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異界転生(修正版)  作者: 七変化
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第20話

それからの道中は巨大百足を発見した以外、特に大した問題も無く二つ目の宿場町へと辿り着いた。


サシャの話だと此処から目的のタナシ寺院迄は後二日程の行程で着くらしい。


そんな理由からか、この宿場町は一つ前の所とは比較にならないほど建物が乱立し、普通に街だと言われても納得しそうな雰囲気を持っていた。


ただ町中を行き交う人の数も比べ物に成らないほど多い割には行商人風の者や、武器を携えた冒険者とおぼしき者達の姿が大半を占め、本来この町に住んでいる筈の者達の姿が殆ど見当たらなかった。


「なぁ、そういやギルドって全国共通なのか?」


「はぁ?何言ってんだおめぇ。そんなもん当然だろうが?でないと俺たちゃ飯の食い上げだっ。」


グスカは町に入ってすぐの露店で買った、何かを食べながら答えてくれた。


その匂いがローストチキンに似ていた事もあり、懐かしさから俺も急いで買いに走り


「おいおい、おめぇ等食い意地張るのもそこまでにしとけよ?明日も早いしサッサと宿に行くぜ。」


と、ガルタスに言われグスカと二人して苦笑を返した。


そのまま通りを進んで行くと今夜の宿に着いたらしく、サシャが降りた後の馬車を俺が二台まとめて馬車置場に連れていくと10代位の上半身裸の少年が藁の上で寝ていた。


ーーん〜?何でこんな所で寝てんだ?


疑問に思いながら起こそうか別の場所に停めようか思案してると、ふいにその少年が目を覚まし一瞬お互いに見つめ合った後、こっちが声を掛けるよりも早く慌ててその場から走り去っていった。


ーー……なんだったんだ?


しばらく少年の走り去った方をぼーっと見つめていたが、寝てた理由も走り去った理由も判るわけないので軽く頭を振って気を取り直すと馬車を置いて宿に入る。


ーーで、その日の夕飯がこれまた懐かしい山椒の香り漂う焼鳥肉で、感動しながらかぶりつき給仕の人からこの辺りで手に入る香辛料だと聞き、速攻で売ってる店を教えてもらい買いに走るとガルタス達に失笑された。





翌日ーー


ミルクのような濃ゆい朝霧が漂う早朝に欠伸を噛み殺しながら素早く身支度と簡単に荷物のチェックを終え、早々に宿を出ようとしたところをタナシ寺院から迎えに来た護衛だと名乗る二人に止められた。


「失礼ですが、身元を証明する物はお持ちですか?」


「ふっ、これだから田舎の冒険者は困る。我らの肩に有る紋章が何よりの証拠だっ!」


そう言いながら大袈裟にマントを靡かせ金糸と赤糸で彩られた紋章をババーンッ!と見せ付けられたが、俺達じゃ判断出来ないのでサシャに確認してもらい、間違いないとサシャが断言したので此処からは七人で護衛する事になった。


ーー寺院からの護衛ねぇ……。

ーー間違いなく俺の監視も兼ねてるよなぁ。


巡礼馬車の左右に馬を並走させる二人をそれと無く観察すると、マントの内側は何処ぞの聖騎士の様な白銀のフルプレートアーマーに鎖つきのこん棒、モーニングスターと俗に言われる物を背中に装備していた。


ただ、法術に必要だからか肘から指先までは布製の手甲しかつけておらず、一見しただけでは二人の技量も未知数だった。


「あの二人。……どうにもいけすかねぇなぁ。」


宿場町を出て大分と進んだ先で手綱を操りながらガルタスが寺院騎士を睨みつけながらボヤくように悪態をつくと、グスカがそれをからかいだした。


「そりゃあ、あっちは顔もイケてる将来有望な寺院騎士様だし、お前と雲泥の差だもんな。」


「うっせぇー!見た目だけじゃねぇ!気取った態度もそうだが今まで向こうから護衛が『迎えに来ました~。』なんて事があったか?」


ガルタスの言葉にグスカとヤランが一瞬眉をひそめた。


「確かに…そうッスね。」


言うが早いかヤランはガルタスの横に座り、酒を煽りながらも二人へ視線を飛ばす。


グスカも何かを考えこむ様に黙り込む。


「今まで無かった事なのか?」


「あぁ、今回の日程にしても例年なら豊穣祭の前に来るのが通例だったんだがな。案外…俺達が知らねぇだけで何か遅れた理由に裏があるかもしれねぇぜ。」


「あぁ、知ってる事を知らねぇフリってんならいくらでもしてやる。だがな、知らせねぇ事ってのが一つあるだけで俺達に降り掛かる危険度は何倍にも跳ね上がるかも知れねぇだろ?」


