第1話 プロローグ 〜 はじまり 〜 Prologue – The Beginning (Ocean’s Kid – The Threshold of Evolution)
人は時々、
大切なものほど見落としてしまう。
けれど、誰の心にも、
小さな宝物はきっと残っている。
これは、“見えなかったもの”を見つけていく物語。
コバルトブルーの海が、朝の光を受けて静かに揺れていた。
白い砂浜は輝き、透き通る風が潮の香りを運んでくる。
だが、その美しい海から遠く離れた山間に──
外界から切り離された、小さな村があった。
絶壁と深い森に囲まれた秘境の村。
小川ではカニや魚が遊び、
木々の間を小鳥やリスが駆け回る。
自然そのものが息づく、命の喜びに満ちた場所だった。
今から十七年前、
そこで一人の少年が生まれた。
名は、ヒカル。
村人三百人の中で、三百一人目の新しい命だった。
村人たちは皆、野猿を追い越すほどの俊敏さを持ち、
自然に愛された者だけが宿す“特別な力”を備えていた。
だが──ヒカルだけは違った。
彼には、誰もが当たり前に持つはずの力がなかった。
木から木へ飛び移ることもできない。
獣の気配を読むこともできない。
ヒカルは、この村でただ一人の“普通”だった。
どこにでもいる、弱くて不器用な少年。
ただ一つ、胸に宿した「優しさ」だけが、彼の特別だった。
その優しさが、やがて大切な人たちを救う力へ変わることを、
この時のヒカルはまだ知らない。
七つの意思が、光へと手を伸ばしはじめた。
まだ光を知らぬまま、かすかに揺れながら。
境界線は薄く、脆く、
静けさだけがその震えを抱いていた。
海は広がり、心は深まる。
人はそれぞれ、
外へ広がる進化と、内へ深まる進化を求めて歩みはじめた。
世界を知ろうとする者。
世界とつながろうとする者。
世界はまだ、その始まりを知らない。
世界はまだ、その始まりを知らない。
その優しさが、やがて大切な人たちを救う力へと変わることを、
この時のヒカルはまだ知らない。
その先には、
まだ誰も知らない少女の真実が静かに眠っている。
世界が少しだけ優しくなることを願いながら。




