第7話
そんなこんなで翌朝ーー
夕べかなり飲み過ぎたみたいで、目覚めると少し頭がズキズキとしていた。
それでも昨日よりは随分と早く起きれたみたいでまだ窓の外は白く欠伸をしながら着替え立て掛けたままだった刀を手に、食堂に向かうとキースとメイアが朝食をとっていた。
「おはよう。」
「あぁ、おはよう。今朝は随分と早いようだが、何か予定でも出来たのか?」
「んー、昨日の夜にあれからニアと色々と話し込んだんだけどさー、こっちでの生活に慣れる為にもギルドで何か仕事探そうかなって思って…さ……。」
言いかけてメイアのお尻の方に視線が釘付けになる。
「なるほど。新しい地に馴染む努力というやつだね?もし依頼で困った事や人手が必要な事が出来たら遠慮なく言ってくれ。協力するよ!」
「え?いや、うん、ありがとう。それはそうと、えと、メイアさんのそれは……何?」
キースにおざなりな返事をしながら、メイアの後ろでパタパタと動く尻尾を指差す。
「え?あぁ、コレ?見たままの尻尾ですよ。私はニアよりも獣人の外的特徴がほんのちょっと強いので、耳と尻尾はどうしても消せないんですよ。」
さも当たり前の様な説明に目が点になる。
「獣人の外的特徴って?」
「あぁ、獣人の混血は個体差があるんだけど、大抵の場合はニアみたいに内的特徴が強い者や、メイアみたいに外的特徴が強い者のと二通りに分かれてるんだよ。」
ーー…って事はアレか?猫耳とかウサ耳&尻尾なおんにゃにょ子も居たりするのか?
ーーそれは是非とも、サワサワさせて頂きたいものだ。
「そ…う、なんだ。」
俺は内心ではっちゃけそうになってる本能を無理矢理押さえ付け、同席して朝食を口にしながら今日のお互いの予定を確認しあい、キースにだけ今夜は娼館通りに寄るつもりだから帰らないかも知れないって事をかなり分厚いオブラートで包んで説明すると、こっそりと机の下から親指を立てて良い笑顔で送り出してくれた。
さてと……
宿を出て両手を挙げ大きくのびをしながらまだ涼しい大気を思いっきり吸い込み、早朝なのにもう混雑しはじめていた大通りをギルド目指し一人歩きだす。
中に入ってみると眠たそうに欠伸を噛み殺しながら書類をまとめている俺の裸体を見たおっさん1号と、三人組の冒険者と話をしているおっさん2号。壁に新しい依頼書らしいものを貼ってるV3おっさんが居るだけで、他の冒険者は見当たらなかった。
「あの~すいません。」
とりあえずは一番近くに居たV3に声を掛けてみたが、このV3は邪魔と言わんばかりの視線を一瞬俺に向けただけで無視して黙々と作業を続けだした。
ーーんだ?愛想悪いなー。
接客の基本すら成ってないV3に内心愚痴り、眠そうに片目を擦りながら書類を捲っている1号の所に行くと、今のランクで受けれる仕事はどんなものが有るのかを聞いてみる。
「あー、はいはい。ちょっと待って下さいね。」
1号は自分の右側にある引き出しから何枚もの書類の束を取り出し、その中から数枚を机の上に置き、今はこれだけですねと渡してきたが、文字が読めないからと依頼内容を音読してもらう。
1.パン屋の鼠駆除
2.薬草採取(種類は比較的簡単なもの)
3.新しい商店建築手伝い
4.商店の資材搬入手伝い
等々・・・・
一号曰く、ランクが低いうちはギルドとしても危険な仕事をさせない方針らしく、どうしても賃金の安い雑用仕事しか回せないらしい。
ーーうーん、予想はしてたけど、やっぱ冒険者って…あっそだ!討伐!
