こわれたコサージュ
初投稿です。誤字脱字などおしえてください!
秋も終わり、木枯らしが吹き始めた頃。
いまフェリクスの手には、形の崩れた青い「なにか」がある。
それを見て、フェリクスは嫌な予感がしていた。
「まさか……」
風で顔にかかるブロンドは気にせず、王家に遺伝するアイスグレーの瞳を細めて手元をじっと見つめる姿は、彼に憧れる令嬢たちが見れば卒倒しそうな佇まいだ。
近づいてよく見ると、青い布でできた部分にはベールのように繊細なステッチが施されている。
技術だけでなく、心を込めて丁寧に作られたであろうことが窺えた。
もしこの嫌な予感予想が当たっているなら、フェリクスは正気でいられる自信がない。
これが、自分が何年も焦がれてやまない人の作品かもしれないのだから。
ここは港近くにある人通りの少ない公園。
ひとり思案するフィリクスに、後ろから声がかけられた。
「フェリクス第三王子殿下、難しい顔をしてるね?」
ケルディアール王国の三大公爵家の一つ、クラプトン家の嫡男ユーリだ。
そして彼は、フィリクスの唯一の親友でもある。
肩にかからない程度のウェーブヘアは、陽が当たりアッシュベージュが明るく透けている。
からかうように微笑むグリーンの瞳はなんとも甘い雰囲気で、令嬢たちにもマダムにも人気の令息である。
「お前が失くしたパイプを探していたら、これを拾ったんだ」
「ひどい壊れよう……あれ?この金具どこかで見たような形だけど」
たしかに、強い力がかかったようにひどく変形して潰れているものの、ユーリの言うとおり留め具だけは形を保っているようだった。
その金具はうすいクリップのような形をしている。
「…ああ。ブローチやコサージュのあれに似ているね。男性用の小ぶりなものだと、ちょうどこのくらいじゃないかな?」
「言われてみればそうかもしれない。これを見ていると、なぜか胸騒ぎがする」
「ふーん……いやそれより、パイプを見つけないとまずいんだよ」
あまりの必死さに押されて手伝いに来たのだが、今のところ見つかっているのはコサージュだけだ。
しかも驚くべき事に、彼は煙草を吸わない。
パイプのフォルムや手触りが好きらしく、もっぱら観賞用だ。
「はあ…自業自得だ。しかも、吸わないのになぜ持ち歩くんだ?大事にしまっておけばいいものを」
「普段から手に持ちすぎて、ないと落ち着かないんだ。ある意味ホリックだよ」
「吸わないのに中毒とはな」
ユーリは頭の回転が早く、性別に関係なく人身掌握が上手い。
だが、優秀なくせに趣味がなんというか、ユニークなのだ。
令嬢たちにも教えてやりたいところだが、すでに周知の事実らしく、その上で「ミステリアスだわ!」とか「肌身離さずなんて少年みたい」となっているらしい。理解しがたい趣味だと思いながら、フェリクスは小さくため息をつく。
「まあいい。見つけたら報告する」
「ありがとう。持つべきものは友だね」
フェリクスがもう一度ため息をつきながらかわいそうなコサージュ(仮)を眺めていると、あることに気づいた。