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ネガティブ・ララティ 最終話


 ララティの着ぐるみが完成し、後は自然にララティのウサギ体の体毛が生え揃うのを待つばかり。

 部屋で落ち込み続けていたララティは元気を取り戻し外に出るようになった。以前ほどに活動的では無いが、これでもう心配することも無さそうに。


 そんな時にララティはアイジスの執務室に訪れた。


「アイジスねえ様ー、ちょっとよろしいぴょん?」


「ララティか? ちょっと待ってくれ」


 言って机の上の書類から顔を上げるアイジス。人化の魔法の長時間維持の得意なアイジスは事務仕事の時は人の姿になる。

 次の『ウィラーイン家慰安旅行』に来る深都の住人のメンバー選定に日程調整などを書き留めていた書類を纏める。

 机の側にいるアイジス専任となった少年執事ニースが「後は僕がします」と書類を受け取る。

 アイジスは頼むと言ってララティに向き直る。


「どうしたララティ? そろそろ魔法は使えるようになったのか?」


「うにゅー、まだ安定してないぴょ。あの、今日はアイジスねえ様に言いたいことがあるぴょん」


「なんだ?」


 アイジスの見る前でララティは背筋を正す。清楚な歌姫風の衣装で落ち着いた令嬢のようなララティ。いつもよりおしとやかでおとなしいララティを見るアイジスは、


(あのララティがこうも大人しくなるとは。いや、今は毛刈りされていつもと違うのだ。もとに戻るまではララティに優しくしよう)


 と、考えていた。清楚なララティを前に落ち着かない気分。そのアイジスを前にララティは深々と頭を下げる。


「アイジスねえ様、いつもいつも迷惑かけてゴメンナサイぴょん」


「な?」


 驚愕のあまり口をポカンと開けて固まるアイジス。困惑したままパクパクと口を明け閉めしてようやく声を出す。


「え? あ? ララティがゴメンナサイ? いつもは取っ捕まって吊るされてからじゃないとゴメンナサイと言わないララティが? ララティ、いったい何をした?」


「これまでのあちのしてきたことを反省したぴょん」


 ララティはうつむき胸の前で手を組む。まるで祈りを捧げるように。


「アイジスねえ様はいつも妹たちのことを考えて、あちたちのことを心配してくれるぴょ」


「そ、そういうのが姉の努めというものだ」


「そのことに甘えて、あちはいつもアイジスねえ様を困らせるようなことばかりしてたぴょ。アイジスねえ様の苦悩も知らずに」


「いや、まあ、ララティのすることは度が過ぎると言うか、限度を知らんというか」


 項垂れるララティを前にアイジスはなんと言おうか悩み、ひとつコホンと咳払いしてから口調を改める。


「ララティ、顔を上げてくれ」


「アイジスねえ様?」


「あー、その、なんだ。ララティのイタズラはやり過ぎなことも多いが、私はそこに感謝している部分もある」


「ぴょ? 感謝?」


「私は今、こうして深都からの外交官としてウィラーイン家にいる。だが私ひとりでは人と今のように付き合えていたかというと、自信は無い。私は人間領域に関わったことが少ないからな。

 これはカッセルとユッキルから教えてもらったことだが、相手に自分を侮らせて警戒されないようにして相手の懐に入る。これは旅芸人の技術のひとつなのだという。

 これを自然に行ってしまうララティがいるおかげで、深都の住人とウィラーイン家との交流が深まった」


「そうなのぴょ?」


「これは私にはできないことだ」


「でもそれは、ゼラのおかげぴょん」


「ゼラが切っ掛けなのは確かだ。だがその後のウィラーイン家との縁を繋ぎ深めてきたのは、ララティたちだ。深都を脱走したと聞いたときには目眩がしたが、結果として良い方向へと繋がった」


 アイジスは席を立ち、机を回りララティに近づく。手を伸ばしてララティの金の髪を優しく撫でる。


「私では上手くできないことをララティはしてくれる。別館酒場で聖獣警護隊と酒を呑んでお喋りして盛り上がるとか、どうにも私にはそういった交流が苦手だ」


「うにゅ、アイジスねえ様にむずかしいところ任せてしまってるから、あちはそれ以外でできそうなことをしてるぴょん」


「あぁ、それで助かっている。だから後で始末に困るようなこととか、悲惨な怪我人が出るとかが無ければ私がフォローする。ララティは今は体調を戻すことに専念しろ」


「うん。いつもありがとう、アイジスねえ様」


 ララティはペコリと頭を下げて静静(しずしず)とアイジスの執務室を出て行った。

 見送ったアイジスは扉が閉まると、はあー、と深く息を吐いて椅子に座る。


「おしとやかなララティというのは、調子が狂う」


「僕も驚きました」


 側でアイジスとララティの会話を聞いていた少年執事が言う。ララティの出て行った扉を見つめながら、


「いつも能天気で元気なララティ、と思っていましたが、ララティもまた深都の住人だったんですね」


「ニース、それはどういう意味だ?」


「ウィラーイン家に来られる深都の住人はなんというか、その、見ていて心配になるような線の細い方ばかりなので」


「あー、それは」


 アイジスはチラリと机の上の書類を見る。深都の住人の『ウィラーイン家慰安旅行』に関わる書類。


「ウィラーイン家の癒し効果を期待して、ウィラーイン家に来る妹たちを選んでいるからだ」


「癒し効果、ですか?」


「そうだ。ハイアディがウィラーイン家に来てから随分と変わった。内向的で落ち込みやすいハイアディが活発になり元気になった。その癒し効果を期待しているから、ウィラーイン家に来る妹たちは内気で物静かなタイプが多くなる」


