第五十四話
「……行きたくないわね」
「行きたくないですね」
「こらこら、行くよ?」
夏季休暇が終わり、今日から二学期。行きたくないです。城で好きなことだけしていたいです。あの悪意まみれのところに自分から行くなんて嫌です。
「頑張るって決めたよね?」
「そうですけどぉ……」
「なんでルーチェもそっち側なんだよ」
「少し遅い五月病よ」
アイト卿も加わり、抵抗虚しく学院です。ルーチェはいろいろ話してくれてからというもの、仮面が取れた感じがします。今までは、どこか遠慮をしていたような感じがありましたが、それがありません。
「お前、外では猫被れよ」
「バレるようなヘマしないわよ」
アイト卿との言い合いは変わらず。むしろ、増してる気がします。元々二人とも遠慮がなかったですけど、学院でもこれだと問題ですよ?
「賑やかなのはいいですけど、目立ってますよ」
「大丈夫。ずっとそうよ」
「大丈夫じゃないです」
エルピス伯爵令嬢、私たちが目立ってないことの方が珍しいと思いますよ。入学してから注目の的ですから。悪い意味でですが……。
三学年の方は露骨な視線を向けてきません。さすが上級生と言うべきか、自分たちで噂の真偽を確かめているようですね。二年生は距離を取る方が多く、一年生は好奇と警戒が半々、といったところでしょうか。噂されている私たちの性格が違うこともあり、クラスの人たちはもう信じていないようです。他クラスではそうもいきませんがね。
「オレは未だに疑ってるぞ」
「信じるという話はどこに……」
「アイトは自分が攻略対象なのを信じてないだけよ」
ルーチェたちの知るゲームとやら。前世で遊んでいたようですが、登場人物として出ている、というのは不思議な感覚です。それも、ルーチェとエルピス伯爵令嬢が敵同士となればなおのこと。
「運命からはかなり変わっているけど、それは大丈夫なの?」
「そのゲームとやらには、複数のゴールがあったのでしょう?」
それならば問題ありませんよ。そのゲームはあくまでも「可能性」を示しているに過ぎない。確定された未来でないのなら、変えても罰はありません。ただ、未来を変えれば、誰かの運命も、変わってしまいますがね。
どこで、何が、運命を決めるのかが分からない以上、仕方のないことではあります。事実、既にもう変わっていますから。
「……人の運命を、歪める」
「私たちの行動には責任が伴う。分かっていたことよ」
そんなに暗い顔をしないでくださいよ。確かに二人はゲーム通りに動かず、未来を変えた。その結果が良いか悪いかはまだ分かりません。けれど、私は感謝していますよ。
「ルーチェが頑張ったおかげで、私はここにいるんですから」
ルーチェが未来を変えたおかげで、私は今、みんなと一緒に学院に来られています。みんなと一緒に、困難を乗り越えることができる。
「ありがとうございます。ルーチェ」
「……あなたって子は、本当に」
ルーチェたちから柔らかい笑みが零れます。そうそう、その顔です。ルーチェには笑顔でいてもらわないとですから。
……気になることがない、とは断定できません。私が幼いときから見ている悪夢。二人の話を聞いて、あれはゲームなのではないかと思いました。
ゲームだとしたら、何故私は、知っているのでしょうか。それに――
……何故、誰も私たちの名前を呼んでくれないのでしょうか。




