#07 真名
「今っ…俺の中に……奴がいるっ」
途切れ途切れの息の間に伝えた現実。
彼女が息を呑んだのがわかる。
彼女は託宣者スピカであり、王女だ。こんな事態になる可能性も当然ながら教育されている。
ごめん…な。
自分の意識があるうちに、抑えがきくうちに器の俺ごと、お前の手で壊してもらわなきゃいけない。
お前が死ぬなんてこと、万が一でもあってはならない。だから、俺が代わりにその役目を背負おう。
それが彼女にとって、いかに残酷であっても。
それが、俺の傲慢であっても。
お前が生きていてくれるなら、それだけでいい。
「こいつの輪廻の輪を…壊すっ」
国主から授けられた輪廻の剣を彼女のすぐ傍まで滑らせた。
微笑んだ瞳で先を促す。
だから、それで俺を刺せと。
こんな事が起こらなければ少女に人を刺す経験なんて与えるつもりは毛頭なかった。
ごめん…ごめんっ!!
一番辛い役目を負わせて。
ずっと傍で護ってやれなくて…。
でも、彼女はスピカであり、次期国主だ。自分がやらなくちゃいけないことくらい、分かってる。
細い腕が震えながらも剣に伸ばされた。
その時、強い何かに締め付けられる感覚に陥る。
「スピカ……やめろっ」
自分の意志とは違う何かが勝手に声を発している。
「俺がっ…お前に一番辛い役目を負わせると思うか?」
こいつっ!人の心を盗み見たのか?!
「全部俺の中にいるやつが勝手に言っているんだ!!輪廻の剣を使ってもただ、俺が死ぬだけだ」
俺が死ぬ“だけ”と言う言葉に彼女が大きく反応する。
伸ばされた腕は、あと少しで柄に触れるところだったが、ピタリと止まり、より一層震えだした。
そして、こいつは虚言を並べ始める。
「まだ、数年は抑えていられる。一緒に最前の道を探そう?二人で幸せになる未来を歩こう?」
…めろ…やめろ……
やめろぉぉぉぉぉっ!!
「スピカ!やれっ!!」
束縛を力任せにねじ伏せた俺は次の瞬間、そう叫んでいた。
「やめろ。スピカ」
「やれっ!」
同じ口から正反対の言葉が飛び出す。
戸惑いの瞳が向けられる。小刻みに震えた手と柄の距離は縮まらない。
頼む!…騙されないでくれっ
「スピカ、俺が守るから」
……ふざけるな。
「大丈夫だ。君を悲しませるようなことはしない」
…その言葉を伝えるのは俺だったのに。
「信じてくれ。おれの言葉を」
貴様がいなければ、それを届けるのは俺だったのに!
「君の心も未来も守るか」
「ウィルっ!ウィリスティーナっ!!」
遮るように“やれ”と声と心で叫んだ言葉。
ウィリスティーナはそれに応え、弾かれるように輪廻の剣を取り、俺に飛び込んでくる。
そして俺は総てを受け入れるように両手を広げた。
ウィリスティーナ
数えるほどしか呼んだことのない
彼女の真名。




