第0話 戦闘中 薄氷
今回、突発更新です。
遠く闇夜に見えるS,Aは銀色機体カラーをしており、細身で鋭角的なフォルムをしている。S,Aは電磁金属液と呼ばれる人工筋肉で駆動しているため、M,Aと違いそのフォルムには無駄がない。
機体内部は度重なる戦闘機動などにより、温度が高くなっているはずなのだが全身に寒気が走る。
「まさか・・・。もうアルケーはやられたのか?」
思わず、戦闘中だというのに声が漏れる。正直、もう少し時間はあるだろうと思っていた。アルケーにはかなりの数の部隊がいたはずなのだが・・・。
下半身から血の気の抜ける感覚が襲ってくるが、自分を奮い立たせるように上唇をなめて操縦桿を握り直す。
S,Aは電磁金属液を通して肉体の電気信号を伝えて機体を動かしているため、繊細な動作もできるうえ、反応も早く動くことができる。さらにホームしか持ちえないテイクコンバーターと呼ばれるエンジンを積載しており、ほぼ無尽蔵なエネルギーを持っており、その無尽蔵なエネルギーで常時電磁フィールドを展開しているためこちらの銃撃の威力が減衰してしまう。また、そのエネルギーによる遠距離からのプラズマ兵器やブースターを使用した高速近接戦闘も可能と死角がない兵器なのだ。
そんなS,Aに戦場で出会うことを無いようにするというのは当然の条理であり、傭兵企業も必ず戦闘行為をする場合は政府組織を通して自分の正当性を証明して制圧行動をとられないようにしている。それでももし、戦場でS,Aに出会うことがあれば運を天に任せたうえで全力をもって逃げるしかないというのがセオリーだ。
そのS,Aが遠く離れているとはいえ、目の前で自分に向かって銃口を向けていた。
ファルフリードは先ほどの少女が巻き込まれるのは忍びないと思い、別の近くのビルの屋上に向かって助走をつけて飛び上がる。
「ふん、逃げても無駄だ。おとなしくやられろ。」
撃つ前に声をかけるとは随分と余裕をくれるものだが、自分のいた近くを膨大な熱量を持った光が通り過ぎる。
「情報が来たわ。S,Aの名称は『エス』、軽量型の高速戦闘による中距離戦闘が得意の機体のようね、遠距離武装は高熱量誘導ミサイル、中距離武装は高出力エネルギーライフル、近距離戦は実体剣を使用しているわ。どうやら研究所に被害が出ないようにしているみたい、遠距離ではあまり攻撃してこないはずよ、距離を取ることを優先して!」
アイーシャから悲鳴のような指示が来る。建物の壁を使い三角飛びの要領でできるだけ相手が撃ちにくい角度を維持しつつ距離をとる。やはり、できるだけ施設に攻撃が当たらないようにしているらしく、銃撃はまばらだ。それでも、高出力エネルギーライフルによる圧倒的な熱量を秘めたエネルギーの塊が近くを通り抜けていくたびに肝が冷える。時間にして10秒にも満たないだろうが、ただただ必死に、当たれば終わりの回避機動を続ける。
S,A『エス』はしびれを切らしたのか、距離を詰めて近接戦に持ち込みたいらしく、ブースターから噴射される炎の量が増えたのが見える。
補足されているならば、いずれは出力の違いで必ず追いつかれてしまう。この状況で生き延びるために何をすればよいのか必死に頭を回転させる。
―一か八かかけてみるか・・・!
「アイーシャ!パルサーはいけるか!?」
「すぐ放てるわ!」
パルサーを一度はなってから通常2時間程度使えないはずで、30分近くしかたっていない今もう一度使えるかどうかについてはかなり博打に近かったが、皆が頑張っていてくれたらしく、僥倖だ。
「なら頼む!」
電子機器に改めてダメージが入る。全開で使用した時よりは威力が少ないが不意を打つには十分な電磁攻撃が猛威を振るう。
「む?パルサーだと!?馬鹿な!?」
オープンチャンネルに入れっぱなしの無線からで驚愕の声を上げている姿は滑稽に見える。
―いつも、圧倒的な戦力で戦うからそういう状況に弱いんだよな!
