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終末世界の元暗殺者  作者: くろふゆ
第五章 そして月日は流れて 高校編
42/53

042話 宝条院椿姫とお昼ご飯

 ★ ★ ★ ★ ★ 


 四限目までの通常授業が終わり、選択科目の授業が始まる前の昼休みとなる。


 流斗は紫苑が作ってくれた弁当を、自分の教室で食べようと思い、席に広げた。

 すると、前の席に座っていた少女が机ごと体を反転させて、向かい合う形を取る。


 その少女の名前は――宝条院椿姫ほうじょういんつばき

 西洋人形のように整った顔立ちで、その容貌からは優美さが漂い、陶器のようななめらかな白い肌が印象的だ。胸部も出会った頃より遙かに成長していた。背も五センチほど伸びている。160センチといったところか。


 彼女は流斗が御園中学に編入したときからの仲だ。

 相馬がいなくなり、弾も姿を見せなくなった今では、彼女だけが唯一同級生の中で親しい存在だと言えるだろう。


「流斗さんは、今日も手作り弁当ですの?」

「ああ、うちのメイドさんが毎日朝早くに起きて作ってくれるんでな。椿姫の家にもメイドさんぐらいいるだろ?」


 椿姫はこの学園の理事長の一人娘だ。メイドの一人や二人、いても当然だろう。


「確かに、わたくしの家にもメイドはいますが、今日のわたくしの弁当はお手製ですわ」


 そう言って、ドンっと椿姫が重そうな弁当箱を流斗の前に置く。


(おいおい椿姫よ、年頃だからといってその量は食べ過ぎじゃないか?)


 そんな流斗の思考をよそに、椿姫は黒い光沢を放つ弁当箱を開ける。


 弁当箱は二段構成になっており、上の段には色とりどりの美味しそうなおかずが詰められており、下の段には豚と鶏の挽肉を煮詰めたものに、溶き卵をそのまま汁気がなくなりぱらぱらになるまで炒ったそぼろ、その下に白いごはんが見えた。


「えっと……その……少し作りすぎたので半分差し上げますわ」


 椿姫が顔を赤く染めながら、豪勢な弁当をこちらに渡してくる。


(なるほど、俺のためにわざわざ多く作ってきてくれたのか。その気持ちは凄く嬉しいのだが、俺には紫苑が作った弁当があるんだよなぁ……残すと絶対あいつ怒るし)


 無表情で威圧してくる紫苑の姿が脳裏によぎる。

 主従の契約を交わしたとはいえ、紫苑のほうが年上なのでつい畏まってしまう。

 それでも紫苑からは、全幅の信頼を寄せられていることが分かる。

 自分もそれに見合うような男にならなくてはならないと思わせられるものだ。


「そうだ、椿姫。それなら俺の弁当も少し分けてあげるよ」

「流斗さんのお弁当……流斗さんのメイドが作ったお弁当。一度、味を確認するのも手ですわね」


 椿姫が難しい顔で流斗の弁当を受け取った。

 そして恐る恐る高そうな木の箸を運ぶ。

 彼女の箸が掴み取ったのは、一つの唐揚げだった。


「……ん。くっ……お、美味しいですわね」


 椿姫は悔しそうな顔をしながらも、次々と箸を進めていく。

 光り輝く白米に色とりどりのおかず。鶏肉を使った唐揚げに鮭の塩焼き、ほどよく焦げ色の付いた卵焼きにいい匂いのする野菜炒めという、バランスの取れたものだ。


 さすがに《家政科》で一年鍛えられただけある。

 紫苑の料理の腕は、出会った頃に比べて劇的に向上していた。


「み、見てばかりいないで、わたくしの料理も食べてくださいな」


 椿姫に促されて、流斗も椿姫が作ってきた弁当に手をつける。

 彼女は顔をそむけながらも、目だけはしっかりこちらを見ていた。

 なんだか緊張する。

 とりあえず、目立つそぼろご飯を口にかき込んだ。


(……ん、これは……)


「美味しいよ、椿姫。手が込んでいるね」


 紫苑には少し及ばないながらも、お嬢様が頑張って自らの手で作った料理は、思いのほかよくできていた。やはり普段は料理などしなさそうなお嬢様のお手製という、愛情のスパイスが効いている。