「あ、あのですね、討伐のリストとかって、あります?」
「え〜?少々お待ちを…………こちらになります。」
口調こそ丁寧だったが、何言い出してんだコイツ的なオーラを隠そうともせず、1号は面倒臭そうに後ろの棚から分厚い紐綴じの本を二冊取りだし、カウンターの上に置いて貸出は出来ないからと一言忠告だけすると、途中だったらしい作業を再開し出した。
それを受け取りながら一度だけ後ろを見回したが、他の冒険者も居なかったし、その場でパラパラと頁を捲っていきながらその内容に思わず落胆する。
ーーこーゆー書籍化してる資料なら…って、ちょっと期待したのに絵が一つも無いってどうゆう事だよ。
仕方無く一番報奨金の高い獲物から順に見た目や特徴を何聞いてると、隣の受付に居た三人組がこっちを見て急に笑い出した。
「おいおい小僧。まさかとは思うが、お前そんな玩具持って狩りに行くつもりなのか?」
「ぷはははっ。それにかなり珍妙な格好してるけど、それってどこで流行っんの?」
「大人しく大鼠でも狩ってれば?」
どうやら俺の持って来た刀を木刀か何かと勘違いしてるらしかったが、いちいち説明する義理は無いので一瞬イラッとしながらも雑音は無視!
上位三種の説明を念入りに聞き、買い取り部位についても確認しておく。ついでに隣のパーティーについてこっそり聞いてみたら、Bランク間近な狩猟専門のパーティーとかで、例えば俺が同じように狩猟だけでBに昇格するなら、あの熊モドキを最低でも1000匹以上は狩らないと無理だと言われた。
で、今現在の上位三種ってのは‘‘亜種”や‘‘ナガレ”ってのを除けば一位が彩龍。
四足歩行の全身に派手な迷彩色の柄が特徴的な蜥蜴っぽい奴で、報奨金額は熊モドキ20匹分、主な買取部位は牙と全身の皮と髭。それ以外にも肉や骨も持ち帰れたら別途高価買取してもらえるらしい。
二位はラズリー。
説明を聞いた限りじゃ熊モドキのツノ無し上位種らしいけど四本足と腕が二本のケンタウロス型熊(笑)。金額は熊モドキ10匹分で買取部位は肉と毛皮だけだけど、雄の場合は長い爪も対象に入るらしい。
三位はグリーンファントム。
こいつは六足歩行で木を登ったり集団で狩りをしたりとなかなか厄介な相手らしく、外見は黒豹か虎みたいな奴で金額は熊モドキ5匹分。買取部位は爪と牙、心臓、毛皮が対象だ。
因みに熊モドキは五位でグリズーって名前らしい。雄には角があるので雌雄が見分けられやすいが…複数と遭遇したらBランクでも大怪我をしやすい強敵だそうだ。
ーーキース達よく勝てたな…。
ーー手助けしといて正確だったかも。
で、上位の二種は普段なら森の奥深くに居て見付けるのもなかなか困難らしく、討伐依頼自体もここ数年は出てないらしく、キース達が討伐したグリズーですら実は半年振りの依頼だったらしい。
ーー……どうせなら、あいつらを見返してやるか。
一通り説明を受けてる間にかさっきの奴らは出て行ったらしく、一瞬浮かんだ思いに口元を歪め討伐に必要らしい森に行く為の許可証を発行してもらい意気揚々と席を立つ。
「あぁそうそう、行く前に一つだけ進言しておきますが、誰でも最初はあるんです。焦って怪我なんてしたら勿体無いですよ。」
背後から投げ掛けられた言葉。それに無言で片手だけ上げ答えると、自分らしくも無かった考えに苦笑しながらギルドを出て一直線に防壁を抜け森に入る。
ーー確かに1号の言う通りだよな〜。よしっ!無理し無い程度に頑張りますか!
