第2話 戦闘 的中
日は昇り、陽炎が浮かぶ中1機のスカベンジャータイプ、突如として現れた『S,Aもどき』、そして『アウトノミア』の未確認機体が並ぶように位置しながら向き合っている。
突如として防衛部隊のスカベンジャータイプが振り返ったことによって困惑したのかS,Aもどきが立ち止まり、それを追っていた未確認機体も同様に警戒したのか立ち止った。彼らも振り返ったのがただの傭兵が使うスカベンジャータイプであれば問答無用に切りかかったのだろうが、目の前にいるのは悪名高いアステリズモのスカベンジャーでるため警戒しない方が無理がある。
ファルフリードとしては好きではない悪名に少し感謝を抱く。
「疑問です。最強と噂されるあなたなら私に敵うとでも?」
S,Aもどきから抑揚のない口調で通信が入る。
「オープンチャンネルで流された不穏な会話が聞こえたもんでな。ここで足止めさせてもらう。」
「愚考です。M,Aでは私たちには勝てませんよ?」
―こうも簡単にM,Aでは無いことを明かす、か。パルサーの環境で飼い主も指示できないならば、かまをかけてみる、か?
「その操縦方法を手に入れるためお前が失ったのは『自分』か?」
「疑問、あなたが最重要機密を知っている理由の説明を求めます。」
「さぁな?お前の欠点は戦場に向かないな。さて、後ろにいるお前はどうする?」
S,Aもどきの向こうにいる未確認機体に問いかける。
「俺は仲間の敵を討つ。その後にお前もこの世界も滅ぼす。」
「・・・そうかよ。」
お前程度には無理だと、出かかった言葉を飲み込む。だが、これで拠点に向かおうとしている2機の足止めには成功したことを確信し安堵する。あとの残りは防衛部隊の全勢力で当たれば何とかできるだろう。七番街の傭兵達は強い、対処法さえ分かれば十分な勝機がある。
そして、その勝機は自分にも当てはまるため、この戦いは博打にしては分が良い方だろう、とファルフリードは思う。予想が正しければ、自分の機体は目の前にいる機体たちのある意味同じ場所に位置する存在だからだ。しかも、身のこなしを見ていてわかる、あいつらは戦い慣れていない。圧倒的な戦力で制圧することに慣れていても自分と同じ力を持っている奴と戦うことすら想定していない上、戦闘機動をとるのが初めてなように見える。
その証拠に遠くに見えるS,Aもどきと未確認機体の戦いは、S,Aもどきの奇襲を終えた後は消極的な遠距離での打ち合いに終始している。恐らくS,Aもどきが数の上では不利でも出力差により未確認機体を制圧できるだろうが・・・。
さらに加えて、自分の見立てでは未確認機体には大きな弱点がある、道具を操縦しているのであれば損傷は受け入れられるが、未確認機体は自分の体を機械に落とし込んでいるせいで必要以上に被弾を恐れ、直撃弾以外の攻撃すら避けている。だからこそ、あれだけの性能差でありながら防衛部隊を殲滅することができなかったのだ。
対してS,Aもどきは前回の戦闘の通りであれば少々の被弾をものともしていないように見える。ならば、S,Aもどきがいずれ押し切ることができるだろう。戦闘に対する意識が違いすぎるのだ。
規格はスカベンジャータイプと同じでも自分が機械となることによって驚異的な操縦性と情報処理能力を手に入れた未確認機体、確信に近いとはいえ予想であるがS,Aと同じ操縦方法によって未確認機体に近しい操縦性とS,Aに近い機体構成をしているS,Aもどき。
考えれば皮肉的な笑いが込み上げてしまうが自分はこいつらのまさに中間地点にいる存在だ。この機体はスカベンジャータイプであってもM,Aではない。それを知っているから自分は目の前にいる機体がS,Aもどきだと分かるのだが・・・。
しかし、本来、その力は人目に付く場所で使ってはいけないものであったはずだ。その力を持っていることがばれれば少なくともホームは存在を許すことはなかった。許すということは何かしらホーム側に意識の変革があったことは予想される。
だが、それを抜きにしてもその技術を持っていると知られれば、待っているのはアステリズモの破滅であることには変わりない。だからこそ、これまで例え自分の命が懸かっていたとしても使うときはパルサーの影響下かつ誰にも記録されない状況でしか使うことを考えることすら自分に許していなかったのだ。そして、何よりアイーシャからの許しや、アイーシャの身に危険が及ぶ状況でなければ使わない。
前回、使用した時はそのままS,Aによってアイーシャたちも攻撃される可能性があった。アルケーだけでなく、全ての戦力を破壊していたためアイーシャたちが襲われる可能性が高かったと判断した。
今回もそうだ。奴らがどこまで攻撃を続けるのか分からない。なら、やることは一つ、相手の数は減らせるときに減らすしかない。
激痛に苛まれて縮こまろうとしている体を意志の力で強引に動かしてファルフリードは眼前を睨み付けながら操縦桿を握り直す。
「ぐぐぅっ・・・!」
