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第2話 日常 負傷報告

「・・・で、結局どうしてファルフリードがあんな青アザと包帯巻くような事態を作ることになったの?」

「カルディエさん、いいえ、どうやら本名はカルディナというらしいのですが、カルディナさんの裸を見て焦ってしまい、その場ですっ転んだからです。」


 時は七番街から八番街への物資輸送依頼を終了し無事に帰還したということころであったが、アステリズモの事務所の前では顔に目立った青あざを腫らしたファルフリードと笑いをこらえるかのように神妙な顔をしているクルガン、土下座しているカルディエと仁王立ちするアイーシャとなかなかその様相は混沌を示している。


―なんとも、その姿は想像できるけど・・・、なにそれ!


 アイーシャは一通りクルガンから流れの説明を聞き、何とも言えない憤りが胸の中に渦巻いているのを感じながらファルフリードのことを半眼で見つめた。


「そこの28歳、何か言うことは?」


 もう、何か色々と言いたいことがぐちゃぐちゃになっているが、まずは一言ファルフリードに問いかける。

 帰還前の報告で輸送中に襲撃があったが無傷で撃退し、その結果臨時ボーナスを貰うことになったと聞きいた時は喜び、労いとともに出迎えようとしたところ、出てきたファルフリードの痛ましい姿に初めはとてつもなく驚いたのだった。

 出てきたファルフリードは顔に青アザを左手には包帯を巻いていた。左手はごく軽い捻挫のようで湿布を張っているだけなのだが、初めて見たときはどれだけ激しい戦闘だったのかと恐ろしくも思ったものだ。恐ろしく思ったがゆえにその詳細を聞いていると脱力するしかなかった。


「面目ない・・・。」


 本人は非常に反省しているのだが、今さらその年で裸を見て焦る姿を想像すると非情に情けない。


「申し訳ないです。俺がというか、私がちゃんと初めに性別や名前を正直に言っていれば・・・!」


 こっちはこっちでカルディエもといカルディナがさっきからトラックを降りた場所で土下座している。正直に言う必要も無ければ、初めて向かう場所で性別を偽ることは自衛のために必要な手段だと思うから別に責める気にもならないと思うし・・・、結論、動揺したファルフリードが悪いと思う。正直、前回一緒の宿に泊めて貰ったときはファルフリードの前で少しぐらい肌を見せたが動揺する素振りは見せなかったということもあいまっているため、納得いかない。

 ため息を漏らすと2人とも申し訳ないと思っているからだろうがびくっとした。その姿を見るとこれ以上追求するのも意味が無いと思う。


―でもこれでカルディエが何かを隠しているって思ったのはこれのことかしら・・・?


 謝っている姿をよくよく見ると少しだけ憑き物が落ちた表情をしているので、多分隠し事にしていたことが垣間見える。


「取り敢えず!2人とも反省しているから、あんまり言わないけど、罰を与えるわ。カルディナ、でいいのよね?とにかくカルディナは向こう1週間のトイレ掃除と食器洗い!ファルフリードはそのあとの2週間ね?」


 神妙な顔をしてカルディナが頷いている。まぁ、そもそもカルディナのせいというわけでもないのでこれくらいが妥当だろうと思う。・・・ファルフリードは自分がカルディナより1週間長いことに何か言いたいことがありそうな顔をしているが笑顔で黙らせる。決して他意は無い、断じて無い。

ため息をついて一度頭をリセットさせて、仕事の話題に戻す。


「ところでクルガン、臨時ボーナスはどれくらい出たの?」

「90万クレジットですね。新興の武装勢力だったようですが、最近色々と襲撃に成功していたので結構力量の割に報酬は多いですね。」


 その情報に思わず驚いてしまった。無傷で片付けた上、若干取りこぼしをしたと聞いていたのでそこまで多くの報酬が出るとは思ってもいなかった。


「それに最近の事なのですが、武装集団に対して組合が軒並み報奨金を上げたそうなんですよ。どうやら、そうまでしないと本当に手が回らなくなってきてしまったようです。テロ活動が活発化すればするほど被害も増えて手が回らなくなるという悪循環になっているようです。」

「・・・世も末ね。そうまでしないと生活できないってのもあるのでしょうけど・・・。緑化組合の声明から始まって治安が怪しくなってきたようね。」


 クルガンの説明に対してケイティが顔を片手で覆ってばやいた。クルガンの言う通りならば、これまでの組織の戦力と報酬のバランスが崩れているということはそれだけ被害額が増えていることも意味するのだから完全に喜べるわけではないのかもしれない。


「ところでさっきはカルディナって呼んじゃったけど、これからどっちで呼べばいいの?」


 とにかく安心させるために今後も働き続けられることを暗に示すとカルディナは目じりに涙を浮かべてこちらを見上げてくる。


「これからも働いていいんですか!?・・・では、カルディナで・・・、本名でお願いします。」

「そう、カルディナね?これからもよろしく。」


 カルディナの肩に手をかけて微笑みかけると、安心したのかそれなりにかわいらしい表情を浮かべている。だが、ちょっと気づいてしまったのだが、一つ確認しなければならないことがある・・・!


「クルガン?あなた、そういえばカルディナに着せる服とか任せてたよね?」


 暗に気づいたんじゃないかとクルガンに投げかける。気づいていたんなら一言ぐらいかけてくれてもいいが、カルディナに気を使って言わなかったのなら情状酌量の余地がある。


「いえいえ、うまく隠されてましたんで・・・。」


 クルガンは少し困った表情をしながら手を振って否定を示している。その姿はアイーシャにとって違和感を覚えさせた。何となくこういう時のクルガンはごまかすというか煙に巻こうとしている時の感じが多い。


「・・・クルガン?別に、隠していても気づけるでしょ?あなたの事だから調べてるんでしょ?」


 ちょっと声音を冷たく聞いてみるとクルガンはガックリと項垂れた。よし、とりあえずクルガンにも罰決定とする。


「とりあえずクルガンも、ごまかそうとしたからファルフリードの後1週間、掃除引継ね?」

「えぇ!?それだけでですか!?」


 クルガンがガックリとした状態からさっと身を起こして抗議の声を上げるが、気づいていたんなら今回の騒動の遠因ともいえるはずだ。


「いや、気づいてたってちゃんと言ってくれたら考えたけど、隠そうとしたんだから、その性根に罰よ。」


 にこにことクルガンに言い募るとごまかそうとしたのは事実なようで完全に項垂れた。そのクルガンの肩をアルガスが慰めるようにぽんぽんと叩いている。


「・・・ケイティ姉、今アイーシャ、ものすごい機嫌悪い?」

「しっ!とばっちりくらうわよ!?」

「原因はやっぱりダメ戦闘員のせい?」

「多分、色々ひっくるめてダメ戦闘員のせいよ。恋する乙女にとってはそりゃもう色々と複雑でしょうよ。」


 後ろでニコとケイティが好き勝手にしゃべっているがとりあえず睨みつけて黙らせる。そっぽを向いてとぼけている二人の姿をみて少し冷静になるが、とりあえず決定は覆さない。

 これはうちの大事な稼ぎ頭にけがをさせてしまったということでとりあえず原因となった者には罰を受けてもらう。だからそう、他意は無いのだ。


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