あっけなく死ぬなよ豚が
マチュとニャアンは百合だった……!
偉大なる鶴巻様、無知蒙昧な百合豚をどうかお許しください。
どのカードをどのタイミングで出そうか悩んでいたら遅くなってしまいました、申し訳ございません……。
今回出てくるのはAP500の雑魚です。
「いいか!屋上に着いたらお前はカードバトルをする!それでカワイ子ちゃんの自殺を止めるんだ!」
「おぶっ……えふっ……なぜ私っ……」
「大会でお前に負けたレジィは憑き物が落ちたように大人しくなった!今回も頼んだぞスルメ!」
「うぶっ……おえっ……はくっ……」
私を抱えたカンナさんは一段飛びで古ビルの階段を駆け上がっていく。その間、ぐわんぐわんと上下に激しく揺らされてドンドン気分が悪くなる一方だった。もはやリバース寸前だ。
そんな突撃の甲斐あってか、ものの数分でビルの屋上に到着した。するとカンナさんは、ヤクザキックでドアを蹴破り、私を地面に放り投げると、大声で自殺間近の少女へと呼びかけた。
「待つんだカワイ子ちゃん!生きていれば良いことあるから落ち着け!てかお姉さんとイイことしようぜ!?飛び降りよりも圧倒的な浮遊感のある絶頂を体感させてやるよ!」
「オロロロロー!」
『うわあ!マスターえんがちょ!三半規管よわよわ~!』
「ヴワアアア!きっしょいヤンキーおばさんとゲロガキが出たぁあああ!レン助けてぇ!」
私が四つん這いになってお昼のサンドイッチを嘔吐していたら、アホムラに煽られた。クソが。いずれ目にもの見せてやるから覚えとけよ。
すると、どこからともなく眠たげな表情の少女が現れた。おそらく中学生くらいのレンという少女は、どうやら自殺間近のメンヘラの友達らしい。困ったように頬をかいている。
「いやはや、お騒がせしてすみませんね~。でも心配ご無用~。お帰りいただいて大丈夫ですよ~」
「いやいや!そうはいくか!第一、屋上の端で突っ立ってたら危ないだろうが!」
「ドヘタレなヘラちゃんはどうせ自殺なんかできっこないので~。かまちょだから毎回あーだこーだ言ってるけどね~」
「ちょっと!?レンってば何言ってんのよ!今度こそウチは本気なんだからねっ!」
カンナさんたちがそんなやり取りをしていたら、地上から声が聞こえてきた。
「うおー!ヘラー!今日こそ飛び降りるんだぞー!」
「ヘラちいい加減根性見せろー!これで6回目じゃんかー!」
「ほい!飛び降りろっ!飛び降りろっ!あっそーれ!」
「汝今こそ我に死を見せよ。さすれば願いを叶えたまわん」
「も、も、も……もちろんよっ!見てなさいっ!今日こそ腐敗した現代社会に問題提起をッ!」
おそらく家出仲間であろう少年少女からのエールを受けて、ヘラと呼ばれたモコモコパジャマ女は一歩踏み出す。ただ、少しかがんでビルの下を見ると盛大に震え出した。
「ムリムリムリムリィッ!怖いッ!怖すぎて震えるッ……!」
「はぁ?」
「あー……やっぱ今回もダメかー」
「みんなかいさーん!ヘラちの自殺失敗だよー!」
へたり込んだメンヘラ女がゴキブリのごとくカサカサと屋上の端から離れると、興味を失った野次馬たちはぞろぞろと公園や広場へと散っていった。どうやら恒例行事らしい。
「きょ……今日はこれで満足!うん!ウチめっちゃ頑張った!」
「すっごい勢いで後ずさっている。ダッサ……」
『黄色い線の内側までおさがりくださーい』
てか、まだ後ずさってるんかい。屋上の端から2メートル近く離れるなんて、いくらなんでもビビりすぎだろうが。そんな私たちの冷たい視線に気づいたのか、小鹿みたいに足を震わせながらメンヘラ女は立ち上がった。
「うるさいうるさいうるさいっ!そうやってウチを虐めるんだ!みんなウチのことが嫌いなんだぁ!」
「顔と身体は結構イケるけど、内面がドブだからアタシはちょっとキツイな」
「ビービー騒々しいメンヘラなんか好きなヤツいないでしょ」
『マスターの言う通りだね……』
