第2話 戦闘待機 忠告
――――――襲撃予告日 当日02:00――――――
襲撃予告日となると、戦闘員のほぼ全員は機体に搭乗し襲撃に備えていつでも出撃できるような体制を整えているのであった。
時刻は夜半にもかかわらず格納庫は明るく、最終チェックをする整備士たちがモニターを眺めている。戦力差としては自分たちの方が少ない可能性が高いことが分かっているのだろう、その場に満ちる空気には言いようのない緊張感があり、張りつめた空気によって格納庫には妙な静かさを感じさせる状況となっていた。
その中、ファルフリードも例に漏れず機体操縦席に座り、いつでも機体を起動できるような状態で待機しているのであった。目を瞑り少しでも体力は温存し、来るべき時に備える。
ふと、通信機に入電があったことを知らせる明かりと電子音が響いた。
―こんな時間に誰だ?
「・・・こちらアステリズモ。用件は?」
「ふふ。久しぶりだな。配属が違ったので接触する機会が無かったのでな、通信を入れさせてもらっている。」
―この気障ったらしい声は・・・
「『サジタリウス』、か。何の用だ?・・・いや、その前に言いたいことがある。」
「ほう?なんだ。」
この稼業に身を置いている以上、敵味方の入れ替わりなど日常茶飯事だ。だが、こいつには少し言っておきたいことがある。
「こんな時間に通信入れんな、眠い。」
「む?それもそうだな、すまんな。」
「で、なんだ?」
「アステリズモにはこれからも楽しませてもらいたいからな、忠告に来た。」
何となくだが通信機の向こうで不快な笑みを浮かべているような気がするが、気のせいではないだろう。こいつの声音は何かを楽しんでいる。
「これから来るやつらの事だろ?こっちの機体を見ても構えてるってのが見えてそうなもんだが・・・。」
「相手がスカベンジャーではない、そしてS,Aに匹敵性能する性能を持った奴だとしても、か?」
―・・・S,Aに近い、だと?
脳裏によぎるのは前回『サジタリウス』を相手にした後に来たわけのわからない機体だが・・・。
「前回の奴とは違う。あれはそもそもスカベンジャーであり、S,Aの贋作ともいえるものだ。そうではない、別の方向からS,Aに似せて作られたS,Aに限りなく近く、スカベンジャーからは遠いものだ。」
そもそもS,AにはS,Aにしか持ちえないジェネレーター、駆動システム、機体構造、操縦システムを持っているからS,Aたりえる、それらが欠けてはS,Aたりえない。
「・・・前回の依頼で見たのか?」
「いや、奴らの仕入れた物品からの推測と噂だ。本音を言えば眉唾物だと思っていたのだが、な。前回の依頼の際に副賞として指定されていたのがマスターシステムだったのだが、それに加えて特別褒賞がある作戦への参加が義務付けられるが、操縦可能なスカベンジャーを割安で1機販売する、というものだった。どこまで本当の話か分からなかったが前回の襲撃で間違いではないと確信が得られた。」
今の話で襲撃部隊の練度の低さなどその辺りについて多少腑に落ちるものがあった。
「なるほどな。だから九番街の奴らは政府に目をつけられようが、報復でいくらでも攻められようが金銭や資材の強奪を止めなかったんだな。そして、組織がどこから技術力や原資を持ってきているのかは甚だ疑問だが、そういった組織があるから九番街の戦力が無くならないというわけか。・・・だが、なぜその情報を今俺に教えた?もっと早く組合なりに報告していれば・・・。」
「それでは奴らの切り札と戦えんだろう?」
やはり、自分とは全く分かり合えない人種なのだろうと頭を振る。『サジタリウス』は戦うことが目的のタイプなのだ、こういう戦闘狂とは仕事で戦っている自分とは根本から違ってしまっている。
「つまり、手を出すな、と?」
「そこまでは言わんさ。だが、奴らが1機とは限るまい。なればこそお前には生き延びたうえで、あらゆる意味で邪魔をいれないでほしいとあくまで『お願い』をしたかっただけさ。」
こちらが邪魔をすることさえそれもまた一興という声音で言葉を続ける。こいつにとって戦場にいる命は等しく無価値なのだろう、恐らく自分の命さえも。
