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『平穏の歪み』第6話:【硝煙の不条理】

その前線基地の作戦室では、巨大なホログラムの地図を挟んで、二人の最高指揮官の「意志」が激突していた。もちろん、彼らが同じ部屋にいるわけではない。しかし、戦場に刻まれる砲撃の痕跡が、何よりも雄弁に彼らの噛み合わない対話を証明していた。


「これは我が民族の歴史的な正当性を pedigree(証明)し、脅威から自国を守るための『聖戦』である。引き下がる選択肢などない」

 大国の指導者は、豪華な大理石のオフィスで、チェス駒を動かすように冷徹に冷戦のロジックを組み立てる。彼にとっての平穏とは、かつての帝国の栄光を取り戻し、強固な緩衝地帯を手に入れることだった。


「私たちはただ、自分たちの土地で、自分たちの旗を掲げて生きたいだけだ! 侵略者に渡す土など一寸たりともない!」

 防衛側の指揮官は、爆撃の震動で砂埃が舞う地下壕で、血の滲んだ地図を叩きつける。彼らにとっての平穏とは、不条理な暴力から主権と自由を死守することだった。


大義名分と大義名分が正面から衝突し、その火花が、毎日何百人という若者たちの命を消し飛ばしていく。


調停員は、両軍の境界線――無数の不発弾と引き裂かれた肉体が散らばる、文字通りの「無人地帯ノーマンズランド」の泥の中から現れた。

 今回の「彼」は、泥と血に汚れた、どの国のものともつかない軍服を着ていた。その手には、一本の「錆びついた有刺鉄線」が握られている。


「歴史の再定義、および生存の証明。……お互いに、自らの正義のために『他者の死』を燃料として燃やし続けている。ならば、この終わりのない対話を、世界のシステムとして永久に固定いたしましょう」


調停員が有刺鉄線を地面に突き刺すと、国境線が生き物のように蠢き、天に向かって巨大な「鋼鉄の壁」として突き上がった。


「システム構築。名付けて『永久戦争コンティニュアス・フロント』。お二人の正義が完全に一致しない限り、この戦場から『弾薬』と『死体』が枯渇することはなくなります」


異変はすぐに戦場を支配した。

 大国側の兵士がどれだけ砲弾を撃ち込んでも、防衛側の陣地は一瞬で修復され、逆に防衛側がどれだけ敵を撃退しても、大国側の後方からは無限に新しい兵士が泥人形のように湧き出してきた。

 勝利も、敗北も、撤退すらも、システムによって完全にロックされたのだ。


「なぜだ! なぜ敵は降伏しない! 我が軍の圧倒的な力を見せつければ、平穏は訪れるはずだったのに!」

 大国の指導者は、どれだけ兵力を投入しても一ミリも動かない前線に、初めて恐怖を感じた。彼の築いた美しいオフィスは、いつしか前線の兵士たちの悲鳴と、終わらない戦費の請求書(数字)だけで満たされる、ただの「数字の墓場」へと変わっていた。


「私たちは一歩も引かない……だが、いつまでこの地獄を耐えればいいんだ!?」

 防衛側の指揮官は、破壊された街の中で絶望に暮れていた。彼らは自由を守り抜いている。しかし、守り抜いたその土地は、24時間絶え間なく砲弾が降り注ぎ、草一本生えない「死の不毛地帯」として完璧に固定されてしまっていた。


調停員は、鋼鉄の壁の上から、交わらぬ二つの世界を見下ろした。


「おめでとうございます。お二人とも、何ものにも屈しない『絶対的な正義』を手に入れましたね。一方は、終わらない勝利を求めて自国を衰退させ続ける孤高の独裁者。もう一方は、瓦礫の中で永遠に自由を叫び続ける悲劇の英雄。……あなた方の平穏(大義)は、この硝煙の中で、美しく、そして永久に保存されるのです」


世界から、その地域の「平和」という概念が消失した。

 国境線は消えない傷跡として地球に刻まれ、両軍の言葉は二度と交わることなく、ただ互いを呪うためだけの駆動音として、冷たい大地に響き渡り続けていた。

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