枝分かれする選択肢
かくかくしかじか。
「なるほど。隊長の意見は正しい」
どうやら、健吾さんはお父さんの意図を読み取ったらしい。
………少し悔しい。
私よりも長い年月、一緒に仕事をしてきた仲だからだろうか。
嫉妬心。
そんな表情をしたら、健吾さんが少し慌てたように謝罪してきた。
「すまない。順を追って説明する」
そういって、健吾さんの説明が始まった。
「まず、軍学校の制度は知っているかな?」
「最終試験で、筆記と実技の試験が行われて教官を黙らせればいいんでしょ?」
その回答に面を食らったような表情をされても困る。
「隊長の大雑把な説明だとそう………なるな」
そこで健吾さんたちがどうやって軍学校を卒業したのかを語ってくれた。
「筆記試験は、座学と魔法学、暦学、指令学の三つが出される。この三つの総合点数がおよそ180点なら合格ラインだろう。それぞれ60点、もしくは、一つが低くても残り二つでカバーすればいい。ここまでは大丈夫だろうか?」
「初めて知ったわ。私は受けてないから」
その言葉を発したときに少し、健吾さんの顔が萎れた気がした。
が、すぐに元に戻る。
この人の表情は、無表情が普通だからある意味で読み取りやすい。
「実技に関しては、明確なルールはない。相手の教官が『使えそうだ』、と判断すれば実技試験は合格になる」
「つまり、叩きのめせばいいのでは?」
「紅葉さんなら可能だろうけど、軍学校上がりの子供が大の大人を叩きのめすことは難しい。教本通りの理論と実践で培ってきた経験・体力・魔力コントロール等、ほとんど先駆者には足元に及ばない。そんな中で評価できる点があれば加点されるシステムになっている」
なるほど。
「だけど、君のお父さんは断固反対しているけどね」
「なんで?」
お父さんがどうして反対なのか理解できない。
他の人員を補充できれば楽できるのに。
この時の健吾さんはとても真剣な表情だった。
「僕は、知里が好きだ」
「え? 急に何?」
顔を少し赤くして健吾さんが突拍子もないことを言いだした。
「君もお父さんが好きだろう?」
「好き!」
何を急に、当然のことを。
「もし、その大切な人がいなくなったらどうなる?」
「…………」
意味は理解できた。
でも、その例えはひどいものだ。
いや、親友だから泥をかぶったのだろう。
………いつかお父さんはいなくなるよ、と。
「大切な誰かが死なないように、『選ばれた人間だけがここにいるべきだ』と。君のお父さんは、命を粗末に考えないからね」
「………お父さんらしい」
「ああ」
二人して、感慨に更けてしまった。
が、切り替えの早さも健吾さんは持ち合わせている。
「話を戻そう。その東雲さんのゴールを君は軍学校の卒業に設定している。間違いないかい?」
「それ以外にあるの?」
もはや、開き直りだ。
あきらめの極地を全開にする。
「そこが落とし穴だ。本人に確認しないで決定するのは嫌がらせだよ。それに俺たちのようなデザインチルドレンは『防衛局に勤めるのが基本』という言葉に語弊があるよ。就業先が兵士である必要性はない。支援部隊や、防衛局職員として、購買部で働いている人もいる。当時、僕も魔法が使えなかったから防衛局でもオペレータか指揮官候補生、もしくは、地上地区のリステージ計画へ進路変更しようかと思った次第だ」
今じゃ考えられない。
健吾さんは、たぶんこのコロニーでも3番目くらいに強い。
お父さんの陰に隠れてしまっているけれど、魔法を使わないで一般防衛局員を倒せるまでに常軌を逸脱している。
それもそのはずだ。
魔法が使えないのであれば、魔法に匹敵する技能を使えばいい。
普通の人が空中で刃物を振り回しても空しいだけだが、健吾さんは、極地にたどり着いている。健吾さんが空間を斬れば亜空間が一瞬だけできてしまう。そして、その衝撃で斬撃が相手に飛んでいく。その斬撃すら、常人が受ければ魔法障壁を突破して、体の上下がサヨナラするくらいに恐ろしいものだ。
そんな人が魔法を使えばどうなるのか。
そんなのは簡単だ。
太刀打ちできたものではない。
まともに打ち合えるのは、私かお父さんくらいだろう。
………話が逸れた。
それにしても意外に就職の幅は広いみたいだ。
購買部の人も、もとは軍学校の卒業生であるとは………。
初めて知った。
「君のお父さんは君の視野を広げるために課題を出している状態だ。人の一生にはそれぞれ道がある。『これじゃないといけない』なんてものはない。そう言いたいけど言えない難しい立ち位置なんだろうけどね」
お父さん………。
「さて、今日はここまでにしておこうかな。今回の課題は君が考えてこそだと思うし、その東雲さんもどういった将来像を持っているのか知らないからね」
存外、天才肌だと思っていた健吾さんは説明が上手だった。
普段は、言葉が少ないから心配だったけど偏見だったのかもしれない。
「ありがとう、健吾さん。いつも口数が少ないからアドバイスなんて無駄な時間かも、とか思っていたけど、有意義な時間を過ごせたわ」
なぜか、健吾さんの口元が震えていた。
まあ、気のせいでしょ。
事務所を後にするとき、背後から、
「俺、ダメ人間かな?」
とか聞こえた。




