053話 点火
ファンタジア大賞の原稿書いてたら更新遅れた。
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天枷紫苑VS火口鉄平。屋敷の前で互いに出方を伺い、牽制し合う。
「……くっ、不味いですね。そろそろ私の魔力が底を尽きる。流斗様の指示とはいえ、神崎家に来るまでに、魔力を消費し過ぎたか……」
一度そう思ったものの、いや待てよ、と紫苑は考え直す。
(今、この瞬間にも、私の魔力は流斗様に吸収されている。それも、おそらく意図的ではなく、感情の昂りによって。まさか……遥さんが身罷られたのか? それでは今、流斗様の精神状態は……。やはり、ここで私が火口を倒さなければ……流斗様の御心が……)
紫苑は形成したクレイモアを火口に向ける。彼もそれに対して構えを取った。
しかし、気を張った二人の戦闘領域に、急遽――凶暴な獣が現れた。
◇ ◇ ◇
「どこだぁあああぁぁあああああッ! 火口ィイイ!」
燃え続ける神崎家の中から、物凄い怒声が聞こえた。
紫苑がそれを認識した瞬間、近くの壁が勢いよく崩壊し、火と煙の中から鬼のような形相をした神崎流斗が、天枷紫苑と火口鉄平の戦場に飛び込んできた。
「……チッ、なんだぁ!?」
「見つけたぞ、火口! 姉さんの仇ィイィィィイッ!!」
火口に対して恨みを剥き出しに、猛然と攻めかかる流斗。
「……許さない、許さない、決して許されない! 殺す、殺す、殺す!」
その姿は悪鬼羅刹。狂気によって歪んだ、恐ろしい阿修羅だった。
「断罪のときは今! その命で贖ってもらうぞ!」
人というよりは、凶暴で獰猛な制御の利かない獣。
紫苑には、流斗の姿が黒い闇に染まった怨讐の塊に見えた。
過去に一度として見たこともない、流斗の猛り狂った憤怒の形相に、思わずその従者である紫苑ですら尻込みしてしまう。
紫苑は思わず死を覚悟した。相手は味方。それも自分の主だというのに。
生物としての本能が、この人は、この生物は、危険だと告げていた。
「火口、お前の罪は――生きていることだ!」
生きている限り、人はいつか死ぬ。それが遅いか早いかだけの違い。
それに例え死んだとしても、その魂が失われることはない。
その者が生きた痕跡が残れば、それが他者を導く道標となる。
(だから、俺からすれば、生きていても、死んでいても、同じこと……)
今までは、遥と出会うまでは、そう思っていたのに。
「まずは《暁の光》への復讐の手始めに、火口……お前の断末魔を姉さんの鎮魂歌として捧げる。恐怖で阿り、泣き叫びながら死ね。この世に生まれてきたことを後悔させてやる」
相応の対価をなしにして、望む力は手に入らない。
ならば、己が命を懸け、骨の髄までそのすべてを振り絞れ。
流斗は最速で火口の懐へと飛び込む。
だが、そこには炎の灯るバスターソードを振りかざす火口が嗤っていた。しかし、
「――《神経加速》」
火口の大上段からの振り下ろしを、流斗は容易く回避した。
詠唱を呟き、発動した《神経加速》によって、流斗は通常の二十倍を超える量の神経伝達物質を媒介し、脳や脊髄といった中枢神経系の活動を驚異的に亢進させる。
紫苑と《契約》で接続し、パスを通して魔力供給を受けることで、筋力、魔力、体力、精神力、視力、聴力、自然治癒力までもが向上していた。
素早く火口の背後に回った流斗は、振り返った火口の左胸に、ここで死にゆけと、渾身の貫手を放つ。しかしその瞬間、火口のバスターソードが真っ赤に光った。
「弾けろ! 灼滅――《爆裂炎斬》」
視力を奪われ、豪風に身を仰け反らされた上で、さらに迫る火の大剣。
それでも流斗の戦闘感が冴える。刃の切っ先が彼の肩口に吸い込まれる寸前、流斗は咄嗟に身を捻ることで躱した。そのまま全身に捻りを加え、
「死ね……《螺旋貫手》!」
流斗は体全身に捻りと回転を加え、左腕を引き手にして、物凄い勢いで捻った右腕で強力な貫手を放つ。全身全霊をかけた彼の得意技、最高の一撃。
流斗の右腕が、竜巻のような螺旋を描いて、火口の胴体を突き破ろうと迫る。
しかし、それも火口の魔力障壁に阻まれてしまう。しかも彼の魔力障壁には炎が付与されており、流斗の右手に高熱の痛みが襲う。
だが、極度の興奮状態にある、流斗の中枢神経系と末梢神経系の両方のニューロンで見られる、内生オピオイドの神経ペプチド――βエンドルフィンが大量分泌されているせいで、彼は現在痛みに対して無感覚であった。
「チッ、こいつ……頭がイカレテやがるっ! 吹っ飛べよ! 《炎熱波》」
焦った火口の手のひらから、今度は強烈な熱風が生まれ、流斗の体を吹き飛ばす。
それでも痛みを感じない流斗は、なんてことはないといった風に、軽々と受け身を取って、次の攻撃に備える。精神は暴走状態でも、無数の鍛錬によって鍛えられた肉体が、自動的に、オートモードで敵の攻撃に対応する。
「こいつも喰らえや! 《火柱》」
吹き飛ばされたものの身を転がし、駆け出した流斗の足元から、炎の渦が巻き上がる。
先程の紫苑はこの攻撃を悪魔的直観により、紙一重のところで回避したが、流斗は周囲に埋め込まれた熱源反応を感知し、起爆の先読みによって躱していく。
「流斗様、それはあらかじめ設置しておいたポイントに火の渦を発生させる魔術です。私の探知に引っかからないので、事前に設置しておいた分はすでに打ち止めかと。今が接近戦のチャンスです!」
「……分かっている」
紫苑のアドバイスに、流斗は特に感情を見せずに淡々と頷く。
正直、今の自分に彼女の言葉は耳へ入っていなかった。
「ちっ、近寄るなぁあ、ザコが! 《炎弾》」
火口の左手のひらから凝縮した炎の塊が連続で射出された。
これをいちいち避けていれば、その隙にまた距離を取られる。早く奴の息の根を止めたい。そんな思いが、流斗の体を突き動かした。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア! 《神経二重加速》」
この魔術は、自身の肉体そのものが強化されるわけではないので、自らの身体にかかる負担は非常に大きい。それでも、今の流斗は、通常の四十倍の運動能力を有している。
いくら《暁の光》に所属する火口鉄平であろうと、そう簡単に流斗を止めることはできないだろう。
火口の《炎弾》に対して、流斗は十字受けの構えを取り、魔力障壁すら発動させずに、考えられる限り、最速の最短距離で突っ込んだ。
そのまま火傷もいとわず、火口の喉元に焦げた右手を伸ばす。
ついに、その怨讐に染まった手のひらが、最愛の姉の仇である首根っこを掴む。
「屑がァ! ちょろちょろちょろちょろとぉお。ウザってぇ! ……やっと、お前を、掴まえたぁあぁあああ。お前の命はまさに今、俺の手の中にぃいいい!」
そのまま万力を込めて、流斗が誇る強力な握力が、火口の喉を潰す勢いで絞めようした。
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同時連載中の《魔の森の屍術王~異世界転生して王族に生まれたけど固有魔術が《屍術》だったから国外追放された~》もよろしくお願い致します。




