第1話 戦闘待機 肉体派
あれだけ昼には猛威を振るっていた乾いた熱風も日が暮れ始めるとそのなりを潜め始める。アステリズモのトレーラーはホワイトヘザーが設営した拠点の外れの岩場の陰に置かれていた。
トレーラーの外には先ほど、恨み言を言ってきたホワイトヘザーの戦車部隊の人間が集まっていた。人数が10名前後となっているのを見ると、部隊がかなりの被害を受けたことは想像に難くない。すでにケイティとファルフリードが対応しているが、雰囲気は険悪でまさに一触即発と言える状態であった。
自分が出ていくと火に油を注ぐ結果になると思い、トレーラーの窓の陰で現場の状況を眺めてみる。
「お前が社長か!先ほどの言葉をもう一度言ってみろ!」
部隊の全員が短髪でがたいが良いが、部隊長とみられる男はその中でも異彩を放つかのようにさらにがたいが良く、顔つきもいかめしく角刈りがよく似合っている。
ケイティは自分が社長だということにして、余裕の微笑みを見せて対応を続ける。
「先ほども申し上げたが、こちらが受けた依頼は救助部隊の護衛でございましょう。何をそんなに怒っていらっしゃるのか皆目見当もつきません。」
どうやらかなりケイティも怒っているらしく、挑発を続けている。
「依頼主が危険にさらされている中で、先に逃げる奴がいるか!被害に対してどう責任を取るつもりだ!」
陰で聞いていると、殊更に論理の破たんが理解できる。ただ、これ以上怒らせると危険だと思う、主にホワイトヘザーが・・・。
「つまり、救助部隊のみならず依頼者の護衛ですか?・・・まさか、護衛部隊の護衛など聞いたことがありませんね。」
涼しげな微笑みを見せて鼻で笑ったとたん、部隊の一人がナイフを抜き放ったのが見えた、が…
「きさま・・・がっ」
ファルフリードが涼しい顔をしながらナイフを抜き放った男の顎に対してひじ打ちをかけていた。ひじ打ちされた男は吹き飛ぶが、ファルフリードは追い打ちをかけるように右手を蹴り飛ばしてナイフを手元から離していた。
「武器を抜くとはどういう了見だ!」
ホワイトヘザーが二の句を告げる前にファルフリードが表情を変えて先に声を上げ、黙らせる。
状況はどんどん険悪になっており、いつ衝突が起きてもおかしくない。二人なら問題ないだろうが万一のこともあるので、援護できるように銃器を用意し始めたところにニコとアルガスが部屋に入ってきた。
「お嬢、いつでもトレーラーの発進はできますぜ、機体の固定とかは済ませときましたし、さっき通信である程度ドンパチしたらトレーラーに逃げてこい、っつー感じで二人に連絡入れておいた。クルガンは急いでこっちに来るらしいからあと、10分もしたらケツまくって逃げましょう。」
さすがに話が早くて助かる。ここまで義理立てして戦果も挙げたのだし、言いがかりつけられる中で危険に進んで手を突っ込む義理はないと思う。
とにかく、すぐに逃げられるように準備をするということで頷きあったあと、ふと、ニコが視界にいないことに気づいて探して見ると、ニコはわくわくした顔で先ほど自分がいた場所で二人の姿を見ていた。
ため息をついてアイーシャはニコに手刀を加えて、銃撃で援護するならば適任とアルガスを残して二人でトレーラーの操縦席に向かうのであった。
・・・-・・・
「ごめんって。でもファルフリードって素手でも強いのね。ものすごく吹っ飛んでたし、追い討ちも早かった。」
思ったより手刀が効いたのか頭をさすりながら、トレーラーの通路を走りながらニコが話しかけてきた。
「まったく、一応人の命かかってるんだからふざけすぎちゃだめよ?
