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純愛3

わたくし、

どうしてこんな場所で

こんなこと考えているのかしら?


この儀式に、

まるで現実味が感じられないのは、

ほかの方も、そうですの?


別に嫌っているわけでもありませんし、

それを運命さだめ

覚悟は決めておりますのよ。


マリッジブルーって、ご存知かしら?

そんなものかもしれないですし………、


それは、嘘ですわね?


あの娘が来てくれていないことに気がついて


それはこちらが招待しなかったから

当たり前なのですけれども、

いないことが

逆にあの娘の存在をわたくしに

強く印象づけてしまうようですの。


最後にあの娘とあったのはいつでしたかしら?

あの娘はそれこそ、あのときの笑顔と同じ

泣きながら、笑ってくれて、

おめでとうございます、お嬢様、といってくれて

それはもう、ほんとうに心の底から

喜んでいてくれて、

わたくしの心の底など、

想像もできないのでしょうね?


わたくし、

あのあと、ひとりっきりになったとき、

あまりにも嬉しそうなその笑顔を思い出し、

なにやら心をあの娘に踏み躙られた、

そんな勘違いをしてしまい、落ち込みましたわ。


それから、気持ちに整理をつけて

この殿方との婚姻を、義務は義務として、

わたくし自身のためには、

新たな一歩を踏み出すきっかけにしようと

思ったのですわ、可能な限り、前を向いてね。

家柄、家格、身代、ともに申し分なく、

おまけに滝子の言葉を借りると、

眉目秀麗、頭脳明晰の、いい殿方、

ということになりますしね。


それは、もしわたくしに

あの娘というわたくし自身よりも

大切に想っている娘がいなければ、

両親や祖父母、親戚縁者がひとしなみに

異口同音いい囃すように

こんな幸せな婚姻も

珍しいのかもしれません。


すべからく、

人はその人の望む最後の宝物を

けっして手に入れることはできないのだという、

仏国の著名な哲学者の言葉を借りるまでもなく、

わたくしは、滝子と出逢ったあの日から、

そんな真実は、心の奥深くに刻み込み、

忘れることなく、わきまえておりましてよ。



ええ、

恋愛感情なんかではないと思いますの。

ただ、魂の形が真円だとすれば、

わたくしと滝子は、それぞれ半円で、

ふたり揃って、はじめてひとつと呼べる

円になれる、補完できる関係なのだと

ずっと思っておりましたの。


滝子が、どう思っていたかは、

知る由もありはしないのですけれどね。


あの娘はあの娘の

人生を歩いていらっしゃる訳ですから。


幸せに、なって頂きたい。


わたくしは、幸せにはなれないかもしれません。

ほんとうの幸せは、どこかほかのところに

あることを知ってしまっていますからね。



このまま段取通りに、式は進行していき、

このまま皆様の前で、儀式で、形だけとはいえ、

誓いの接吻をして、

命ある限り真心を尽くすことを誓い合って、

しあわせになるって約束して…………


でも、ねぇ、

この式を取り仕切っておられる異国の神様?

約束したら、

その約束は守らなければいけないのですよね?


そう、やはりそうなのですね?


約束は、守らなければいけない?


それならわたくし、

あの娘と約束していたような気がしますわ。


あの約束、守らなければなりませんわ。


わたくし、やはり、嫌ですわ。


わたくし、やはり、あの娘と一緒に輝きたいのです。


ごめんなさい、わたくし…………






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