燭光の伝説
コロニー38では、戦闘行為が全方位で行われていた。
さらに言えば、戦闘から30時間経過していた。
「救援はまだなのか!?」
コロニー38は、すでに限界に達しようとしていた。
元々、防衛局員が少ないコロニー38であったが、今回は追い打ちをかけるようにホワイトカラーの大群が横断してしまった。
人員をフル動員したが、犠牲者や重傷者が次々に出てしまい交代要員もままならない状態となっていた。
そんな状態であったため、各コロニーに対して、救援依頼を約18時間前に補助司令官が送った。
が、いまだにどこのコロニーからも返答はなかった。
ここが落ちれば、次は自分たちのコロニーの番がくる。
そう思い、他のコロニーの軍部は自分たちの巣穴に籠っているのだろう。
現状を俯瞰する総司令としてはもはや絶体絶命と言わざるを得ない。
そんな時に中央司令部の補助司令官に一通のメッセージが届いた。
「コロニー3!?」
そこに映し出されていた送り主はコロニー3からの中央司令部からだった。
「コロニー3って、言えばここからかなりの遠距離のコロニーだぞ!?」
だが、文面を見て驚いたことがあった。
正確には絶望に似た悲観だ。
「一名のみ………作戦に投入」
「一名!?」
たった、一人にどうにかできるレベルは超えている。
例え、二つ名を持っていても四方は、カバーできない。
東と西の間に中央司令部があり、お互いの戦闘地域は、約100km以上離れているのだ。
例え、肉体強化を使っていても肉体の疲労は果てしないし、時間的余裕もない。
なので、不可能に近いのだ。
「まさか、体裁だけの犠牲要員なのか………」
その声に管制室に重い空気が流れた。
その空気を吹き飛ばすかのように通信が入った。
『あ、あー。聞こえます? あ、あ、マイクテスト』
「っ、誰だね!?」
『あれ、メール来てないの? コロニー3からの救援要員だよ? 剣崎さん、送ってないの? そこらへん、きっちりしている人だと思ったけど―』
「………、君は現状を理解しているのかね!? 四方をホワイトカラーの大群に囲まれ、我々がすでに限界が来ていることに!」
その声に不思議なことを言っているかのようにきょとんとした返答が返ってきた。
『だ・か・ら、来たんじゃないですか? こっちも忙しい中、来ているんですから感謝してくださいね?』
「そういうことではない! 逃げろと言っているのだ! 一人に何ができる!? 君だけでも引き返して逃げ―——」
『あー、はいはい。今、降下中でーす。南ブロックから片づけていきますね? 後30秒したら、南ブロックの隊員たち下がらせてくださいね?』
「理解できない! なぜ、引き返さない!? 英雄気取りか!? それともこの現状を理解し———」
その言葉は、続かなかった。
なぜなら、遮るように声の主が言ったことがさらに理解不能なことだったからだ。
『こっちも急いでいるの! 妹の誕生日が明日なんだから! 早く帰らないとご機嫌が悪くなるんだよ!』
何を言っているんだ、こんな時に。
そう思っていると、南ブロックに配置していた隊員たちから悲鳴が上がった。
『空から隕石が!』
『すごい空振が!』
『あつっ!』
それは、モニターに映し出されていた。
一面、火の海となっていた。
その中で一つ動いていたものが見えた。
『いまの隕石爆撃で、ほぼ当てたつもりですけど、残党あります?』
さっきの緊張感のない声が火の海に佇む人物だと初めて理解した。
そして、南ブロックのモニターの隅に敵勢力の数を示す数値があらわされていた。そこにさっきまで4桁に上る数が示されていたが今は0となっていた。
「………南ブロック。ホワイトカラー残存勢力0」
『はいはい、了解。それじゃあ、次は西ブロックに救援に行くから。そっちをモニターしておいて』
そういうと、モニターに南ブロックの燃え盛る場所から砂を巻き上げて重力を無視するかのように空中に舞い上がったところが見えた。
続いて、数分後に西ブロックから、同様に悲鳴が聞こえたと思った瞬間、敵勢力数のカウントが0になる。
『急に寒くなって………』
『砂漠に吹雪とか………』
『ホワイトカラーの氷像とか初めて見た』
現地映像が切り替わると、あたり一面が猛吹雪となっていた。
『オペレーターさん、敵残存勢力数は?』
「………0です」
『そ。なら、次は北ブロックに行くよ。最後は東に行くから』
そのあとは、作業映像を見せられているかのように思えた。
北戦闘エリアでは、激しい雷が連続して観測された。
その雷はホワイトカラーのみに落ち、防衛局員には全く当たらないものだった。
東戦闘エリアでは、砂上の波がホワイトカラーを飲み込んでいた。
その光景は津波のようだった。
その波はやがて渦潮になり、ホワイトカラーたちを咀嚼するようにうねり、飲み込んでいった。
誰も何も言えない状況で、モニターから先ほどと同じように能天気な声が聞こえてきた。
『残存敵勢力0でいいよね? 帰っても大丈夫?』
作戦時間にして30分もかかっていない。
まるで我々の死闘をあざ笑うかのようにコロニー存亡の危機を軽々とたった一人で、そよ風のように解決してみせた。
「君は………一体………」
『僕? やっぱりメール来てないの? 剣崎さん、書いておいてくれよ………』
なぜか困ったように声の主は、しぶしぶといった形で名乗りを上げた。
『甲斐田。甲斐田悠一だよ』
「甲斐田………」
その名前には聞き覚えがあった。
いや、伝説に近い御伽噺の類だと思っていたため、本気にしていなかった。
『今回は、居なかったな』
ボソッと聞こえた通信に含みがあるように感じたがすぐに、声色がもとに戻った。
『それじゃあ、仕事終わりなんで帰りますね?』
そういうと一方的に切られてしまった。
画面越しでは、またも重力が反転したかのように空中に踊りだした。
その先には機空挺があり、それに乗り込んで、行ってしまった。
「我々は、伝説の立ち合いをしたのかもしれない………」
「それは、どういうことですか?」
まだ、若いオペレーターが聞き返してきた。
「コロニー3の甲斐田悠一と言えば伝説に該当する人物だぞ。ここ数年頃から噂が広まったのだ。圧倒的な魔法適応力と順応性を併せ持つ稀代の傑物だ、と」
もちろん噂には尾ひれがつく。
だが、今、目の前で起きたことは紛れもない事実だ。
「甲斐田悠一………。『蒐集家』が、実在しているとは」
機空挺が過ぎていく空を眺めながらただただコロニー38の人々は呆然とするほかなかった。