「……む、その反応……。自分でも分かっていますの。流斗さんのメイドに一手先を行かれているようですわね」


 おや、ほとんど顔に出していないはずなのに見抜かれてしまったか。

 ポーカーフェースには自信があったんだがな。

 それだけ椿姫が、普段から流斗のことをよく見ているということだろう。


「負けていられませんわね、流斗さんの胃袋を掴むのはこのわたくしです」


 椿姫は空いた流斗の弁当箱に自分が作ってきたおかずを移すと、自分の弁当箱を手元に戻して食べ始めた。


(初めて作ってきてくれた弁当にしてはよくできていたと思うよ)


 流斗も最低限の家事はできるつもりだが、椿姫より上手に料理を作る自信はなかった。


「ところで流斗さん。昨日身体検査の後に配られた、専門科目の登録票。一体なんと書きましたの?」

「もちろん《武術科》だ」

「……は? はい? な、なぜ、なぜ《魔術科》にしなかったのですか!? わたくしは、てっきり流斗さんも高校からは、《魔術科》に転科すると思っていましたのに!」


 ガタッと音を立てて、椿姫が席から立ち上がり、流斗を問い詰める。

 周りの生徒たちの視線が集まるのを感じると、椿姫は羞恥心で顔を赤くしながら大人しく席についた。


「俺にはね、魔術の才能がないんだ。生まれつき《魔力神経》は細いし、使える魔術はリスキーな肉体強化のみ。これじゃあ、一人前の魔術師は名乗れないよ」

「それでも、あなたはわたくしに勝ったではありませんか」

「それは一年以上も前の話だよ。あのときは、戦闘経験の差で僅かに椿姫を上回っただけだ。今、もう一度お前と戦ってもまったく勝てる気がしない」


 もちろん、天枷紫苑と手を組んで《契約印》を発動させるか、相手を殺すつもりで戦えば話は別だが、学校でそんなことをするつもりは毛頭ない。


 それにこの一年間、流斗が《武術科》で魔術を使わない肉弾戦の経験を積んできたように、椿姫も《魔術科》で魔術師としての戦闘経験を積んできたはずだ。

 その実力はあの頃とは比べ物にならないだろう。


「くっ、失敗しましたわ。こんなことならわたくしも《武術科》にすれば……」

「おいおい、冗談はそれくらいにしとけよ。お前は《魔術科》からオファーがあった推薦組だろう。中学三年生では生徒会長も務め、その実力は折紙付だ」


 高校からの編入組についてはまだ詳しく知らないが、おそらく今、この御園高校一年生の中で椿姫の魔術師としての実力はトップクラスだろう。


「これでもわたくし、武術のレベルも上がりましたのよ。流斗さんに負けてからは槍術の鍛錬も積み、肉体強化の魔術も体得した。《武術科》でも十分やっていけるはずですわ」

「……まったく、お前はついに肉体強化魔術まで身に付けてしまったのか。まぁ、肉体強化の魔術は魔術の才能がある奴なら、修行をすれば誰でも身に付けられるものだが……それにしても、俺との才能の違いをはっきりと理解させられてしまうな」

「いや、でも……その、流斗さんも去年《武術科》を首席で卒業していますよね?」


 落ち込む流斗に対し、椿姫が困惑顔で告げる。


「まぁな。でもあれは、魔術を一切使わない、単純な肉弾戦の結果だから……」


 そんな肩書きは実戦ではなんの役にも立たない。


(姉さんを守るためには、やはり魔術の腕を上げなくてはな)


 そういう意味では、去年《魔術科》を首席で卒業した椿姫は、流斗の理想像と言える。

 思わず、嫉妬と羨望が入り混じった複雑な感情で彼女を見てしまう。


「高校からの編入組も、今日の選択授業から参戦するだろうし、また新たなライバルが見つかるかもしれないよ」


 流斗は自分に言い聞かせるように、椿姫に語った。


 もうここにあいつはいない。神崎流斗の親友である、武藤相馬はいない。

 彼は日本軍で、今もその牙を懸命に磨いているはずだ。

 だから自分もこんなところで足止めをくらうわけにはいかない。

 まだまだ自分は実力不足だ。だがその分、成長のしようはいくらでもある。


「さぁ、椿姫。今日からまた新しい挑戦の始まりだ。高校でも学科は違うが、お互いトップを目指して頑張ろうぜ。立ち塞がる壁はぶち壊していこう」

「……そうですわね。わたくしはどこにいようと、常に『一番』であり続けますわ」


 流斗と椿姫は机を挟んで、お互いの拳をコツンと軽くぶつけ合って笑った。

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