「なるほどな、信用問題って事か?」


「あぁ、でねえと…もしもの時に命は賭けれねぇよ。」


その後も移動中にそれと無く、かわるがわる注視はしていたが特に何か怪しい仕草を見せるでも無く、此方を完全に無視した様な姿にガルタスがイライラを募らせたぐらいだった。


だが不信感を拭い切れないガルタスの提案でその夜はいざという時に備えテントは建てず馬車で一夜を過ごし事となり、焚火も二台の馬車のすぐ近くでおこすと渦中の二人=寺院騎士達は馬を地面に打ち込んだ楔に繋げ、近くにあった平らな巨石の上に毛布を敷いただけでアーマーも脱がずに寝転びだした。


その姿を向こうからは不審に思われない程度に視線を送りながら警戒しつつ地面に寝転がると、少し状況を整理しようと思考に耽る。


先ず、過去に無かった出迎えをガルタス達は長年の経験からか警戒してた。ただ、それが俺を監視する為に来たのかと言えば違う気もする。


理由は俺が寺院の手伝いをしたのが豊穣祭の最中だったというのが大きい。


そもそもガルタスは『豊穣祭の前に』と言っていた。それなら俺がこの世界に来たのと前後してサシャはこの巡礼に出ていた筈なのだ。となると日程がずれた理由は他にあり、あの二人もそれに関係しているのは間違いないだろう。


ただ、それが何なのかと問われれば、自分にも答えが判らず溜息をつくしか無かった。


ーーあーぁ、マジ面倒臭せぇー。

ーーいっそあの二人を締め上げて理由を聞き出しちまうか?


一瞬そんな物騒な考えが頭を過ったが自分らしく無いと直ぐに考え直し、面倒事が増えそうな予感に頭を掻く。


ーー……とにかく今はサシャが言ってたように、目立たないよう大人しくしてるのが一番だよな、うん。


焚火を見つめながらそう思った矢先、街道を約2kmほど宿場町へ戻った辺りに忽然と人の反応が現れた。


ーーおいおい、マジかよ。


寺院騎士達が他にも身を隠し眼を光らせているかもと警戒の範囲は念を押して、約5kmに設定して‘‘探知”を続けていた筈なのに、有り得無い現象に愕然となる。


「ガルタス、ちょっといいか?」


「んぁ…な、なんだどうかしたのか?」


馬車にもたれる様に近付き、中でガルタスが起きたのを確認しながら異変を調べに行く事を小声で伝える。


「念のため確認してくるから焚火の番を頼めるか?」


「あぁ、だが一人で平気なのか?」


「あぁ。確認に行くだけだしもし野獣なら追い払うなり、倒すなりしてくる。」


もしかしたら魔法の精度に問題があったのかも知れないし、敢えて何かが居たと明言はせずに怪しい気配を感じたからと言葉を濁し、ハイロンの目も気にして灯りも持たずに馬車からかなり離れるまでは歩き、夜の闇に姿が紛れたところで一気に反応のあった場所まで駆け出す。


「!!!」


「おやおや、こんな夜遅くに誰か思ぉたら…暫くぶりやねぇユージ殿。」


反応のあった場所に足音を殺しながら疾走すると唐突に夜の闇から浮き上がってきた漆黒のローブから聞いた声が響く。


「えっ!リ、リリア?なっ、なんでこんな所にいんの?」


「ほほほっ、ちぃと湯治に行く途中じゃ。」


「はぁ〜?湯治って温泉が近くにあるのか?」


「帝都の近く、ベレス火山の麓にな。」


「でも何でこんな夜中に一人で?」


会話としては成立しているが、怪しすぎる理由にとてもじゃ無いが納得は出来ない。


大体、護衛をつけて移動するような街道を女の身一つでってのも不信感を高めていた。


「まぁまぁ、此処で会ったのも何かの縁やおもぉて、喜んではくれはらへんの?」


「喜ぶって………。そんな親しく無いだろっ。それになんで前と口調がかわってんだよ?」


「ほんにつれへんわぁ、名前も一向に呼んでくれへんし。」


「いやいや、名前呼ぶ時が判らんし、質問にも答えてないよね?」


「何時でも、ええんぇ呼ばれたらスグに行きますよってに。」


なんか、この口調で言われると調子狂うなぁ。

ハッ!まさかそれが狙いか?