「そうなんですか? 僕はてっきり深都の住人とは考え込み過ぎる繊細な方が多いのかと」


「能天気で騒動を起こしそうなのが来ないようにしているだけだ。元気な妹たちもいる、中には人間領域では問題を起こしそうな妹も。ララティは本来なら、元気過ぎて何かやらかしそうだから人間領域に来させないようにする筈だったんだが」


 アイジスは眉を寄せ困った顔をする。


「しかし、おしとやかで元気の無いキレイなララティというのは、どう扱っていいか分からん。何かモヤモヤする」


「キレイなララティ……」


 こんな感じでキレイなララティはあちこちで人を困惑させる事態を引き起こす。


◇◇◇◇◇


「アプラースー、お掃除手伝うぴょん」


「え? ララティが? あ、いや、手伝ってくれるのはありがたいが、」


「別館長のアプラースには、いつもあちたちの面倒見てもらっていて、感謝してるぴょ」


「これもスピルードルの王族の務めというもの。私も務まるかどうか最初は不安しかなかったが、あぁ、手伝ってくれるなら箒を持ってこよう」


◇◇◇◇◇


「フェディエアー、いつも別館酒場の会計とか仕入れとか、面倒なこと任せて申し訳ないぴょん」


「ララティ? え? 申し訳ない? ええ?」


「あちが酒場でマスター気分を味わうために、面倒押し付けてしまって、ゴメンナサイぴょん」


「あの、ララティが謝ることは無いのよ。今は別館酒場とロッティの酒処『たんたたん』は専門の事務員がいるし」


「あちがお金の計算とかワカンナイから、何も手伝えなくて、いろいろたいへんぴょ?」


「心配しなくていいわ。始めの頃はちょっとたいへんだったけれど、別館酒場は聖獣警護隊の慰安施設として認められたから。経費は聖獣警護隊につけてるし、運営も分かって来たから。ララティはいつも通りに酒場でマスターしてくれたらいいのよ」


「ほんとぴょ?」


「えぇ、だからララティは元気になったら、また別館酒場でマスターになってね。聖獣警護隊の酒好きも待ってるから」


◇◇◇◇◇


「グリーンラビット試験牧場のみなさーん、いつもお疲れ様ぴょん。今日はカラァとジプと一緒に作ったクッキーを差し入れに持ってきたぴょん」


「うえ? ララティが? ララティ特別顧問が?」


「気の荒いグリーンラビットを大事にしてくれて、あちも嬉しいぴょん」


「あ、そりゃまあ、ウィラーインの博物学者、ルミリア様の試験牧場なんだから」


「これからもウサギたちをよろしくお願いいたしますぴょん」


 と、あちこちで『キレイなララティ』はこれまでのイタズラを反省し、迷惑をかけたところに謝罪行脚を行った。そして細やかに礼を尽くした。

 もっともこれまでのララティを知っている者からは、何か落ち着かない、背中が痒くなる、遠回しにからかっているのか? いやあれがララティの本音なのか? ちょっと不気味だ、毛刈りヤバイな、と心配されることに。

 観察するルブセィラ女史いわく、


「人は弱ったときに本音が出たりします。ララティもまたいつもはお調子者ですが、その実、いろいろなことを考えていたのでしょう。毛刈りされたことでいつもはお調子者で隠されていたララティの本心が、こうして現れたのではないでしょうか?」


 と考察する。

 またカダールがララティを元気づけようとしたときの会話から、ララティが実は落ち込みやすい姉妹の気を晴らす為に道化になった、ということも伝わることに。

 ララティとはただのお調子者のイタズラウサギではなく、実は姉妹想いの優しいウサギだったのだ、とララティが見直されることになる。


 もっとも『キレイなララティ』がいたのは、体毛が元通りに生え揃うまでの7日間だけだった。

 白い体毛が長くなり、着ぐるみを脱いでその純白の毛に桃色の艶が戻る頃。元通りのイタズラウサギ、ララティが復活した。

 また子供たちとおかしな遊びをし始めるララティ。中庭で逃げるララティをアイジスが追いかける。


「ララティ! 中庭に弾丸カボチャを植えたのはやはりララティか!」


「ぴょー! 今回はあちだけじゃ無いぴょ、カッセルとユッキルも弾丸カボチャ美味しいって言ったからぴょん!」


「あの二人は言っただけで植えていない! 危険なものを持ち込むなとあれほど言っただろうが!」


「聖獣警護隊の訓練にもなるって言ってたぴょ!」


「そういうのは訓練施設でやれ! これ以上館の敷地内で無法をするな! 待たんかララティー!!」


 いつものようにララティが取っ捕まり反省するまで逆さ吊りにされる。中庭でぷらーんと逆さになって揺れる下半身大兎の乙女を見て、


「やはり、こちらの方が落ち着くな」


 とカダールは呟く。体毛がもと通りになったララティはイタズラ癖ももと通りに。

 こうしてウィラーイン家にいつもの平穏な騒動の日々が戻ってきた。


◇◇◇◇◇


ララティ

「にゅふふ、たまにはこーしてあちのいつもとは違う一面をアピール。日頃見せない顔をチラリすることで好感度上昇ぴょ。人気もアップぴょ。実は姉妹想いの優しいウサギ、と身内の信頼も上げることで、これからのアイドル活動にも親身に応援してもらえるぴょん。新デザインの歌姫衣装も手に入れて、あちの計画は完璧ぴょん!」


ルティ&ロッティ

「「え?」」


 導入、蜘蛛意吐スパイラルメーカー、K John・Smith樣。


m(_ _)m ありがとうございます。

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[良い点] ◉蜘蛛意吐スパイラルメーカー NOMAR様から新しいあだ名で呼ばれた! 『……様』ではない。蜘蛛の意吐の仲間にあたたかく加えられた感! ビバ、スパイラル!! …… "୧(T喜 T୧…
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