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梅雨の美術館  作者: 白鷺雪華


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4/4

続リハーサル

「らでん横通路の演出に

 追加アイディアがあります」

「カップルが「盲目の少女」の前で

 指輪を受け取ったら虹が輝く演出」

「それとプロポーズのカップルが歩く通路に

 紫陽花の花吹雪が舞う映像と

 アイネ・クライネ・ナハトムジークを

 流してヴァージン・ロード」

らでんの目が丸くなった。

資料を持つ手が止まった。

「虹が輝く。

 ヴァージン・ロード。

 紫陽花の花吹雪。

 アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

一つずつ噛みしめるように繰り返した。

イヤリングを並べる手が止まった。

振り返った。

「待って。

 虹が光る?

 プロポーズ成功した瞬間に?」

興奮が収まらない。

身振り手振りが大きい。

「そうなの!

 暗闇の中歩いてって、

 嵐越えて、少女の後光ばーって来て、

 そこでプロポーズ!

 指輪はめたら虹が光る!」

ペンを止めた。

眉が上がっている。

「……それ、泣くね」

受付から戻ってきていたフブキが、

ぴくっと耳を立てた。

「え、何。何の話。聞きたい」

らでんは資料をテーブルにどんと置いた。

立ち上がった。

目がぎらぎらしている。

学芸員の目。

「雪華くん。

 横通路に来てくれた?」

つかつかと雪華の前に来た。

近い。

「全部聞かせて。

 最初から。

 暗闇のとこから」

「北斎の荒波で暗闇になる

 波と雨の音で嵐に飲まれる感覚」

「光の角を曲がると後光に包まれた

「盲目の少女」が降臨する」

「カップルがプロポーズすると

 絵画の虹が輝く。

 これはスバルと一緒に確認してます」

らでんは腕を組んだ。

目を閉じている。

頭の中で映像を組み立てている。

「北斎の荒波で視覚を奪う。

 嵐の波音で聴覚と平衡感覚も潰す。

 完全に五感が奪われた状態で

 角を曲がると――」

目を開けた。

きらっと光った。

「後光。

 盲目の少女が降臨」

耳がぴんと立った。

「降臨って表現がもうやばい」

椅子に深く座り直した。

腕を組んだ。

「で、プロポーズ。指輪。虹発光」

冷静にメモを取っていた。

「虹の発光タイミング。

 指輪装着から何秒?」

手を挙げた。

「二秒!

 はめた瞬間にぱっと光る!

 じわじわ滲んでぱぁって!」

らでんはぐるっとテーブルの周りを歩いた。

思考モードだ。

「完璧じゃん。完璧。

 で、その先があるんでしょ?」

雪華を見た。

「ヴァージン・ロード。

 紫陽花の花吹雪。

 アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

ぴたっと足を止めた。

「それ全部繋げたら、

 プロポーズから

 ヴァージン・ロード一直線じゃん。

 感情が冷める暇がない」

尻尾がぶわっと膨らんだ。

「ねぇそれ体験したい。

 白上も横通路入りたい」

「これからみんなで行きますか。

 らでんも体験しておいた方がいいかも

 絵画の配置の確認もありますし」

らでんの目がかっと見開いた。

テーブルに資料をばさっと置いた。

「行く。今から行く」

もう歩き出している。

イヤリングのサンプルを箱に戻した。

「あたしも行く。

 グッズの配置との相性見たいし」

ペアリングの箱を抱えた。

「あたしも。

 照明の当たり具合確認しないと」

ぴょんと椅子から飛び降りた。

尻尾がぶんぶん揺れている。

「白上も白上も!」

にかっと笑った。

「じゃあスバルが先に入って案内する!

 みんなこっち来て!」


全員がメインホールから

横通路の入口へ向かった。

大所帯だ。

スバルを先頭に、ハコス、雪華、らでん、

フブキ、すいせい、トワ。

七人が薄暗い横通路の入口に並んだ。

入口の前で振り返った。

にかっ。

「はい!じゃあルール説明!

 中は真っ暗です!

 手を壁につけて進んでください!

 足元水たまりあるから気をつけて!」

ごくっと唾を飲んだ。

暗い通路の入口を見つめた。

「……わしも横通路の

 デザインは知ってるけど、

 体験するのは初めて」

ちらっと雪華を見た。

「ねぇ雪華くん。

 隣歩いてもいい?」

「いいですよ。

 最初はモネの「睡蓮」や

 ルノワールの「散歩、雨の午後」での

 夜の雨の散歩演出からですね」

にかっと敬礼した。

「了解!