「ヴワァァアアアア!クソチビのくせにッ!正論吐いたッ!もうやだ!死んでやるッ!」
カンナさんのサイテー発言と私の正論に心底傷ついたような絶望顔を晒すと、メンヘラ女はポケットから透明な袋を取り出した。遠目でよくわからないが、おそらく白い錠剤が大量に入っているようだ。
すると、メンヘラは袋の中の錠剤をすべて口に流し込み、ボリボリと咀嚼し出した。
「ボォリボォリュボォリィボォリュ……」
『見てよマスター。あの女、頬いっぱいに錠剤を詰め込んで号泣してるよ?汚いハムスターだね』
「ハムスターに失礼だろ。……ねぇ、あれ大丈夫なの?オーバードーズとかで危ないんじゃ」
「あー。ヘラちゃんが食べたのって、ほぼ副作用のない整腸剤だから。大丈夫、大丈夫」
「は?」
「3日に1回のペースであーいうメンヘラ仕草するんだよねぇ。オーバードーズごっこ。おかげさまでヘラちゃんってば乳酸菌マシマシ、みたいな?」
なんだそりゃ。とんだ迷惑系ファッションメンヘラだな。
しかし、この大馬鹿かまってちゃんのせいでお昼ご飯をリバースしたと思うと、なんだか無性にイライラしてきた。一度わからせてやらないと気が済まない。
「おい。そこのメンヘラもどき。カードバトルしろ」
「ボリッボリッボリュッ……ごくん。はぁ?あんたみたいなゲロガキとカードバトルぅ?」
「ぶち殺すぞ。散々人様に迷惑かけやがって。ボコボコにしてやるから覚悟しろ」
「はん!返り討ちにしてやるわよ!ウチの最強デッキにあんたみたいなクソチビが勝てるわけないじゃない!とっとと家に帰ってママのおむつでもしゃぶったらぁ!?」
『おっぱいじゃなくておむつなの?』
決まりだ。吠え面かくなよバカが。
私と大馬鹿女はバトルユニットを起動する。瞬く間に、ビルの屋上でARビジョンが展開され、カードバトルの準備が整った。
「じゃあ、いくよ?カードバトル開始!まずは」
「ウチの先行!ドロー!」
「あっ……」
『うわ~、まぁた先行とられてやんの~。マスターってばちっちゃいおててを上手く動かせなくてかわちいね~。バブバブ赤ちゃんだから一々トロいんだ~、うぷぷぷ』
「ばぶばぶー!」
『イダダダダッ!だからカードを折り曲げないでぇッ!』
あー?こちとら赤ちゃんなんだから仕方ないだろうが。無垢な暴力くらい甘んじて受け入れろ。
先ほどまで泣きわめいていたメンヘラだが、カードバトルには真剣なようだ。眉間に皺を寄せながら手札を吟味している。なんだかんだで真面目なのかもしれない。
カードをパチパチと音を鳴らしてメンヘラ大馬鹿女を急かす。最近ようやく前世でいうシャカパチができるようになって嬉しい。いずれはショットガンシャッフルなども習得したいものだ。
「決めた!ウチはスペル【誘爆爆撃】を発動!手札のアタッカー1枚を墓地に送ることで、あんたの手札からランダムに1枚カードを墓地に送るわ!そして相手のELに500ポイントのダメージ!」
「チィッ……!選ばれたのはアホムラじゃなかった!惜しい……」
『ちょっと!?』
「ウチが墓地に送ったのは【BSS爆撃ピエロ】だ!こいつは1ターンに1度、手札の武装カードを墓地に送ることで、墓地から特別召喚できる!」
ポカポカと肩を叩いてくるホムラがウザかったので尻を蹴飛ばす。良い音が鳴った。
というか、このメンヘラ大馬鹿女がまさかBSSカテゴリの使い手とは。この世界では、BSSやNTRなど一部のカテゴリのカードは、特定の団体・機関に所属していないと使えないらしい。たとえば、FBIのカテゴリは、フリーダムユニオンの捜査機関の関係者しか所持していない。同機関の長官を経験しているドンナ・トラップ大統領がFBIカテゴリを愛用しているのも、そうした背景があってのことだ。
リリカ曰く闇の組織であるBSS団の構成員でなければ、BSSカテゴリのカードは持っていないはずだ。知性の欠片も感じないメンヘラ大馬鹿女だが、国際的なテロリスト組織と何らかの関わりがあるに違いない。ボコボコにして洗いざらい情報を吐かせてやろう。
