裁縫令嬢の悩み
マイペース投稿ですみません…読みにきてくださりありがとうございます!!
はじめて会った時から、フェリクス様が大好きだった。
今もそれは変わらない。彼は私の幸せそのもの。
でも、この初恋は忘れなければいけない。彼の本心を聞いてしまったのだから。
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「…こんな感じでどうかしら」
きらめくような紫の瞳で、アメリアは手元を見つめている。
真剣な彼女の肩からは、ラベンダー色のストレートヘアがはらりと落ちる。
ここ最近アメリアが寝る間を惜しんで作っていたのは、フェリクスへのコサージュだ。
フェリクスはアメリアの婚約者であり、アメリアの今も続く初恋の相手でもある。
慎重に手作りしていたので、約束から2ヶ月ほどかかっている。
だいぶ時間はかかってしまったが、フェリクスに似合いそうな仕上がりだ。
アメリアは子供の頃から裁縫が好きで、作ったものは自身のメイドにあげたり、修道院に寄付している。
実父のアイデアで、側仕えの騎士たちに小さなお守りをあげたこともあった。
フェリクスとの世間話でこの話をしたところ、それを聞くや否やフェリクスが突然「自分もほしい」と言い出したのが、2ヶ月前のこと。
急だったのでもちろん驚いたが、なんせ婚約者とはいえ、第三王子にプレゼントするのだ。
今回のコサージュ作りは、今までとはプレッシャーが段違いだった。
「楽しかったけれど、緊張したわ…フィリクス様が喜んでくださるといいのだけれど」
紺金糸で形作った青いバラが主役になっており、裁縫上手のアメリアによって丁寧に仕上げられた力作だ。
海の沖を掬い取ったような深みある青色にきらめいている。
「きっとお似合いになるわ。自分の髪飾りまで作ってしまったけれど、さすがにちょっと重すぎるかしら…」
バラの花びらを形作っているのは紺金糸という素材で、専門店で目にするのも珍しい代物だ。
その紺金糸をやっとの思いで入手したアメリアは、自分もお揃いでアクセサリーを作ってみたくなった。
実は、これまでたくさんの裁縫をしてきたアメリアだったが、自分のためにはほとんど作ったことがない。
それは、王国の孤児院にもっと役立つために、自分の分を作るより、まずは教会に寄付するバザーの出品数を増やしたいと考えているからだった。
でも他のご令嬢が、自分で刺繍したハンカチを誰かにプレゼントしたり、自分で使っているのを見てアメリアは憧れていた。
その上、好きな人とのおそろいを身につけるなんて、とびきり憧れたシチュエーションなのだ。
「お揃いのものを、今度の夜会でフェリクス様と……しかも私が作って……夢みたい」
アメリアはその瞬間を思い浮かべ、恍惚とつぶやいた。
その一方で、好きな人に手作りのおそろいをプレゼントする初めての状況に、激しく緊張し始めている。
本来アメリアはあまり緊張することがなく、ピンチも平然と切り抜けてしまう。
フェリクスにプレゼントをねだられた時も、動揺をよそにいつもの調子で話が進み、気づいた時には引き受けていた。
混乱しながらも、フェリクスに何かを求められた経験がなかったアメリアはうれしかった。
しかしきっと、レディの微笑みに隠れて、それも伝わっていないはずだ。
「はあ。表情に出ないというのも考えものね……」
そういえば以前、表情に動揺が出ないことで面倒事に巻き込まれたことがあったかもしれない。
アメリアは一人、なんともいえない諦めるような表情でその時のことを思い出していた。
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