 じゃあスバル先頭で案内するね!

 みんなついてきて!」

横通路の入口。

薄暗い。

月光程度の照明がぼんやりと

通路を照らしている。

雨上がりの夜道の雰囲気。

七人が一列になって入っていく。

雪華の隣にぴったりくっついた。

腕を掴んでいる。

暗い。

思ったより暗い。

耳をぴくぴくさせながら歩いている。

「すごい。

 夜のお散歩だ。

 空気がひんやりしてる」

壁面にモネの「睡蓮」が見えた。

薄暗がりの中に浮かぶその絵は、

昼に見るのとは別物だった。

柔らかい色彩が暗闇の中で

ぼうっと光っている。

足を止めた。

「うわ。

 暗いと全然違って見える。

 色が生きてる」

壁に近づいた。

「モネの「睡蓮」がこの色味。

 暗い方が絵の深みが出るね」

絵を見上げた。

雪華の腕を掴んだまま。

「昼にデザイン段階で見たけど、

 暗い方が圧倒的に良い。

 色の透明感が違う」

小声で雪華に囁いた。

「ねぇこれ、グッズは?」

「はい、私も最初に通った時に思った

 絵画って夜に見るものじゃないかって。

 ポストカードや手紙とかですかね」

目が光った。

商売人の顔。

「ポストカード。

 夜間限定ポストカード」

歩きながら指を弾いた。

「モネの「睡蓮」の夜バージョン。

 これ通常版と二種展開できる」

壁面の絵を観察しながら歩いている。

「手紙もいいね。

 紫陽花柄の便箋に、雨の絵はがき。

 梅雨限定」

一行が奥に進んでいく。

次の絵が見えてきた。

ルノワールの「散歩、雨の午後」。

モネとほぼ同じ構図だが、光の質が違う。

ルノワールの方が温かみがある。

雨なのに不思議と穏やかな空気。

ぴたっと足を止めた。

耳がぴんと立っている。

「あ。ここも違う。

 モネと全然違う。

 同じ雨なのに雰囲気が」

雪華の腕をぎゅっと掴んだまま、

絵を見上げた。

「ルノワールは柔らかいんだよね。

 モネは冷たくて透明感がある。

 同じ雨でも描いてる人の気持ちが違う」

ぶつぶつ。

「夜間限定ポストカードは

 モネ版とルノワール版で分ける。

 デザインも微妙に変えて、

 モネ版は青系で透明感、

 ルノワール版は暖色で柔らかい」

にやっと笑った。

「単価ちょっと上げても買うわそれ。

 コレクターは」

先頭で振り返った。

「そろそろセザンヌあたりだよ。

 ここから先どんどん

 暗くなっていくからね!」

「「夜のカフェテラス」もいいかもですね。

 「散歩、雨の午後」の次に配置すれば、

 夜にふらっと出かけて

 カフェに立ち寄る演出にできる」

ぴたっと足が止まった。

「夜のカフェテラス。

 あれか」

くるっと振り返った。

目が輝いている。

「モネの「カフェテラス」の夜版!