・・・そうね、ファルフリードは護衛としてものすごく優秀なのよ、変なところでものすごく残念だけど。」
肩をすくめてニコの言葉に答える。見たければ操縦席から外部カメラで見れるのだ、少し辛抱してほしい。ちなみに私も見たい。
「ううむ、操縦の腕は知ってたけど、素手もあそこまでとは思わなかった。なんでこの会社にいるの?」
「さぁ、私も聞きたいくらいよ、というかうちのファルフリードとケイティとクルガンはある程度生身で戦えるわよ。で、一番生身の戦闘が強いのはクルガンよ。」
「おおう・・・。この会社ってみんなほんとおもしろいね。変なとこで優秀なんだもの。」
「私は違うわよ。ま、会社は零細なんだけどね。・・・と着いたわ。
さて、アイドリングに入れたら外部カメラで様子を見ないとね。」
「さてはアイーシャも興味あり?」
「当り前よ。あんな奴らにやられる二人じゃないわ。アルガスの援護もあるならなおさら、ね。」
操縦席に座り手早く各スイッチを入れてスタンバイ状態にしながらアイーシャはニコへ強気に笑いかけた。
・・・-・・・
「殺傷力のある武器で向かってきたんだ、たかが外傷で済んだだけありがたいと思え!」
モニターを点けるとファルフリードが啖呵を切っているところであった。言い合いはさらにヒートアップしていたが、ホワイトヘザーの部隊は先ほどのファルフリードの手ひどい反撃を受けたせいで二の足を踏んでいるようであった。
「ファルフリードってあんな大声でるんだ・・・。」
ニコが呆然として呟くのを聞いて苦笑する。
―いったい彼女の中のファルフリードはどうなっているのかしら。
トレーラーに積載している電圧銃のチャージを始めると、操縦席でやらなければならないことは全てやり終えてしまったので、モニターに注目する。
「アイーシャ、ファルフリードは何人無力化できると思う?」
ニコが興味津々の目で問いかけてきた。苦笑して問いかける。
「相手は11名で今1名無力化、残り10名、か。ならあと3人じゃない?あとはケイティだと思うわよ。」
モニターから目を離して自信満々でニコに笑いかけた。
・・・-・・・
「このアマっ!」
ホワイトヘザーの一人がしびれを切らしてケイティに掴みかかろうとするが、ケイティは相手の伸ばした手を掴み近接術で地面に叩き付けて、隠し持っていたであろうスタンガンで無力化した。
それを合図に乱闘が始まった。まずはケイティを人質に取ろうとファルフリードに対しては3名ほどが足止めに向かい、残りがケイティに殺到する。
ケイティは冷静に一番前に来た人間の顎に向かって回し蹴りを入れる。そのままの勢いでもう一人にひじ打ちを決めて沈めていく。
「馬鹿な!?女だからって油断するな!」
部隊長と思われる男が焦ったように距離をとり、残った4人が人数に任せてタックルしてくるが、ケイティは翻って3人を順番にいなし、避けきれなくなった1人に対して充電が終わったスタンガンをもう一度押し当てて無力化する。
3人はひるまずに手を変えて今度は掴みかかるが、ケイティは左手を囮に差し出して相手に掴ませると、その左手がスパークを発した。
つかんだ男が体を震えさせて倒れると、ケイティはすぐに距離を詰めて残る2人のうちもう1人を左手で掴みまたもや電撃を流す。
最後の一人が驚いきたじろいだのを見逃さずに見事な回し蹴りで的確に顎を打ち抜く。
「義手よ。」
倒れた最後の一人を見下して呟いて部隊長に向き直る。部隊長は腰元から拳銃を取り出すが、後ろのアルガスからの援護射撃で銃を弾き飛ばされてしまう。アルガスが放ったのは暴徒鎮圧用のゴムボール弾だが生身に当たればただでは済まないだろうことから、的確に武器のみを無力化する。
部隊長は自棄で半笑いになりつつ、ケイティの動向を見守っている。
部隊長に対してケイティはゆっくりと近づき、清々しく笑いかけて右手で見事なストレートを放つのであった。
「いやぁ、さすがです。通信貰って手助けが必要かと思って急いできたのですが・・・もう無力化しているとは二人ともすごいですね。」
「クルガン、ちがうちがう。ほとんどケイティがやったの。つーか俺・・・いらなかったんじゃないのか?」
少し遅れてクルガンが到着し、涼しい顔でお世辞をいってくるのを見てファルフリードは頭をかきながらぼやいた。
「あら?ファルフリード、年頃のか弱い女性を一人で男性の中に入れるのはどうかと思うわよ?」
ケイティが意地悪げな表情を浮かべながら語りかける。
「たとえ、無力化したのが私の半分だって、ね。」
「半分じゃない。11人中7人ケイティで俺が4人だから一応半分は越えている。」
自慢げに、だがそれでも大体半分であることを述べるファルフリードにアイーシャは頭を抱えつつも、操縦席の拡声器を使用して3人と近くにいるアルガスに声をかけた。
「思ったより早く片付いたし、電撃銃も必要無かったわね。とりあえず、ホワイトヘザーに義理で1本連絡を入れたら帰りましょうか。」
「すいませーん!ちょっと待ってください!こちらの不心得者については大変申し訳ないのですが、もうしばらくこの依頼にお付き合いいただけないでしょうか。」
突如、通信が入った。この声にはだいぶ前だが聞き覚えが、ある・・・!
「・・・テスタレッツェ、さんね?」
「おや、覚えていただけて光栄ですね。少々お話しさせていただきたいことがありますので、場所とお時間をくださればと思うのですが・・・。」
脳裏に今回の依頼を求めてきた無表情の女の姿が浮かび、若干無様を晒したことを思い出して色々と苛立ってくる。
「その前に!よ。どういうこと?依頼に対して最優先目標とされていたことを忠実に実行したらこのザマよ。説明が無ければ然るべき苦情を入れて依頼を破棄させてもらうわ。」
「ええ、申し訳ありません。その落とし前含めてお話しさせていただけないでしょうか。」
険を込めて言うが、テスタレッツェはどこ吹く風と穏やかに申し出を続ける。
レーダーに3機の戦闘用M,Aが表示されているのが見える。どうやらこのまま一筋縄で帰してもらえそうにないことが分かり、アイーシャはため息をついた。
「応じていただき、感謝いたします。皆さん、不心得者をこちらに連れてきて下さい、こっちは一人で問題ないですから。この人たちはむやみやたらに喧嘩吹っかけたりしないですし。」
こちらの沈黙を了承ととらえたテスタレッツェは機体をトレーラーに隣接させると部下に戦車部隊の部隊長を連れてくるように命令している。どうやら本当に落とし前についてもやってもらえるようなのだが、正直、そんなことはどうでもいいからアステリズモが名指しされている現状を説明してほしい。あと、あわよくば帰りたい。金よりも命が大事だ。