一瞬、疑心暗鬼にかられリリアの顔を睨みつけようとしたが、目深に被ったフードが邪魔をして表情が読み取れない。


「あ~もう、よく判んねぇけど、今度名前を呼んだらいいんだな?」


「ほな、やくそくぇ。」


表情が見えない分、話ずらいが口約束を結びこれは異常じゃないなと頭を掻きながら引き返すそうと踵を返す。


「あ、ちょいちょい…そのまま帰ったら言い訳、面倒やろ~からこれ持って行きぃ。」


指さされた方を見てみると、街道横の草むらに軽四サイズの巨大猪が倒れていた。


「は?こ、ちょっ……はぁ~?何処行った?」


さっきまでいなかった筈の巨大猪に驚きながら振り向いた時には既に何処にも姿が無く、慌てて探知しなおしたが何故か反応が無かった。


「これをどうしろってんだよ……。」


横たわる巨大猪を見つめながら呟き溜息を一つ、そのままにしておいても仕方ないだろうと肉体強化を使って馬車まで後ろ脚を両肩に担いだ形で引きずりながら戻ると、結構な音がしていたのか、剣を片手に構えたガルタスが出迎えてくれ、引きずってきた巨大猪を見るなりグスカとハイロンを呼び起こした。


「おいおい、こんなの何処に居たんだよっ!」


「んな事ぁどーでもいいんだよ!それよりさっさとコイツを捌いて食うぞっ!」


「へっ?」


二人共、馬車から出てくるなり目にした巨大猪に驚きながらもガルタスの言葉に3人がかりで解体を始め、唐突に焼肉パーティーが始まった。



そしてーー


翌朝の昼過ぎには堅牢そうな石造りの防壁が見えはじめ、タナシ寺院には夕方前に辿り着けた。


「此処まで護衛ご苦労!後は我々が引き継ぐゆえ、諸君等は安心して宿へ向かいたまえ!」


大通りの前で出迎えた寺院騎士の一人が巡礼馬車に乗り込み手綱をとると、交代でハイロンがこちらの馬車に乗りこみ宿に向う道で別れる。


「…で、此処には何日ぐらい居るんだ?」


「助祭士様の手続き次第だが…依頼の内容じゃ二日ってとこだな。」


「俺たちゃ、その間ここで待機って訳よ。」


「今のうちに羽根を伸ばしときなっ。」


宿に着くなりハイロンが昨日の夜に食べ切れなかった肉やら毛皮をギルドに売り付けに行き、残る3人は早々に引き酒を煽り始めた。


「ハイロンが帰ってくるまで待たなくていいのか?」


「あぁ、アイツはどうせ飲んだらスグに寝ちまうからなぁ。」


「喰うのは人一倍だけどなっ。」


グスカとタナシが笑いながらハイロンをからかう。


「んじゃ、俺ちょっとこの街の見物にでも行ってきてもいいかな?」


「お?ユージは着いた早速女遊びか?」


「今晩、頑張るなら精力剤わけてやろ~か?」


冷やかしとからかいが絶えない3人を置いて、宿の部屋を確認すると外に出る。


酒盛りしてる間に日が暮れてたので人混みはまばらだったが、街の住人に紛れて寺院騎士達とは色違いの黒いプレートアーマー姿の騎士をちょくちょく見かけた。


ーー警察……いや、寺院関係の自警団かな?


寺院が仕切っている街なら自警団も居るだろうと軽く考え、様子を見ていたが人混みに紛れながらも辺りに時折鋭い視線を飛ばしている姿に何か違和感を覚えた。


ーーうーん、何と無く怪しいけどわざわざこっちから厄介事に首を突っ込む必要も無いし、とりあえずこいつ等は無視しとくか。


そう結論を出すとアテもなくフラフラと歩き、さっきサシャ達と別れた大通りに出る。


その大通りの正面には夕焼けを背負った寺院が建ち、一枚の絵画の様にも見えた。


ーーそういや、今回の仕事って何で俺に話が回って来たんだ?髭男爵は俺とサシャが知り合いだったって知らなかったみたいだし、ランクだけ見れば俺って最低の筈だよな?


いくら髭男爵が推薦しようとも、噂だけの人物に依頼を受けさせたりするだろうか?


考えれば考える程に謎が増えるが理由なんて判る訳もないので、俺も少しはガルタス達を見習ってギルドに情報収集しにいこうかと寺院を背にまた歩き出した。

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