機体を突如として翻らせ、フェイントを挟みつつ距離を詰める。体と同様な動きをするということは直に動揺による操作ミスが出てくるということでもあるため、先ほどよりは射線が読みやすい。
ファルフリードはコクピットの装甲解除のボタンを押し、アーマーを全て外してスカベンジャーとしては細身の部類に入るアステリズモのスカベンジャーとして本来の姿を夜風にさらす。さらに、プラスチックに覆われた緊急ボタンを開いて押した。
―パルサーの状況下で人の目の無い今なら、切り札を切らせてもらう!
コクピットの操縦方法を切り替えるガチリという音と共に体中に激痛が訪れる中、裂帛の気合いを込めて叫びをあげて機体を肉薄させる。
「近接戦か望むところだ!」
―本当に、S,Aに乗るやつらは余裕があるな、こっちとら喋るのもままならないというのに・・・!
S,A『エス』に乗る男はエネルギーライフルを手放し、実体剣を抜き放つ。その剣は歯の部分が赤熱化しており触れることは避けるべきだというのが見て取れる。ファルフリードは間合いに入る前にアサルトライフルを放り捨てて内蔵されている爆裂ダガーを取り出し、投げつけた。
銃撃では電磁フィールドにより減衰されるがダガーほどの質量があれば多少は通ることから『エス』は機体を半身分ずらして避けようとするが、フィールドにナイフが触れて炸薬が爆裂する。
「小癪な!」
集中し、一瞬が永遠のように感じる。
すべてがスローのように感じる煙の中『エス』が剣を袈裟切りに振り下ろすのが『感じてとれる』。おおよその剣の通り道を予想し機体の関節をまげて、間一髪のところを屈んで通り抜ける。
「何!?」
正面に来たはずの相手へ攻撃したにもかかわらず手ごたえが無いことに驚愕の声をあげているがわかる。まだ、煙がたちこめる中、後ろに回り込んで高振動ソード切り上げて『エス』の背面ブースターを破損させる。
『エス』は攻撃を受けたことに驚きを見せつつも、強引に身を翻して剣を横に一閃するが、それを予想していたファルフリードは機体をのけぞらせて逆制動をかけて回避機動をとる。苦し紛れの一閃だったため踏み込みきれず剣は空を切る。
「あああぁぁ!」
操縦による痛みと逆制動のGによる体に走る激痛からこらえきれずに雄たけびをあげながら、受け身を取り、機体を跳ね上げてS,Aの腰に向けて高振動ソードを突き立てる。
「馬鹿な!なんだその動きは!?こうなったら・・!」
―っっ!!
突如として走った嫌な予感を信じて追撃を加えずに、高振動ソードを突き立てた反動と足部のローラーによる加速を使用して機体を素早く、大きく後退させて距離を取る。
瞬間、『エス』の機体周辺に不可視の圧力が加えられ、クレーターが生み出された。
S,Aのフィールドを使用した斥力場によるアクティブフィールドと呼ばれる攻撃による衝撃が機体を打ち付ける。ぎりぎりの距離を確保していたことによってなんとか大きなダメージは避けられたが、衝撃によるダメージで機体が傾く。
ファルフリードは衝撃に歯を食いしばりながら何とか機体が倒れないように必死でバランスを取る。ディスプレイが赤色に染め上げられ、一つ一つをAIが読み上げる。
「警報!左腕関節部、頭部及びラジエータ破損、駆動に支障あり。脚部及び右腕損傷、駆動に支障なし。」
―よし、何とか動ける、か!賭けに勝った・・・!
ダメージが読み上げられる中で、受けた衝撃を利用して機体を反転させて撤退を急ぐ。
「何者だ!貴様は!・・・っ!待て!」
『エス』は追いすがるように銃撃してきたが、まだ煙は晴れきっていないことやパルサーの影響が残っていることで射撃の精度は高くない。それでも当たれば一撃必殺となりここまでの流れが無駄になるため、乱数機動を続けながら施設を盾にとにかく距離を取り、ひたすらに走り続ける。
ある程度走っただろうか、追われる気配がなくなったため一息ついて、先ほどと同じボタンを押して操縦系を元に戻す。
常時続く痛みから解放され大きなため息が口から出る。
ブースターと下半身にダメージを与えられたことでS,Aもさすがに追ってくることができないのだろう。
ファルフリードは命からがらの戦いの中、薄氷を踏むような賭けを続けて何とか生き延びることができたことに安堵するのであった。
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