遅刻の理由を考えるのって大変だよね?
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
そういって、迷子だった子が手を振ってくれた。
傍らの母親が申し訳なさそうにお辞儀をしてくる。
「今度は迷わないようにね~」
そういって、こちらも手を振り返した。
さて、時間は………。
午後八時十五分。
大遅刻だ。
これは、先方もお怒りかな。
まあ、これで『時間通りに来られない愚か者』の烙印を押されたことだろう。
通常であればいいことではないが、今回に関してはいい方向に転ぶだろう。
あまりにも遅いから帰っていることも考えられる。
実際に剣崎家のご息女とお見合いしたときは、10分遅れただけで罵詈雑言を吐かれた。
『貴重な時間を無駄にした』と言われて。
だから今回は、すでに帰宅の途についていることだろう。
でも、体裁の問題として目的地に一度向かっておかないと、あとで因縁をつけられても困りものだ。仕事に対して、一分一秒が問われるタイミングで身動きが取れないのは問題だ。
………こんなにも遅刻をしておいて、こっちの都合に合わせた仕事の時間を問われれば誰だって怒るだろうけど。
それならせめて謝罪の物腰でそっけなく退場するのが無難だろう。
この歳で学んだことは、大体の大人は『学びはすれど反省はせず』だ。
今回もそれに倣おう。
事前に遅れるのであれば、最初から断っておくのも手段だ。そして、いちいち落ち込まない。
これが大人に必要なことだと仕事をしているうえで学んだことだ。
………ま、前回の剣崎家のお見合いから学習もしてない僕はまだまだ子供なのだろう。
さて、本命の料亭についた時にはお店自体の電気が消えていた。
………これは、お店の時間にすら間に合っていなかったか。
これは後日、謝罪文と代金による返品かな。
そう思って、頭を掻いていた時だ。
「お兄ちゃん?」
後ろから、馴染みのある声に呼び止められた。
「香織?」
自分の義理の妹がなぜここに?
「香織、どうしてここに?」
「うーん、お兄ちゃんと絶対にお見合いしたいから『一緒にいてくれませんか?』って、四乃宮家の当主様に言われて」
いや、でもお店に明かりも点いていないし。
「あ、そうだ。お兄ちゃん来たら合図を頂戴って言われていたっけ」
そう言うと、香織が両の手でリズムよく手を叩いた。
すると、消えていた料亭の明かりが灯り始めた。
「マジ?」
ここまでするとは思ってもみなかった。
「さ、お兄ちゃん行こう。おいしい料理が待っているよ?」
我が義妹よ。
お兄ちゃん、ストレスでお腹が痛くて食べれそうにないよ。
別な理由もあるけれど………。