 雨のカフェテラス!」

歩きながら顎に手を当てた。

「あー。

 雨の日の夜にふらっと

 カフェに入る感覚か」

「散歩してたら雨降ってきたから

 カフェに入った、みたいな」

頷いた。

「導線として自然。

 散歩ルートにカフェテラスを配置して、

 そこで一息ついてもらう」

一行が奥へ進む。

セザンヌの絵が見えてきた。

果物の静物画。

暗い照明の中で、

果物だけが妙に生々しく浮かんでいる。

耳をぺたんと倒した。

「セザンヌどきどきする。

 なんか見られてる気がする」

雪華の腕を掴んだまま、

セザンヌの前で立ち止まった。

「ここでカフェテラスの絵を置いたら完璧。

 雨の中歩いてきた来館者が、

 セザンヌの前でほっとする」

指で空中に構成を描いた。

「モネの睡蓮→ルノワールの雨の午後→

 夜のカフェテラス→暗転→北斎の荒波」

ぐっと拳を握った。

「この流れで暗転に繋げたら、

 感情の落差がえぐい」

「夜の散歩から海まで足を伸ばすと

 嵐が起こり巻き込まれた。

 暗転すれば海の中にいる感覚になる」

らでんは目を閉じて

導線を脳内で組み立てた。

「散歩からカフェに入って、

 一息ついて、

 今度は海を見に行こうかって」

目を開けた。

「で、海に着いた瞬間に嵐」

先頭で振り返った。

にやっと笑う。

「ここからだよ。

 本当の暗闘。

 みんな覚悟してね」

セザンヌを過ぎた。

ドグの人形の絵。

暗い。

さっきより確実に暗い。

照明が一段落ちた。

耳がぴくぴく動いている。

「あ。暗くなってきた」

壁に触りながら歩いている。

「もう手探りじゃん」

ドグが過ぎた。

次でセザンヌの三点透視画。

さらに奥へ。

シニャックの静物画。

フォービズムの踊り子たち。

一枚ずつ通り過ぎるたびに

照明が消えていく。

色彩が闇に飲まれていく。

声が小さくなった。

「これ、どこまで暗くなるの」

先頭で足を止めた。

最後の絵の前。

「はい。ここが最後」

振り返った。

にかっと笑った。

「この先は、もう何もないです」

雪華の腕をぎゅっと掴んだ。

「……北斎か」

「葛飾北斎の「凱風快晴」

 あの巨大な絵画が迫ってますね。

 嵐の前の静けさですか」

北斎の「凱風快晴」

壁一面。床から天井まで。

巨大な海が迫ってきていた。

波。波。波。暗い赤の波が渦を巻いている。

嵐の海。空が荒れている。風が唸っている。

プロジェクションマッピングの

波音が低く響いている。

尻尾がぶわっと膨らんだ。

耳が倒れた。

「おっき」

一歩後ずさった。

「これ昼間に見ても迫力やばいのに、

 暗い状態で見たら」

冷静を装っているが、

指輪の箱を抱える手が白くなっている。

「嵐の前の海って、

 こんな色してるんだ」

にかっと笑った。

「はい!ここで最後尾です!

 ここから先は完全に暗闇!

 何も見えない!」

雪華の腕を両手で掴んだ。

ぎゅっと。

「これ、照明全部落ちる?」

びしっと敬礼。

「全部落ちます!

 足元も光りません!」

耳がぺたんとなった。

「え。足も光らない?」

にこにこ。

「光りません!」

顔が引きつった。

「ちょっと待って」

にこにこ。

「待ちません!」

「本当に真っ暗闇になりますよ。

 波と雨の音しか聞こえない

 深海にいるかのような感覚」

にかーっと満面の笑み。

「じゃ、スイッチ切りまーす!」

かちっ。

最後の照明が消えた。

耳が完全にぺたんと倒れた。

「え」

壁に手をついた。

さっきまであった北斎の絵が見えない。

何もない。真っ暗。

「嘘でしょ」

息を呑んだ。

「何も見えない。本当に」

暗闇。完全な暗闇。

七人が闇の中に立っている。

ごう。波音の残響。

ざあざあ。雨音。

深海に沈められたような圧。

きょろきょろした。

何も見えない。

尻尾が体に巻きついた。

「え。え。ちょっと待って。

 壁がどこか分からない」

手を前に出した。

何も触れない。

「やば。これやばくない?」

雪華の腕を両手でぎゅうっと抱きしめた。

「雪華くん。

 雪華くんいる。

 ここにいるよね」

声が小さくなっている。

暗闇の中から声だけが響いた。

楽しそうだ。

「はーい!

 今から嵐の海に突入しまーす!

 壁伝いに進んでくださーい!」

壁を探した。

ぺたっと手が触れた。

「壁あった。冷たい」

「らでんいますよ。

 進むしかないです

 光を求めて」

雪華の腕にしがみついた。

離れない。絶対に離れない。

「うん。いる。よかった」

一歩。壁伝いに。

七人が闇の中を歩き始めた。

壁に手をついた一行。

先頭は大空スバル。

最後尾はまだ決まっていない。

手探りで壁を触りながら、一歩ずつ。

耳がせわしなく動いている。

音を拾おうとしている。

「波の音すごい。

 ほんとに雨の中にいるみたい」

壁に手をついた。

ぺたぺた。

「冷たい。壁濡れてる?」

前方から声が飛んでくる。

「濡れてませーん!

 演出でーす!

 でも濡れた気になるでしょ!」

壁を掴んで歩いている。

顔が真剣。

「これさ。

 あたし暗所苦手なタイプなんだけど」

すいせいの背中にぶつかった。

「あ。ごめん」

びくっとなった。

「っ!びっくりした!」

楽しそうな声で。

「はい皆さん!

