第2話 日常 傭兵組合の日常
官舎街区の中でしばらくの年季を感じさせる真四角の4階建てという建物が七番街における傭兵組合のビルだというと、大体の人には通じる。多くの建物はそこまでの高さが無く、4階以上の建物があるといってもあるのは中央公舎ぐらいのため、非常にわかりやすい。
自分たちの暮らしている七番街北区は出生登録されている住民が少ないこともあり開発が遅れているのだが、官舎街区ともなってくると七番街としては道が舗装されているため、車で走ると非常に快適さを感じる。
車両を駐車場に止めて施設内に入ると施設内の総合受付がにこやかに応対してくる。アステリズモは傭兵業界ではそれなりに名を知られるようになってきたので、受付も見とがめるようなことはしてこない。
「一応、今日はカルディエの見学も兼ねてこちらに来たわけだけど、実際には依頼受けるだけならネットワーク上でもできるからわざわざこちらに来なくてもよいのよ。」
しきりに周りを見回すカルディエに微笑みながらアイーシャは説明をしていく。これから長くうちで働くにしても、他の会社に行くとしても組合で何をやっているのか知らないことには話にならないだろうから、あの部署ではこんな手続きをしている、だとか説明していく。カルディエは手元のメモを必死にとりながら食い入るように施設の中を見て回っている。
「基本的に組合の仕事というのは依頼の受諾と斡旋。登録業の保護や支援を行っているわ。あまり有名でない会社はここにいって依頼を斡旋してもらっているのよ。その分登録料は結構かかるのだけどね。当然、登録していない会社も多いのよ?登録しているとできないような依頼とかを受けるのなら登録していない方がいいこともあるのよ。」
「登録しない方がよいこと?」
「そうね、襲撃根拠がなければ襲撃依頼とかは組合は基本的に斡旋しないのよ。しかも、そういう依頼は基本的に収入が多いからそういう依頼を受けるために登録していないとこもあるわ。・・・あとは傭兵会社をやっているとあるのが組合による違反通告があるの。例えば、ホームの意向に沿わないことや組合の制定したルールにないことをやったりした場合とか、ね。で、その違反通告を一定数もらってしまうと、3か月ほど組合を通して依頼を受けることができなくなってしまうの。だから、あまり非合法すれすれのことをやっていると仕事を貰えなくなってしまうのだけど、登録していなければ違反通告されないから後は自己責任でホームからの鎮圧対象に指定されないように仕事できるということでもあるの。
登録していればルールの中で生きていかなければならないなら、登録しなければルールを無視できるということだけれども、組合の庇護が無いと対立行為をした時に身元の保証をしてくれないからホームから鎮圧対象にされる確率がかなり上がるということでもあるのだけどね。」
このあたりはそれこそ父親から耳にタコができるほど聞かされている。父さん自身は何回か組合から営業停止を貰ったことがあるらしいけど。
カルディエはふむふむと頷きながら施設内を眺めていると、組合の壁に設置された巨大な液晶に表示されている登録企業一覧をみつけたのかじっくりと眺めている。下はEランクから上はAランクまで様々な登録されている企業が掲示されており、カルディエはアステリズモが書いてある場所を探しているようだ。
「登録企業の中でランクって書いてあるけどあれは?」
「ランクは基本的に自己申告よ。実績さえあればいくらでも高いランクを自己申告しても構わないの。概ね自己申告に応じたランクの依頼を紹介してもらえるわ。ちなみにアステリズモはCランク。」
登録されている企業はCランクとしている企業が最も多い。
「社長、質問です。あの名前が赤になっている企業と白い企業の違いはなんですか?」
登録企業一覧には白文字で書かれている企業と赤文字で書かれている企業が概ね半分ずつになっている。
「あれは休業している企業よ。休業している理由は様々ね。武装が破壊されて依頼を受けられなくなってしまったり、社員がいなくなってしまったり・・・。休業登録すると毎年支払う組合登録料が無くなるけど、3年までなの。3年たつと赤文字の企業は消えてしまうわ。」
「赤い企業が活動休止って・・・。すごい多いのね。」
「実は、七番街はある大きな事件が起きてほとんどの傭兵会社がつぶれてしまった事件があったの。組合の全体会議の会場が狙われてね・・・。大体の会社で代表者や主要戦闘員が死んでしまったの。そのせいで七番街自体は傭兵会社の数も少ないのよ。」
あの事件のせいで父さんも死んでしまったのだ。テロ組織による報復攻撃とされ、首謀者は処刑されたと聞いているが、納得できるものではない。
「と、長くなってしまったわね。それじゃ、今日の本当の目的の依頼受諾をしようかしら。」
アイーシャはカルディエに向き直り笑顔で今日の目的の場所に向かうことを告げるのであった。
組合の依頼受付窓口には2人の受付がいるのが見える。
「モーフィスさん、お久しぶりです。暑くなりましたね。」
