好きそうな効果だろ?」
「おぉ……!」
これはいいカードだ。キラキラ黒光りしていて高そう。
なぜかカンナさんは心底嫌そうな表情で、汚物をつまむように持ってきたけど、こんな素敵なカードを雑に扱うなんておかしい。カードを愛さないヤツはサイテーだ。早く営業許可剥奪されろ。
『やめてよッ!これ以上、禍々しいカードを増やさないでッ!マスターが変なカードを入れるせいで腐敗臭と湿気がドンドンすごくなっていて暮らしづらくなる一方なんだからねッ!?』
「黙ってろアホ」
『環境破壊はんたーい!私たちの住環境を壊すなー!地域社会を無視したデッキ構築はんたーい!景観を損なう事業者利益優先のデッキ再開発を断固許すなー!』
「うるさいなぁ……」
脳内にアホムラの叫び声が鳴り響く。うるさいカードの精霊だ、図に乗るなよ。カードに人権なんてないんだから、環境権は端から存在しない。それに私はドンナ・トラップと違って排外主義者じゃないから、グロテスクなカードや邪悪なカードなら、いくらでもデッキに受け入れてあげるんだ。差別主義者のアホムラにはぜひとも寛容な精神を持ってもらいたいものだ。
「クソガキサマ、こちらのカードはいかがでしょうか?」
「スペル【誘爆爆撃】?なにその微妙なハンデスカード。いらない」
「では、こちらはいかがでしょうか?」
「武装カード【ダイナマイトチェーンメイル】?バーン効果しかないじゃん。いらない。てか、お姉さんカード選びのセンスないね」
「クソガキが……舐めてると潰すぞ……」
「あ?」
「スルメちゃん……どうどう」
危ない。思わず手が出そうになった。フォーク片手に威嚇してくるメイド女ことズイも、カンナさんに抑えられている。ふんっ……大人げないヤツだ。
色々あったが、中々良いデッキが組めた気がする。
・・・・・・・・・
そんなこんなで、スズやカンナさんとデッキを組んでいたら、夕方になってしまった。
有名人であるカンナさんと、変な格好をしたメイド女のズイが付き添いで来てくれたせいで、人目が気になる。少し怯えているように見えるスズの手をぎゅっと握る。
安心したかのように満面の笑みで私を見つめてきた。うん、今日も私の幼馴染は可愛い。
「さて、ここまでくればもう安心だな。気をつけて帰れよ」
「夏になると変人・奇人が増えますから。どうかお気を付けくださいませ」
「まだ5月じゃん。そんな虫みたいな奴らが出てくるにはまだはや」
「うわぁあああああん!もうお終いだぁああああ!死んでやるぅ!死んでやるぅぅぅうう!」
駅前広場で解散しようとしたら、上の方から突然少女の叫び声がした。言ったそばから厄介ごとがやってくるなんて、最悪だ。
見上げると、古びた雑居ビルの屋上から中学生くらいの少女が身を乗り出していた。モコモコのパジャマを着て号泣する姿は、以前ドキュメンタリー動画で見た家出女子をほうふつとさせる。一体なにがあったのか。
4階建ての低層ビルとはいえ、もし万が一落ちたら大けがじゃ済まないはずだ。
「なんだあいつ!?くそっ!そこを動くなよカワイ子ちゃんっ!行くぞスルメ!」
「は?」
「お待ちくださいご主人様!」
「カンナさん!?どうしてスルメちゃんをっ!?待ってくださいっ!」
どうして……どうして……。米俵のように抱えられた私は、カンナさんとともにビルの屋上へと向かった。
更新に時間がかかってすみません!中々上手くまとまらず……。
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