「ウチは手札から武装カード【ダイナマイトチェーンメイル】を墓地に送って、【BSS爆撃ピエロ】を墓地から特別召喚!このとき、【ダイナマイトチェーンメイル】の効果で、相手のELを500ポイント減らす!」
「ちょこざいな……しょぼいバーンダメージばかり与えてきやがって……」
『マスター。言動と顔つきが邪悪な敵キャラみたいになってるよぉ……』
「さらに!手札をすべて墓地に送ってスペル【全弾射出】を発動!カード2枚を墓地に送っているから、合計で800ポイントのダメージをクソチビに与えるわ!これでターンエンド!」
これでメンヘラ大馬鹿女の手札はゼロだ。ただ、私のELは2200ポイントにまで減らされている。おまけに相手の場にいる【BSS爆撃ピエロ】はAP900ポイントと、それなりなスタッツだ。
『これはっ……!私が活躍するのに、おっはーつらいむきの場じゃないのっ……!』
「おあつらえ向き、だろ」
『うおおおお!マスター!今こそ私を特別召喚してあの不細工ピエロを焼却処分させるんだぁああ!大好きな相棒に任せてちょおだい!』
「私のターン。山札からカードをドローしてメインシーンに移行。アタッカー【JKガールズ・三位一体のムイ】を召喚する」
『ズコーッ!』
雄叫びをあげていたアホムラを無視して、淡々とカードを展開していく。ズッコケたアホムラは砂埃をあげながらヘッドスライディングしていったが、些細なことだ。
藍色ショートヘアで西洋人形のように整った顔立ちの魔法少女がARビジョンに登場した。私と同世代くらいの美少女であるムイは、感情表現が乏しい。ロッドを掲げてポーズをとっているが、アホムラやシズクなどとは違って、どこか作り物めいていて、何だか人間味を感じない気がする。
「このカードが場に存在するときアタッカー【JKガールズ・三位一体のマオ】を特別召喚できる。私は手札からアタッカーを特別召喚する」
人形のような魔法少女に、ピンク色ボブヘアで若干ふくよかな少女が抱き着いた。のんびり屋な桃髪の魔法少女ことマオは、浮世離れした美少女であるムイのことが、恋愛的な意味で好きである。実際、腹部に手を回しへそに頬ずりするマオは、とても幸せそうな表情を浮かべていた。
対して、ムイは好意を寄せてくる友人を感情のない瞳で見つめている。ムイにとってマオは、愛するミナをめぐる恋敵。友人として信頼はしているものの、色々と複雑な感情を抱えているようだ。マオが場にいても、ムイは特別召喚できないのは、そうした昼ドラ的なドロドロ愛憎劇がバックストーリーにあるからだと考えられる。
ならば、マスターである私がその気持ちを少し整理してやろうではないか。
「そして、手札から武装カード【同士討ちの殺人ナタ】を発動!このカードは場に存在するアタッカーを墓地に送ることで、AP500以下のアタッカーを強化できる。私は【JKガールズ・三位一体のマオ】を墓地に送り、【JKガールズ・三位一体のムイ】に装着し、APを1500ポイント上昇させる」
「んなっ!?AP2000のアタッカーですってぇ!?」
武装カードをバトルユニットにセットしたことで、ムイの手元に邪気をまとった大型のナタが現れた。不思議そうに武器を掴むや否や、無表情系美少女であるムイに新たな感情が芽生えた。
消せ。消せ。消せ。
脳内に邪悪な亡者の言葉が反響する。悪霊に憑りつかれたかのごとく、額を抑えて呻くムイ。そんな彼女を心配そうにマオが見つめている。
滝のように汗をかきながら、ムイはふとマオを見返した。おっとりした桃髪の美少女は照れくさそうにはにかむ。その発情した雌のごとき粘着質な笑みに、ムイは未だかつてないほどに激しい怒りを覚えた。
感情の薄い魔法少女が、情愛の次に覚えた感情は憎悪だった。ミナの笑顔には愛しさを感じたのに、マオの笑顔には殺意を抱く。気が付いたら右手に握っていたナタを振り上げて、マオに向かって叩きつけていた。
消えろ!消えろ!消えろ!
