第11話:スタミナ消費激増の泥沼? ただの無限レベルアップエリアだわ
無音の世界をシステムログで支配し、新スキル『心眼(初級)』を手に入れた直後のことだった。
──ドロリ……。
空間から染み出した不気味な紫色の粘着液が、俺──切磋拓磨の全身にまとわりついた。
まるで全身に超強力なトリモチを塗りたくられたかのように、指一本動かすだけで凄まじい疲労感が襲いかかり、息が激しく乱れる。
【警告:神罰第009号『底なしの泥濘』が発動しました】
【効果:本個体の全身が不可視の精神的泥濘に囚われます。適用中、移動、攻撃、スキル発動を含むあらゆる行動時のスタミナ消費量が通常の『100倍』に激増します。スタミナがゼロになった場合、強制的に強制気絶状態となります】
「ひゃーーはははは! 動けば動くほど自分で自分の首を絞める、泥沼の呪いだ!」
天界のモニターの向こうで、クソジジイ神が待ってましたとばかりに歓喜の声を上げる。
「一歩歩くだけで息が切れ、剣を一振りすれば気絶する! この状態で、周囲から迫り来る無数の魔物をどう捌く! さあ、なぶり殺される未来を受け入れよ!」
神の言葉通り、ゲームにおいて『スタミナ消費100倍』は、実質的な行動不可能を意味する最悪のクソ仕様だ。
さらに悪いことに、新スキル『心眼』のレーダーが、周囲の霧の奥から無数の小型魔物『泥粘土スライム』が、俺を包囲するようにじわじわと這い寄ってくるのを捉えていた。
だが、俺は激しい息切れのなか、完全に冷え切った目でログの『解除条件』を凝視していた。
【神罰第009号・解除条件:本効果が適用されている状態で、スタミナが最大値の『1%未満』の極限状態を、累計30分間維持する】
「……なるほど。スタミナ切れの絶望感をじっくり味わえって仕様(嫌がらせ)か」
普通なら、スタミナが切れた無防備な状態で30分も魔物の群れに囲まれたら、なす術なく貪り食われてゲームオーバーだ。
しかし、俺の唇はニヤリと吊り上がっていた。
「おいクソ運営。お前、スタミナシステム(リソース管理)の基礎設計がガバガバすぎるぞ。『スタミナが減った状態』の判定が、ただの現在値の割合だけで計算されてるなら──その無防備な気絶時間を、俺にとっての『絶対安全な無敵時間』に書き換えてやるよ」
俺は迫り来るスライムの群れを前に、あえてその場から一歩も動かず、その場で新スキル『瞬歩』を連続で発動させた。
シュバシュバシュバッ!
スタミナ消費100倍の状態で、超高速移動の瞬歩を連発する。一瞬にして体力が限界まで削り取られ、わずか3回ステップを踏んだだけで、俺のスタミナバーは完全に消滅した。
【スタミナがゼロになりました。強制気絶状態に入ります】
世界が暗転し、俺の肉体がドサリと地面に倒れ伏す。
だが、俺の意識は、先ほど手に入れたばかりのスキル『反転魔導(初級)』のシステム領域へと逆接続を仕掛けていた。
「──『反転魔導』、発動。俺に適用されている『強制気絶(行動不能)』のベクトルを完全反転──『絶対睡眠(完全回復)』へと書き換える」
キィン……!
本来なら魔物に襲われて即死するはずの気絶状態。しかし、反転のプログラムによって、俺の肉体はシステム上『一切の外部干渉を受け付けない、超急速回復の無敵シェルター(セーフティモード)』へと強制移行した。
スライムたちが俺の身体に乗り上げ、押し潰そうとする。だが、絶対睡眠状態にある俺の肉体は、システム的に「環境オブジェクト」と同じ扱いになり、あらゆる攻撃判定がスカスカとすり抜けていく。
「な、何をしている下等生物……!? 魔物の群れのド真ん中で、なぜ熟睡しているのだ! 仕様変更されたはずの攻撃が一切当たっていないぞ……!? ひ、引き起こし判定がバグっているのか……ッ!?」
天界のクソ神が泡を吹きながら立ち上がる。
前世のブラック企業時代、毎日徹夜続きだった俺は、デスクの引き出しに頭を突っ込んで『システム上は気絶(過労)』しながらも、脳内では『次のタスクの処理(睡眠)』を両立させて生き残ってきたんだわ。強制気絶のバッドステータスを、安全な休憩時間に変えるなんてお手の物だ。
世界のシステムは、俺のスタミナが「1%未満」であることを検知し、冷徹に解除条件のタイマーを回し続ける。
【極限状態の維持:5分……15分……25分……】
周囲のスライムたちは、目の前にある「無敵の肉塊」を攻撃できず、ただ周囲をマヌケに跳ね回る。
そして、きっかり30分が経過した瞬間──。
──ピコーン!
脳内に大音量のシステムファンファーレが鳴り響いた。
【スタミナ極限状態を30分間維持しました──条件を達成しました】
【神罰第009号『底なしの泥濘』が完全解除されました】
【個体名:切磋拓磨の魂に、神格の剥ぎ取り(逆接続)を実行します】
【解除ボーナス:常時パッシブスキル『金剛不壊(初級)』を獲得しました】
パリンッ! と全身を覆っていた紫色の粘着液が消し飛び、俺はむくりと跳ね起きた。
スタミナは全回復。それどころか、新たに手に入れた『金剛不壊』の恩恵により、肉体の質量が何倍にも強化され、周囲に群がっていたスライムたちが、俺が立ち上がった際の発勁(衝撃)だけで一斉に圧殺され、光の粒子へと弾け飛んだ。
【適用中の神罰:残り91個】
静寂が戻った森のなか、天界のモニターの向こうから、「あ、あばばばば……っ!? 动けなくする呪いなのに……自ら気絶して無敵になって30分間やり過ごすなど……そんな横着が許されてまるかぁぁぁーッ!!」という、クソジジイ神の完全にプライドが崩壊した悲鳴が響き渡る。
俺は新スキルの強固な拳を握り締めながら、天を見上げて、これ以上ないほど冷酷に言い放った。
「動いて攻略しろなんて仕様書には一文字も書いてねえんだよ、無能運営。──さあ、残りのデバフ(ゴミ仕様)、全部まとめて持ってこい」




