タイムリミット
私は、抱えられていた手が離れていくのが怖くなった。
あと4年………。
この手が握れなくなる。
この温もりが冷たくなる。
命の灯があと数年で消える。
果たして、耐えられるだろうか。
彼のいない世界。
異常なまでに心拍数が上がる。
「どうしたの?」
お母さんがこちらを見てくる。
この人は、すぐに私の異変に気が付く。
いや、違う。
誰よりも全体を俯瞰しているからわかるのだろう。
彼女を、『お母さん』とよんでいいのか、いまだにわからない。
それでも、この感情は共有したかった。
一人で耐えられるほど、私は強くない。
「あと、………4年、って」
「………っ!」
言葉の意味を察してくれたのか、彼女の顔が険しくなった。
それと同時に、私を強く抱きしめてくれた。
「そう………。ありがとう。どうせ、あの人は私に言ってくれないだろうから」
そんなことないと思う。
なぜだか、この人とお父さんは並んでいると自然に思えた。
そのくらいに、お互いを支えあっていた。
それをみんな『家族』だから、と言っていたがそれは違うと思った。
他の家族が見せるのは、お互いの人生の共有だがこの二人は違う。
自然体。
ベストパートナー。
阿吽の呼吸。
呼び方はいろいろあるけど、二人が傍に居ることに違和感を与えない。
………もう一人だけ。
気に食わないけど、お父さんと相性がいいクソ女がいるけど。
「私は、あなたがうらやましいわ」
その言葉で私は現実に引き戻された。
お母さんが、私を妬むことなんてあるのだろうか。
「時間は残酷なものよ。どんな能力があっても無慈悲に進んでいくの。だから時間を止められるあなたがうらやましいの」
抱かれている腕に力がかかってくる。
この人も苦しいのだ。
「あの人がいない世界なんて、本当に必要なものなのか。私にはわからないのよ」
否定の言葉が思い浮かばない。
それどころか、頷きそうになる。
「………」
「あなたが一緒に苦しい思いをしてくれているだけでも、まだマシなのかもね」
わからない。
………わからないよ。
だって、お父さんは自分の死に無頓着で救わなくてもいい人を自分の命を代償に助けている。
その例にもれず、私やお母さんもその中に含まれている。
「あなたのように時間を停止させることができればと何度も思った。でも、それはあの人の意思を否定することになる」
そっと、この人の肩に腕を回す。
彼女なら、なんとなく気を許せる。
それは、嘘偽りない事実だと思えるから。
お互いの悲しみを理解できるから。
「だから、ね」
ただ、お母さんは少し困った性格をしていた。
「今夜は、彼と二人にして。」
………明日の朝、お父さんは顔面蒼白でした。