防壁も見えなくなるほど森の奥へと進みながらちょっと反省。辺りを見回してから前に使った「探知」で、グズリー以上の反応を探し出し高速移動で獲物へと近付いてみる。
ーー出来るだけ買取部位は、傷付け無いように注意しとかないとな………。
最初に見つけたのは体長4mはありそうなラズリーだったので、死角になる場所から様子を伺いつつ一気に距離を詰め頭部に一閃喰らわす。
それだけで呆気ないくらい簡単に倒す事は出来たが、そっからが問題だった。
なんせこの巨体を如何に解体すればいいのか判らないし、そもそもどうやって持ち帰ればいいのかも考えていなかったのだ。
ーーうーん、持って帰るだけなら何とでもなるだろうけど、いちいち仕留める度に往復すんのも面倒だよなー。
そこで思いついたのがゲームでよくあるアイテムボックスのような物が作れないか、早速試してみることにした。
イメージするのは貨物コンテナの様に広い隔離された空間と、腐敗を防止する為の時間停止。
素材はその辺に生えていた大木を適当に切り倒して集めればいいし、ついでに開けた場所も確保出来るから一石二鳥だと目につく一帯を手当たり次第伐採していく。
そんなこんなで小一時間後ーー
出来たのは集めた材料が多すぎたのかイメージした以上に馬鹿デカイ…もはや倉庫と言った方が正しいような木製の箱。
流石にこんな巨大建築物が森の中にあったら不自然過ぎるので地面深くに沈めて隠し、伐採した後の切株に治癒法術を使ってみたらあっさり元通りの大きさに復活した。
更に中身を必要な時だけ出し入れ出来るように設定してみると、流石は適当魔法と感心するくらい上手くいった。
これで問題も無くなったので、後は探知した獲物を仕留め、地中の木箱に転送するだけの単純作業ををひたすら繰り返していくつもりだったが、此処で問題が起きた。
ラズリーを10体程倒した所で、グリーンファントムの群れと遭遇。咄嗟に魔法で威嚇しようとしたのに発動しなかったのだ。
結果、かなりヤバかったが何とかヒット&ランを繰り返し群れは殲滅出来たのだが、やはり適当魔法をアテにすべきでは無いといい意味で教訓になった。
ーーふ〜、やっぱ調子に乗るとヤバいな。これからはもっと慎重に行動しないと。
額に噴き出た汗を拭いながら反省し、死骸を一体づつ転送させ更に狩りを続けていく。
そのうち周辺の反応が無くなり範囲を100kmほど先まで広げないと現れなくなったので、今日はこの後にお楽しみが控えているしと、狩りをやめて街に戻る事にした訳だが、森を抜けてみるとまだ夕暮れにもなっていなかった。
ーーまぁ、いいか。
そもそも店が何時からやってるのかも判らないので早く戻れた事を気にもしなかったが、怪我も返り血も浴びず日も暮れないうちに帰ってきたのを失敗したと思われたのか、戻って早々に俺の姿を見た門番に笑われた。
そのまま真っ直ぐギルドに向かい、木箱から彩龍の頭を転送してカウンターにドンッと載せる。
「これの一体分があるんだけど、此処に出してもいいのかな?」
「は、はひっ?」
戻って来た時に一瞥しかくれなかった1号が何も無い空間からいきなり現れた頭に驚き、無傷の俺と交互に何度も視線を往復させると、何かを思い出したように慌てて奥に引っ込みバレーボール大の革袋を両手で抱えながら出てきた。
それを渡してくれるのかと思いきや裏の方に来てくれと言われたのでそのままついて行くと、ちょっとした草野球でも出来そうな広場に出た。
「残りは此方に出してもらえますか?」
「うぃ!」
1号に指示された場所に胴体も一匹分だけ転送すると、自分から指示してきたくせにポカンと口を開けたまま固まってしまった。
そっから暫くして我に返った1号がぐるりと胴体を一周した後に解体はどうするのか聞いてきたので、ギルドに任せると答えたら持ってきた革袋から金貨を何枚か取り出し別の革袋に移し替えた。
「解体手数料20シリングなります。後、これだけの品質でしたら489シリング(489万位か?)になりますがどうでしょう?」
「いや、どうでしょうって言われてもそれが適正なのかどうか判んないし。」
「買取り額は適正です。不正などしたら懲戒ものですから。」
「ふ〜ん。」
さっきの態度とは一変し恭しく頭を下げる1号から革袋を受け取り中身を確認。
白金貨が30枚と残りは金貨がいっぱい。それを一々確認するのも面倒なので、適当に一掴みだけポケットに入れ、残りは1号の言葉を信じてるよと言いながら刀と一緒に木箱に転送。
頭を下げたままの1号をその場に残し、スキップしそうな足取りで娼館通りにあるロンドの店とやらに早速向かって行った。