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第2話 閑話 新入社員とケイティ

「今回の依頼内容は物資輸送の護衛よ。戦闘行為は恐らくないけど、七番街から四番街へ移動するみたいだからその護衛が目的ね。一応、出動者はケイティとファルフリード、それに今回は研修目的でカルディエを一緒に連れて行って。現場の空気を教えることが目標だからカルディエはケイティがやっていることを見ておくこと。いいわね?」


 アイーシャが出発前に皆に指示した内容を思い出してカルディエはため息をついた。

 アステリズモで働くようになってそろそろ1か月経とうとしているが、依然として自分がこの会社に何かできているわけではないため肩身が狭い。これでも少しは覚えてきたつもりなのだがアルガス主任から教えられる内容は次から次へ来ており、結局のところ自分が進んでいるのかどうか、自分がどれくらいできているのかわからずやきもきする。クルガン先輩から整備の道が険しいことを教えてもらったが、それでも苦しいと思うものは苦しい。


 カルディエは今ケイティとファルフリードと共に大型トラックに乗り込んでケイティの運転の元、助手席に座っている。この大型トラックは運転席と助手席から後ろの荷台に入ることができ、その荷台には待機室がある上、さらにその後ろの幌を被せてた状態でアステリズモのM,Aであるスカベンジャーが横たわっている。ファルフリード先輩を探すと先ほど、客席で眠っていた。


「どう?アルガスは怖い?」


 集合場所に到着し、依頼のため帯同し始めてから15分、ケイティ先輩がトラックを運転しながら声をかけてきた。


「実は最近慣れてきました。こちらが危ないことをしている時とかみたいな怒っている時の声とそうでない時のただ大きな声の違いがやっと分かってきたんです。」

「ふふ。昔はよく経験積みにうちの会社に若い子たちが来ていたのよ。で、アルガスのしごきに耐えられないのはすぐにやめていったんだけど、アルガス自身は怒鳴っているつもりじゃないのよね。」


 ケイティ先輩が何かを思い出して笑っている。・・・ただ笑うのすら色っぽいと思う。


「ま、うちもやる気のある子とそうでない子の選別ができるから楽なんだけどね。でも、戦場の整備場はだてな戦場よりうるさいわよ?アルガスのあれくらいの声じゃないと届かないくらいなんだから。・・・どうしたの?」


 微笑みながら話を続けるケイティ先輩を眺めていると、その視線に気づいたのか問いかけられた。


「いえ、この会社の人たちってものすごい面倒見がいいじゃないですか。あまりそういう話は聞いたことが無くて・・・。」


 カルディエは無遠慮に眺めすぎてしまったことを恥じて後頭部をかきながら答えた。


「・・・そうね、そうやって困った人に手を差し伸べる姿はアイーシャが憧れたものなのよ。本当はもっと打算的なものだったのだけど、アイーシャにはそれがまぶしく映っていたみたいなのよ。そして、私たちはそんなアイーシャが好きだから社員としても私人としても支えていくの。」


 憧れという言葉に胸がうずく。思い起こすのは自分たちが襲われている時に助けてくれたそのM,Aの姿であった。その時の思ったのだ。力のない自分でも戦うことができるM,Aに乗りたい、と。

 そのために色々と調べていた内に企業の戦力内訳で戦闘員が少ないのにランクが高い場所アステリズモに入社したのだが、自分の意思に反してM,Aに乗せてもらう話は全くない。アステリズモの場所に向かう際に迷ってしまって手持ち金も尽きてしまった自分としては、ひとまずこのままアステリズモにいて合格貰うとしてもそうでないとしても、まずは手持に余裕が無ければ話にならない。力が無ければ父も母も姉も死ぬことは無かったから。


「カルディエは・・・どうしてもM,Aに乗りたいのね。」

「う、え?いや、あ、私は・・・、はい。乗りたいです。」


 ケイティに見透かされたように感じたカルディエは動揺して隠そうとしたものの隠しても無駄と思い頷いた。


「そう・・・、整備を続けているうちにM,Aには操縦者の命を守るという考え方が無いというのにも気づいたというのに?」


 その声に責めるような響きは無いが、なぜか心苦しいと感じるのは何故だろうか・・・。


「それでも、です。」

「そう・・・。あなたにも譲れない何かがあるのでしょうね。なら、少し厳しいこと言わせてもらうわ。もし、あなたが死んだらあなたの死へ責任を負うのは社長よ。だからこそ社長含めて皆があなたがM,Aに乗ることを止めたの。あなたは責任なんて負ってほしいと思わないのかもしれない。けど、残された人はそう思えないのよ。だから、今のままM,Aの仕組みやそれぞれの機体の特徴すら分からない状態でM,Aに乗るのはいくらお願いされても駄目よ。もし、この会社にいてそれでも乗りたいと思うのならば時間がかかることは覚悟しなさいな。」

「・・・はい。」


 今の自分を雇ってくれる会社が他にあるわけでもないため、雇い主たちに言われていれば納得するしかない。それでも、あきらめられないものはあるが・・・。

 ただ、どこまでも穏やかに諭すように言われると非常にバツが悪く感じてしまう。

 その後はどうにも会話に間がいてしまい、居心地の悪さを感じたカルディエは後ろの席にいるファルフリードの様子を見に行くとケイティに伝えて移動した。後ろの休憩室に移動すると中は暗くなっており、備え付けられているソファ席にだらしなく寝そべっているファルフリードが見えた。

 その姿を見て自分の現状に納得できていないことをどうしようもなく感じてしまう。そもそもこの男は準備から出発まで機体を乗り込ませたらひたすらソファで寝続けているのだ。かといって自分に機体を触らせてくれることもないためどうにもすることが無い。結局焦りだけが募る。

 ただ、M,Aに乗るのは報復をしたいからというわけではない。それこそ、父を陥れた奴はようとして行方は知れず、母が死んだのは父がいなくなってしまって心身のバランスを崩したうえで街区を移動させられたからだ。姉を殺した奴らはあの時のM,Aに全て滅ぼされた。だから力を使って復讐したいわけではないのだが、心がどうしようもなくただひたすら力を、早く欲しいと思ってしまう。

 どうしようも、ないのだ。結局、ただただ焦燥が、焦りがこの身を焦がすのだ。


 暗い部屋でカルディエはソファとは別の椅子に腰かけながらただ一点を見つめ続けて時間を過ごすのであった。



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