 ここから先もっと暗くなりまーす!」

雪華の腕をぎゅっと握る力が強くなった。

小声で。

「ねぇ雪華くん。

 これ毎日体験できない?」

「最終日だけの特別演出の予定でしたけど

 初日からにしますか。

 イベント期間中は毎日」

前方から声が響いた。

「本来は最終日だけの

 特別演出だったけどー!」

くるっと振り返ったらしい。

暗くて見えない。

「今みんな体験してるからねー!

 特別に全日程これでいっちゃいましょう!」

雪華の腕にしがみついたまま、震えている。

恐怖ではない。興奮。

「全日程。毎日。これ」

ぎゅっと。

「最高」

壁に張り付きながら。

「すいちゃん今めちゃくちゃ怖いんですけど」

すいせいの背中にくっついた。

「白上も怖い。

 でもいい。すごくいい」

一行がさらに進む。

波音が大きくなっている。

ごう。ざあざあ。

足の下が微かに揺れた。

床の振動装置だ。

壁に手をつきながら。

「あ。揺れた。船の上みたい」

ぎゅっとトワの腕を掴んだ。

「やめて言わないで。

 船酔いする」

楽しそうな声が近づいてくる。

「はーい!そろそろ角でーす!

 曲がったら何か起きまーす!」

雪華の腕を握る手が白くなった。

「何かって何が」

「角から光が漏れてます。

 その先に進めます

 曲がってみましょう」

角を曲がった。

光が漏れている。

細い光の線。

壁の隙間から。

耳がぴくっと立った。

「あ。光。光見えた」

壁から手を離した。

「やっと。光」

角の向こうで待っている。

声だけ。

「はーい!ここが曲がり角でーす!

 この先がー、本番でーす!」

七人が角を曲がった。

光の方へ。

一歩。二歩。

光が広がる。

雪華の腕を掴んだまま、

光に向かって歩いた。

目を細めた。

「あ。明るい」

角を曲がった先。

横幅が広がった空間。

天井が高い。

そして――

正面。

巨大な後光。

金色の光。

壁から。天井から。床面から。

全てが光っている。

その中心に、一人の少女が浮かんでいた。

盲目の少女。

目を閉じて。

両手を胸の前で組んで。

微笑んでいる。

光に包まれている。

まるで宗教画の一枚。

固まった。

耳が真っ直ぐ立った。

尻尾が止まった。

息を呑んだ。

言葉が出ない。

指輪の箱を落としそうになった。

雪華の腕を握る手が震えている。

小声。

「……これ」

「虹の下で抱き合う2人の女性。

 後ろからの光で本当に後光が差して

 女神が降臨したように感じますね」

後光が空間全体を金色に染めていた。

盲目の少女が浮かび上がるように

光の中心に座っている。

目を閉じた顔。

穏やかな微笑み。

背後に虹が見えた。

薄く、淡く、

七色の弧が少女の後光に溶けている。

口がぽかんと開いた。

耳が震えている。

「女神」

それだけ言った。

それしか出てこなかった。

壁に手をついた。

膝が笑っている。

「ちょっと待って。

 これ反則でしょ。

 さっきまでの暗闇からこれ?

 落差えぐい」

目が潤んでいる。

こらえようとしている。

「目が。閉じてるのに。

 なんでこんなに綺麗なの」

雪華の腕を離した。

一歩前に出た。

学芸員の目になっている。

後光を観察した。

角度。光量。虹の配置。

振り返った。

目が赤い。

泣きそうだけど堪えている。

「雪華くん」

声がかすれた。

「これ、完璧。完璧だよ」

にかっと笑った。

暗闘から抜けた解放感。

「でしょー!

 スバルがリハで泣いたやつ!これ!」

ぐっと拳を握った。

雪華を見た。

「で、この後プロポーズ。

 指輪。虹が光る」

「はい」

「この絵画の前でカップルが

 プロポーズして指輪を受け取ったら

 絵画の虹が輝く。

 祝福の光ですね」

らでんは後光の前に立った。

少女を見上げた。

虹を見た。

ぐっと唇を噛んだ。

「プロポーズして指輪受け取ったら虹が光る。

 盲目の少女が祝福してるのがこの絵。

 その祝福が現実になる」

振り返った。

「つまりカップルがこの前でプロポーズする=

 盲目の少女の祝福を受ける=虹が応える」

まだ目が潤んでいる。

「これ、プロポーズ成功した瞬間に

 館内放送とか流さない?」

目が光った。

「あー。それいい。

 虹が光った瞬間にウェディングベル的な音」

考え込んだ。

「でもそれだと演出バレバレじゃない?」

手を挙げた。

「指輪の虹発動と館内放送を

 同時にすればいいじゃん!