うち、1名にアイーシャはにこやかに声をかける。モーフィスと呼ばれた頭を刈り上げた壮年の男性はアイーシャを見つけるとにこやかに返す。
「アステリズモさんか。最近、よい話を聞いているぞ?なかなかハードな生活を続けているようじゃないか?やっとランクを上げに来てくれたのか?」
「ふふ、ならそっちの対応窓口に行っていますよ。今日は仕事を受けに来たのです。」
七番街の傭兵組合は2年前の事件によって慢性的な人手不足に陥っているため高いランクに挙げられる企業はどんどんあげたいというのが意向らしく、最近は口を開けばランクを上げてほしいと言ってくる。
「そうかい?残念だ。ま、そうだろうな。で、受けるランクは?」
「今日は新人研修を兼ねているの。ひとまず一覧を見せていただけないかしら?」
アイーシャが伝えるとモーフィスは窓口から身を少し乗りだしカルディエを眺める。
「ちっ、男か、つまらん。・・・ちと待ってな。・・・ほらよ、嬢ちゃん。」
口を尖らせて不満げに漏らすモーフィスに苦笑しながら印刷された依頼一覧を受け取り、カルディエに見せる。
「こうやって受諾可能な依頼を危険度順に一覧にして見せてもらえるわ。今回は危険度の少ない依頼を受けるつもりだからEランクのこの輸送任務を受諾することにするわ。・・・っとモーフィスさん、こちらのE027番の依頼を受けるわ。手続きをお願い。」
「相変わらず、安全な依頼を選ぶな。了解。んじゃ、依頼主に連絡を取ってアステリズモに連絡をするように伝えるよ。」
モーフィスは頷くと、端末に情報を入力していく。
「ちなみに人気のある依頼とかは傭兵会社で入札するの。で、依頼者が受諾者を指名するという形になるの。でも、今回みたいに依頼掲載からだいぶたっちゃってるのはその場で手続きしてもらえるのよ。」
「じゃあ、今回の任務は?」
「組合が受け取った日から2週間近くたってるわね、ま、本来あまり受ける企業の少ない任務よ。」
依頼データには組合に送った日から全て書かれているが、報酬も少ないためあまり日の目を見るタイプの依頼ではないことは確かだ。
「正直、助かるよ。お前らみたいなのもいる方が依頼も消化できるし、組合としての面子も保てるからな。」
「でしょ?だから私たちのランクもこれくらいでいいのよ。」
端末に情報を入力しながらモーフィスが会話に加わってきたのにアイーシャはにこやかに返す。
「まぁな。だが、今は命知らずの馬鹿どもが依頼を受けるだけ受けてしくじりやがるし、慢性的に腕の立つ会社がいねぇっつー話でもあるんだがな。ほれ、手続き完了だ。また、よろしく頼むよ。」
依頼の手続き完了証をもらって歩き始める。
「と、まぁだいたいこんな感じで依頼を受けられるから難しいことはあまりないわ。でも、ここは七番街ってだけあってあまり一人では来ない方が良いわ。・・・こんな奴らみたいに教育の行き届いていないなかなか下品なのがたまにいるの。」
歩き始めると道をふさぐようにあからさまに品の無い輩が5名ほどアイーシャたちの前をふさいでいた。その輩を冷めた目でアイーシャは言ってのける。
「嬢ちゃん、言ってくれるねぇ。少し楽しいお話をしようと思ったけどおれぁ気が変わっちまったよ。」
「だから、ここに一人で来るときはアルガスから護身武器借りてくるか、誰か連れてくるといいわ。ついでに今度クルガンあたりに戦闘訓練を付けてもらうのも一つの手段かもしれないわよ。」
アイーシャは無視してカルディエに話しかけ続ける。
―昔っから弱いものを見つけるとこうやって脅す輩がいるけど、本当に減らないわね。これでも定期的に締めてるのだけど・・・
後ろに遠く見えるモーフィスに目線を送るとモーフィスは好きにしろと手を振っている。
―なら、好きにさせてもらおうかしら。
「あんた達はここを通す気が無い?」
「嬢ちゃん?悠長じゃないか。そこまで馬鹿にされて俺らもなぁなぁで終わらせるわけにはいかなくなっちまうが?」
アイーシャは冷めた目で右手にアルガス謹製広域スタンショックガンを挨拶代わりに撃ち放つと閃光が炸裂し、目の前にいた男たちはしびれと閃光で体を痙攣させる。
「クルガン!」
アイーシャの合図とともにカルディエとアイーシャの間をするりと通り抜けて無駄な動き無く全員を床に投げ飛ばしていく。
あっという間に倒されていく男たちを見るとどうやら目の前にいる男だけが暴漢の仲間というわけではなかったらしく、クルガンはいかにして気づいたのか戦闘態勢に移ったその仲間たちにも攻撃を加えていく。
アイーシャはクルガンが投げ飛ばした男でまだ意識のありそうな敵を閃光無しモードのスタンショックガンで一人一人完全に沈めていく。
時間にして20秒もたっていないだろうか、アイーシャたちの前には8人ほど寝そべっていた。
「おい、見たかよ、やっぱりあいつらアステリズモだ。容赦ねぇよ・・・。」
野次馬たちがひそひそと噂し合うのが聞こえるが、アイーシャは堂々と笑って、
「皆様、失礼しました。無頼の輩は仕留めましたので、安心してお仕事にお戻りください。」
と、優雅に一礼して去るのであった。