その動作をするだけで視界が明滅するよな激痛を受けるもファルフリードは意識を2機に向ける。
S,Aもどきの武装はスカベンジャータイプで考えれば近距離戦を得意としているような武装だ。右手には高エネルギー圧縮ブレード、左手には短銃身の実弾銃を保持している。他に追加武装は見当たらず、機動性を高めていることが分かる。だが、機体の見た目はある程度の装甲を確保するためだろうがスカベンジャータイプと比べれば太ましく、機動性の確保は重視していないように見える。そもそもS,Aもどきはその柔軟性により十分な機動力を持っているため鈍重という印象を受けることは無い。
未確認機体も同様に中近距離に向いている機体となっている。右手には恐らくアルダベーン社製「中型アサルトライフル17型」、左手はティタニアル社の「決闘槍」と呼ばれる炸薬が搭載された長物を保持している。その性能は多くの傭兵が使っていることもあり、折り紙つきのものだ。
ファルフリードの機体はこの操縦方法を切り替えるにあたり特注品の操縦服が必要となる。そしてその操縦服には機体の操縦を直接的に行うためにある金属が錬りこまれている。また、その特殊な金属によって行えるこの操縦方法はS,Aと同じく強引に自分の体と機体を直結させて操縦の補助を行うものだが、それは人間の脳に異物の精神を混ぜ合わせることでもあるため、適正の無い操縦者であれば前後不覚に陥り、意識を保つことすら難しい。加えて、どれだけ適性があるものが操縦しても精神にどこか異常をきたしてしまうという致命的な欠点がある。自分に置き換えればそれはこの絶え間なく襲いくる激痛だ。
だが、それで得られる能力は凄まじく、未確認機体と同じように知覚能力と処理能力を抜群に向上させたうえ、人体のように機体を動かすことが可能になる。だからこそそれはS,Aと呼ばれる世界の覇者が取り入れている操縦方法なのだ。
S,Aもどきも先ほどの会話から推測すれば同じ操縦方法だろう。それも適正の無さを薬物で強引に引き上げ、何とか自我をもたせている可能性が高い。
だが、それは操縦者を使い捨てる行為に他ならない。少なくとも自分はその状態を続けて破壊された操縦者たちを見てきた。
「知っているだろうから、名乗りは不要か?俺はアステリズモの戦闘員、ファルフリード。戦う前に聞いておきたい。お前らの名は?」
「俺は『アウトノミア』のキルレイオン。」
「私はスランバー。所属は秘匿事項です。」
―ちっ、所属は秘匿事項、か。あわよくばとは思ったが、こいつの造り主も馬鹿では無かったか。まぁ、恐らくこれだけの兵器を作るのならばホームか、企業というところだろうが・・・。
しかし、名乗りに応じるとはこいつら戦争を勘違いしているな。
カマかけで名乗ってみたものの情報が得られなかったことに心中で嘆息し、呼吸を整える。
付近に使えそうな環境が無いか観察するも、広がるのは荒地のみで遮蔽物になりそうなものは一切存在しない。
―ならば最も安全な場所は!
機体の外で流れる風を感じつつ、ファルフリードは一呼吸でペダルを踏み込み背面ブースターで急加速してS,Aもどきに右手で持った散弾銃を放ちながら肉薄する。スランバーは機体を滑らせるように動かして散弾銃の攻撃を回避してくるが、その回避先を直感で読み、機体と機体同士をぶつける限界のぎりぎりまで近づける。
パルサーの状況下であればセンサーに頼り切った五感ではこちらの動きを読むことなどできないだろう。
「戦闘機動開始します。」
スランバーは律儀に声をかけつつも瞬時に反応しこちらに対して剣を振り上げるが、振り上げる前に左手で持つ高周波振動ソードで切り上げる。
「俺を無視するんじゃねぇよ!」
キルレイオンが脇から銃撃を仕掛けてくるのが見え、急いで機体を後ろに跳ねさせる。今はアイーシャたちとも通信が使えない以上、回避は自分の直感のみが頼りだ。
まるで舞のような動きをする3機は時に近づき、時に離れてお互いに隙を許さない。お互いを盾にするように移動しつつ、1機がある1機に狙いを絞れば残りの1機がその隙を見逃すまいと攻撃を仕掛ける。めまぐるしく攻守が入れ替わる戦闘が続く。
「スランバーといったか!よくも俺らの大願を!」
キルレイオンの機体から怒号が響く。
「無意味。業務として請け負っている以上、あなたの怒りは非合理的です。」
「だとしても、あと少しで目を覚まさせてやることができた!」
―お前らよく戦闘中に喋る余裕あるな・・・!
機体を反らせてスランバー機の袈裟切りを紙一重でかわしつつ、隙を伺っていたキルレイオン機に散弾銃で攻撃を浴びせるが、キルレイオン機は大きく飛び上がってスランバー機の向こうへ回避した。ファルフリードは2機をまとめて攻撃するようにもう片方の手に持つアサルトライフルで攻撃を仕掛けるも2機は散開して回避する。
「不可解。なぜ、これだけの動きをM,Aが?」
「『魔王』てめぇ噂以上じゃねぇかよ!なんだその動きは!」
―うるせぇ!こっちは喋れる余裕なんざないんだよ!