 光った瞬間にお祝いの音楽!」

腕を組んだ。

雪華を見た。

「雪華くん。

 館内放送の音、何にする?

 ウェディングベルはやった感強すぎて微妙」

首を傾げた。

「アイネ・クライネ・ナハトムジークは

 ヴァージン・ロード用でしょ。

 プロポーズの瞬間は別の音がいい」

「んーーそれなら

 ドボルザークの「新世界より」の

 第四楽章はどうですかね。

 これから新しい世界に進んでいくように」

ぴたっと動きが止まった。

「新世界より」

目を閉じた。

脳内で再生している。

らでんの頭の中に流れた。

第四楽章。

最も有名で力強いけれど優しい旋律。

目を開けた。

潤んでいる。

「それだ」

目がうるうるしている。

もう想像している。

「プロポーズ成功!

 虹がぱぁって光る!

 そしたら「新世界より」が流れる!」

ぶわっと泣いた。

「無理無理無理!

 泣くって!」

雪華の前に立った。

真っ直ぐ見た。

「暗闘から後光。盲目の少女。プロポーズ。

 指輪。虹発光。新世界より」

指を折った。

「完璧すぎる。

 涙腺破壊装置でしょこれ」

「では一旦の流れは決まりですかね。

 暗転の波の演出は初日から最終日まで毎日

 プロポーズからの虹の発光と音楽」

らでんはテーブルに戻るよう手振りで促した。

「うん。大枠は決まった。

 メインホールに戻ろう」


七人がメインホールに戻った。

広い空間にいつもの照明。

さっきまでの暗闇と光の落差で、

全員が少しぼんやりしている。

目をしぱしぱさせた。

「明るい。目が。まだ後光が残ってる」

椅子に座った。どさっと。

「疲れた。精神的に。

 暗所から光の暴力」

ペアリングの箱をテーブルに置いた。

「でも体感としては完璧だったね。

 導線も演出も」

まだ目がうるうるしている。

「ねぇ。もう開館しない?

 早くカップル来ないかな」

椅子にどかっと座った。

資料を広げた。

「はい。じゃあ整理する」

ペンを持った。

雪華を見た。

「雪華くん。グッズと導線の最終確認。

 グッズ販売店はすいせいちゃんと

 トワちゃんが担当。

 巡回案内はスバルちゃんとハコスちゃん。

 受付はフブキちゃんとぼたんちゃん。

 あたしは館長として全体統括」

ペンをとんとん。

「で、プロポーズ成功の誘導と

 ヴァージン・ロードの演出。

 誰が最終管理する?」

「共同プロデューサーとして私とらでんで。

 指輪の事前予約制とミニアルバムの発注、

 フォトスタジオはドレスや

 ミストも用意してくれてます」

ペンを走らせた。

ホワイトボードに書き始めた。

「共同プロデューサー。

 あたしと雪華くん」

ぐるっと振り返った。

「いいね。最強体制」

手を挙げた。

「グッズ販売から一つ確認。

 事前予約制ってことは、

 指輪の注文が入ってから

 製造かけるってこと?」

メモを見ている。

「防水アルバムの印刷も。

 注文入ってから刷る?

 それともある程度数用意する?」

テーブルに身を乗り出した。

「あとフォトスタジオの

 ドレスって何種類あるの?」

手元のメモを整理しながら。

「導線の確認もしたい。

 横通路からヴァージン・ロード通って

 スタジオ入口まで、スタッフ何名必要?」

ぱんっとホワイトボードを叩いた。

全員が黙った。

「はい。一個ずつ」

ペンを構えた。

雪華を見た。

「雪華くん。

 あたしが質問整理するから、

 答えるか振って」

「まずグッズから片付ける?

 それとも導線から?」

受付カウンターから顔を出した。

「ねぇねぇ。

 パンフレットにプロポーズの

 演出って載せる?載せない?」

「導線は先ほどの流れで

 ある程度決まったし

 グッズからですかね。

 指輪とミニアルバムが最優先」

ホワイトボードに「グッズ」と書いた。

丸で囲んだ。

「はい。グッズ最優先。

 指輪とミニアルバム」

すいせいを見た。

「すいちゃん。

 現状の在庫と製造体制どこまで詰めてる?」

椅子に座った。

腕を組んだ。

商売人の顔。

「指輪はシルバーベースでいく予定。

 虹発光のLEDを内側に仕込む。

 防水加工済み。

 サイズ展開は七号から十九号」

指を折った。

「一個あたりの製造コストが三千二百円。

 受注生産」

メモを見せた。

「ミニアルバム。A5判。防水加工。

 十二ページ。表紙は盲目の少女のイラスト。

 中身は横通路の演出写真集」

雪華を見た。

「で、問題はここ。

 事前予約制ってことは注文入ったら

 即製造かけるの?