「・・・わかった。情報提供感謝する。他にその機体の情報は無いのか?」
「そうだな、操縦者の概念がない、というようなことを言っていたな。雇い主はもうすぐ私たちのような『誇りにとらわれた狗』の存在は必要なくなる、とも。」
「・・・ということは自律機動なのか?」
「さあな?だが、それならばお前のところのパルサーで無効化が簡単な、つまらんものにはなるな。だが、ここまでのものを作る連中ならその程度の弱点は何とかするだろうよ。」
操縦という概念が無いのであれば遠隔操縦でもないということにもなりそうだが、どこまで本当かわからない情報のため鵜呑みにできるわけでもない。
「そういえば、この前一緒にいた新人みたいな奴はどうした?あれから一緒にいると人づてに聞いたが・・・。」
「お前も『ガイア』の操縦者は気になったか?ふふ、光るものがあるだろう。共に依頼を受ける形で業務提携中だ。」
思い起こすのは明らかに資金が足りていない不満足な機体を駆りながらも知恵と技量でこちらに肉薄してきた機体だ。技術にしても粗削りな部分は多かったが、なかなか見るところはあるやつだった。最後に女であることに気付いた時は驚いたものだが、色々と気になる存在であることは確かだ。
「そう、か。なかなか手ごわい奴だった上に若いようだったから、気になったのさ。それにしても業務提携とは珍しい、な・・・。」
言いかけて気付いたのだが、『サジタリウス』と言えば一人で整備から操縦までやるようなやつだと聞いている。一緒に行動するということは・・・
「まさか、『ガイア』は整備も自分でやっているのか?」
「当然だ。あれも私に師事するのであれば私のやり方に従ってもらうさ。まぁ、整備については私が教えることなどほとんどないような状態だったがな。」
「すごいな。粗削りだが操縦技術もあり、しかも整備技術は水準以上とは、本当に・・・末恐ろしいな。」
単純に驚きが口から出た。どれもそんな簡単に身につくものではない上、そうして生き延びているということができる奴はなかなかいるものではない。
「それに若い。これからの伸び白が楽しみな教え甲斐のある娘だよ。あれは戦うことに明確な理由がある。そしてそういう奴の『成長』は本当に楽しみだ。」
通信機越しに笑みを浮かべていることを感じとる。だからこそ、この声音で完全な確信を抱いた。
―やっぱり、俺はこいつと気が合わない。こいつとは根本の考え方が違いすぎる。
「じゃあ今回の作戦にも?」
「当然参加させているさ。いい経験になるだろうよ。だが、正直言えば貴様がうらやましいな。先日の襲撃の件と言いあれだけの戦力差に対して1機で戦える機会なんぞそうあるものではない。まったく、貴様が当番の時にあれだけの襲撃が起きるとはな。」
―・・・そもそもの疑問だが、なぜこいつは七番街でわざわざ傭兵登録してんだ?九番街とか無法にで生きている方が戦うという生き方に合致するだろうに・・・。
「なら次の先陣は譲るさ。こっちは十分に戦ったからな。」
「言われるまでもない。ふふ。お前は面白く、不思議な男だな。これまで様々な卓越した技術を持った操縦者にあってきたがお前ほど人間らしさを残した操縦者を見ることは少ないぞ。」
こらえるようにくっくっと笑って『サジタリウス』は笑っている。
「兵士として人間の部分が少なくなるとどっかでバランスとろうとすんだよ。俺は兵士として嫌気がさしたから傭兵になったんだ。俺は、人間でありたい。」
色々と思い出して吐き捨てるように言い放つ。
「?・・・はっはっは。久しぶりに大きく笑ったよ。やはりお前と私は似ている気がするよ。人殺しが人間を語るか?まあいい。お前がつまらんことで死ぬのは惜しいと思った、だから私はお前に忠告をした。それだけだ。」
言いたいことを言って満足したのか唐突にぶつっと通信が切れる音が聞こえる。
「似てる、か・・・。似てねぇよ。俺は・・・。」
言いかけた時、格納庫全体に警報が強く鳴り響き、唐突に現実に戻されるのであった。




