第五十三話
ルーチェから話があると言われて向かったが、蓋を開けてみたらさほど重大なことではなかったな。……いや、ルーチェからすれば、大切なことなのか。
今はルーチェもエルピス嬢もルシアの話し相手になっているため、抜けてきたが、あの子たちは相変わらずだな。
「普通に出てきたが、あの二人大丈夫か?」
「適度に休憩は取るだろう」
ルーチェとエルピス嬢。二人の異世界からの転生者。普通に考えれば、確かに大事だろう。我が国の令嬢に成り代わっている、とも捉えられる。そんなことは有り得ないが。
「……やはり、昔のことは覚えていないか」
「あいつらはまだ三つかそこらだろ。無理もない」
昔のように私がそばにいれば、あの子はもっと早くに打ち明けてくれたのだろうか。一人で抱え込まずにいられたのだろうか。ルシアも……。
……いや、もう過ぎたことだ。私にも打ち明けてくれた。信頼されている証だ。そうだと信じよう。
「失礼いたします。皇太子殿下、少々お耳に入れたいことが」
「入れ」
部屋に入ってきた執事服の男――ファクト。本来なら私の下につくようなお方ではないが、手を貸していただくためにこうして執事としていてもらっている。そちらの方が動きやすい。
「どうかしましたか」
「例の異物が使う薬物の出処が分かりました」
……ずいぶんと早い。ルシアが魔塔に要請を出したのが無駄になってしまうかもしれないな。とは言え、私がどうやって知ったかをあの子たちに伝えるのは難しい。まともなやり方ではないのは、理解している。
こちらは裏で動きながら、ルシアたちが調査をして知る流れにした方がいいな。
「……契約者殿」
部屋の気温が、一瞬にして下がっていくのが分かる。……いや、実際は下がっていないのだろう。私がそう錯覚しているだけだ。
魔法ではない。魔力でもない。この方は、氷の魔法を使わない。ただ、そこにいる。それだけなのに、私も、アイトも、気温が下がり、空気が凍りついていると、脳が認識している。
「姫様に害を為すのならば処分対象です。それが契約者の大切な方だとしても」
そう言って部屋を出ていく。出ても部屋に残るソレで、上手く動くことができない。しばらくして、ようやく動けるようになり、息を吐いた。
アイトは近くのソファにだらしなく倒れ込み、私をジッと睨んでくる。
「……なんつーもんと契約してんだよ」
「あの子たちを守るためだ。分かるだろう」
アイトが文句を言うのも無理はない。あの方は諸刃の剣だ。私たちに協力してくれているが、一度機嫌を損ねれば、それは私ではなく周りに向く。私が苦しむのを楽しむ。そういう方だ。
背もたれに身体を預け、小さくため息をつく。今日はいろいろなことがあり、疲れた。
「なんとしても、守らないと……」
昔のような仲睦まじい兄妹は望まない。望む権利など、私にはない。ただ――
あの子たちがもう泣かなくて済むように。そのためならば、なんだってする。あのとき、そう誓ったのだから。