目障りなメス豚を叩き潰す。贅肉を細切れのミンチにする。確実に息の根を止める。
愛を求める孤独な魔法少女は仲間を殺す。料理の下ごしらえをするように念入りかつ緻密に、友人を切り刻む。苦痛、恐怖、困惑、情愛。様々な剝き出しの感情がマオから発せられるが、それでもムイは手を止めない。
いつしか殺人ナタは魔法少女の血で赤く光っていた。それを眺めながらムイは、過去に想いを馳せる。あいつはいつもそうだ。誰よりもミナの足を引っ張っていて、そのくせ誰よりもミナに愛されていた。
大好きな少女漫画について語るミナは、アタシも強くてカッコいい王子様に守られたい、と何度も言っていた。それがどうだ。彼女の愛する幼馴染とやらはこんなにも弱い。ムイは冷めた目で、ミンチと化した死体を一瞥するとぼそりと呟いた。
あっけなく死ぬなよ豚が。
そう吐き捨てると、ムイは肉塊を踏み潰した。目障りな雌は消えた。
『…………え?なにこれ。後輩たちが想像以上に修羅場だったんだけど……』
「むふふ。やっぱり新しいグロカードはいいね。血がたぎる」
『おいサイコロリ。グロ描写以外もちゃんと見ろ』
「興味ない。所詮はカードが乳繰り合ってるだけじゃんね」
『だからカード差別はやめろッ!この世の邪悪の塊なのかお前はッ!?』
こわ。急にキレないでよね。
激高したアホムラが頭を叩こうとしてきたので、しゃがみガードをしてアッパーを叩き込む。カードごときが人間様に逆らうなよ。
「何1人で踊ってんだスルメ?頭大丈夫か?」
「なにこれ昼ドラ?随分とグロい武装カードね~。思わず目ぇ逸らしたわ」
「嗚呼……これが神子様のおっしゃっていた救済なのですね……主神様に感謝と祈りを……」
状況が見えていない愚かな元ヤンのお姉さんはいいとして、意外だったのがメンヘラ大馬鹿女とその友人だ。メンヘラはグロ描写を目の当たりにしてもあっけからんとしているし、その友人に至っては何やら怪しい神様に祈り始めた。
そうだよ。こういう反応が正しいんだ。グロ描写をむやみやたらに規制すると、2人のように耐性のある人間が育たないから良くない。今度パパとママに意見具申せねば。
「【JKガールズ・三位一体のマオ】の効果でお前のELKを300ポイント減らす。そしてファイトシーンに移行。仲間殺しの人形女で、そこのアホ面さらしているピエロを攻撃」
「ぐぬぬ!でも!ウチの場のアタッカーが戦闘で破壊されたとき、墓地から武装カード【ボムスイッチ】を手札に加えることができる!」
「むっ……!」
「さらに破壊された【BSS爆撃ピエロ】の効果で、相手のELを500ポイント減らすわ!」
「……私はスペルを1枚セットしてターンエンド」
なるほど。これで次のターンまた【BSS爆撃ピエロ】を蘇生できるわけか。しかも事あるごとにバーンダメージを与えてくると。この勝負、中々厄介かもしれない。
メンヘラ大馬鹿女は2600ポイントなのに、私のELは1700ポイントだ。もし仮に手札補充などをされたら、ピンチに陥りかねない。
私は気を引き締めて、得意げな顔をしているメンヘラ大馬鹿女を睨みつけた。
なんとか6月中に間に合った……!いや、本当にすみませんでした……。
感想、ブックマーク、評価、いつもありがとうございます!!励みになります!
ここが性癖に刺さったのかなーなどと考えていると、嬉しい気持ちで一杯です!
誤字報告にも感謝!!ミスが多いもので非常に助かっています……。