 それとも見込み数を先に刷っとく?」

続けた。

「梅雨まで二ヶ月切ってるから。

 印刷所の納期考えると、

 来週中には発注かけないと間に合わない」

受付から。

「予約の受付って受付でやる感じ?

 ぼくたちも?」

「はい、受付でお願いします。

 明日に予約開始して

 今週の予約数を先にかけておきましょう」

びしっと敬礼した。

尻尾がぶんぶん。

「了解!

 予約受付任されました!」

指を一本立てた。

「じゃあ今週の予約数を見て

 製造数決めるってこと?」

顎に手を当てた。

「でもさ。事前予測つく?

 初日のカップル数」

冷静に。

「SNSの事前告知がどれだけ

 反響あるかによるね」

ぐっと拳を握った。

「絶対バズるって!

 あんな演出体験したら

 みんな予約するって!」

ペンを止めた。

現実的な目で。

「でもさ。最初の一週間は様子見じゃない?

 梅雨入りしてからが本番でしょ。

 雨の日にプロポーズしようって

 人が殺到する」

ホワイトボードに

「予約→製造→納期」と書いた。

「逆に考えよう。

 今週の予約数で来週の

 製造数を決めるんじゃなくて、

 最低ロットを先にかけておく」

ペンをとんとん。

「リスクヘッジ。

 予約少なくても損しない程度の数」

目が光った。

「最低百個。指輪」

頷いた。

「ミニアルバムも最低百冊」

雪華を見た。

「雪華くん。百ずつでいく?」

「はい、指輪とミニアルバム

 それぞれ百ずつで。

 拡散して殺到したら制限かけるかも」

にやっ。

「百ずつね。了解」

立ち上がった。

「明日の告知で予約開始。

 百個ずつ先にかける。

 余ったらこっちで捌けるし、

 足りなくなったら追加製造」

メモに書き込んだ。

「印刷所に今日中に見積もり依頼出す。

 防水加工込みだと通常より高くなる」

ぶんぶん頷いた。

「殺到するって!絶対!

 スバルがSNS動かすもん!」

半目。

「スバルのSNS投稿、

 いつもスタンプまみれだから

 逆に拡散力あるんだよね」

えっへん。

「でしょ!」

ホワイトボードに書き終えた。

全体図を見下ろした。

「よし。整理する」

ペンで項目を指した。

「一、明日告知。予約受付開始。

 二、今週の予約数で来週の製造数確定。

 三、百個は最低確保。

 四、印刷所の見積もり今日中」

くるっと振り返った。

「他に今日中に決めとくことある?」

受付からぴょこっと顔を出した。

「あ。パンフレットは?

 プロポーズの演出載せるかどうか

 まだ決まってないよ」

「載せた方が宣伝になりますね

 フォトスタジオと美術館ともに」

尻尾がぴんと立った。

「載せよう!絶対載せよう!」

受付から身を乗り出した。

「パンフレットに

 「プロポーズ演出あり」って書いたらさ、

 もうそれだけで来る理由になるじゃん!」

ペンを顎に当てた。考えている。

「んー。

 でもどこまで書くかだよね」

指を折った。

「全部書いたら期待値上がりすぎて、

 体験した時のギャップで文句出る」

腕を組んだ。

「それある。

 演出の詳細は隠した方がいい」

頷いた。

「「プロポーズ演出あり」だけ。

 内容は当日のお楽しみ、

 くらいのニュアンスで」

うんうんと頷いた。

「じらすの大事!CMみたいに!」

メモを書きながら。

「パンフレットの写真はどうする?

 横通路の写真は使えないよね。

 暗すぎて」

ぴっとペンを立てた。

「フォトスタジオのサンプル写真。

 ドレス着たモデルの写真を大きく載せる。

 横通路はぼかしで雰囲気だけ」

雪華を見た。

「ねぇ雪華くん。

 パンフレットの写真、今日撮る?

 スタジオ今空いてるし」

「うん今日撮りに行きましょう

 これで今日やることは全部ですね」

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