離れたファルフリード機とスランバー機は別方向からキルレイオン機を盾にするように移動しながらキルレイオン機に近づいていく。
「だんまりかよ!まぁいい!ばらしゃあ済む話だ!」
キルレイオン機は左手にある大仰な長槍を振り回す。その長槍の先端には炸薬が仕込まれており、ティタニアル社製の特徴である一撃必殺を売りとした兵器のため、細心の注意を払う必要がある。その大振りをファルフリードは背面ブースターで急ブレーキすることによって回避する。
「くそ!なんだってんだ!パルサーがこれほどのものか!動きがわからねぇ!」
キルレイオンがパルサーの影響によってセンサーが使えない道の状況にいる己を嘆く。その空振りの隙を見逃さずファルフリードはいつのまにやら散弾銃から持ち替えていた炸薬ダガーを放る。
そう、十分な勝機とはこれだ。パルサーの環境下でセンサー類が使えない状況はあの2機にとって経験したことの無い物だろう。持っていることは知っていても、経験不足はどうしようも無い。
「がぁあっ!」
キルレイオンの悲鳴が響く。炸薬ダガーがキルレイオン機の左肩部に命中したことによって、大きくバランスを崩す。
「好機。終わりです。」
スランバー機がファルフリードもまとめて攻撃しようと一直線にキルレイオン機に向けて剣を突き指すようにと動くのが見える。
―それは命取りというものだ!
ファルフリードはキルレイオン機の長槍の持ち手を回転の方向にアサルトライフルで攻撃し、振りぬいた長槍を更に押し込むように回転させる。
長槍が勢い余ってスランバー機の剣を捉え、その一撃必殺の火薬によってスランバー機が吹き飛ぶ。
―終わりだ!!
このチャンスを逃すまいと予期せぬ『決闘槍』の爆発の衝撃で混乱するキルレイオン機の背後から逆袈裟切りに高周波振動ソードを振りぬく。
「#$%!」
機体の中心を切られたことによって声にならない悲鳴がキルレイオン機から響く。その勢いのままに態勢を立て直そうとしているスランバー機へ向かって加速する。
「不可解!」
スランバーがこれまでの平坦な声とは打って変わって叫ぶような声が聞こえる。
スランバー機は片手に持っていた剣を両手に構えた瞬間、剣が目視できるほどのプラズマを放ちながら光るのが見える。
スランバー機は光り輝く剣をこちらに向けて何かしらの攻撃をしようとしている。
直感が告げる。それは剣を中心として正面方向のすべてを焼き払う攻撃であり、このままでは回避も間に合わず攻撃を食らい、自分が蒸発するであろうと。
「まだぁぁぁ!」
雄叫びを上げながら操縦桿を握りしめる。集中し、一瞬が永遠に引き延ばされるような感覚が身を包む。
直感に従い、踏み込んでスランバー機の斜め下に背面ブースターで加速する。
輝く剣がまさに正面方向を焼き払う瞬間、ファルフリードは猛スピードで潜り込むように機体を動かし、体を捻りながら放った左手の炸裂ダガーを斜め下から相手の持ち手に当てる。一瞬の後に炸薬が破裂したことによって腕が跳ねあがり、攻撃がわずかにそれて背面の補助ブースターと右肩を焼く、が操縦席までその熱が届くことは無かった。
―まだ!動ける!
ファルフリードはその勢いのままに地面に衝突すれば無事に済まないため回転の勢いのまま原型をほとんど留めていない右手で何とか受け身を取って少しでも衝撃を減らす。アルガスたちによって整備された機体は誰もが動くはずがないと思うような状態でもまだ、動いてくれる。
激突の衝撃によって視界が暗転しかけるが、気迫でファルフリードは機体を起き上がらせて散弾銃を取り出し、炸裂ダガーをまともに食らい吹き飛んだスランバー機とキルレイオン機へ4発、5発と打ち込む。
そして完全に目の前の機体たちが沈黙したことを確認するとファルフリードは息も絶え絶えになりながらも操縦切り替えのスイッチをオフにして呟く。
「悪いな。情報を持ち帰らせるわけにはいかないんでな。」
機体を翻らせて急ぎ拠点に向かって走る。しばらく走り、拠点に近づいたことによって拠点より通信が届く。
「ファルフリード!良かった無事ね。こちらで目視できたわ。よかった。」
アイーシャの安堵したような声を聞きファルフリードも安心する。どうやら、拠点は皆の手によって守られたらしい。
「こちら、指令所。未確認機体の全滅及び、所属不明機の撤退を確認。皆、作戦成功だ。よく、・・・よく、このような状況で守り切ってくれた。皆を代表して感謝する。ありがとう。」
司令所から感極まったような声が通信機を通して聞こえる。ファルフリードは肩の力を抜き深呼吸しながら通信を入れた。
「こちらファルフリード。作戦終了。帰還する。」
そして、彼らの命を懸ける時間は終わりを告げる。
その後。煤まみれとなった機体たちが昇る日の光を浴びながら、立ち並ぶのであった。




