其の六十七『エスケープ』
前回のあらすじ:国家権力動く……
「その道を右だ」
「……誰もいません、そのままで大丈夫です」
屋上から飛び降り、琳たちは立花の先導と琳の千里眼の元、移動していた。
しかし琳は千里眼に気を取られ過ぎると普通の移動が困難になるため葵に手を引っ張られながら走っていた。
琳は視界を前方の視点と、追手が来ないかどうかの後方の視点に頻繁に切り替えているため途中途中足がもつれて平衡感覚が麻痺し、脳が処理に追いついていないのか強烈な吐き気に襲われることもしばしばあった。
そのため安全な場所まで移動して一度琳の呼吸を整えてから再出発するということを繰り返していた。
その度に琳の顔色は段々と悪くなり、立花が言う目的地まで半分近くやって来た時にはもう目の焦点がどこかウロウロと彷徨ってしまっていた。
「立花、これ以上は……」
「あぁ……そうだな。琳、もう大丈夫だ、後はなんとかやるから少し目を休めろ」
「………いえ、まだいけます」
「無理をするな。それ以上はいくらお前でも……」
「大丈夫です。ここは無理をしなきゃいけないところですから」
「……分かった、だがきつくなったらすぐに言えよ」
そして再び一行は走り出した。
琳は右目で前方を、左目で後方を見るという人間離れした目の使い方をして視界を半分に割っていた。
琳からすれば景色全てが対戦ゲームの画面のようになっていただろう、そしてそれは相当な負担を自身の体に強いることとなった。
「もうすぐだ……もってくれ琳」
「はっ……はっ……」
やがて立花が「着いたぞ」と言って立ち止まった。
そこは大きな建物で、古びた洋館のような雰囲気と時計塔のような雰囲気を持ち合わせていた。
琳は後方の確認と今まで通ってきたルートに追手がいないかどうかを確認し、もう誰も追ってきていないこととスマホの位置情報がきちんと切れていることを自分の目で確かめるとその場に倒れた。
「先輩っ!」
「大……丈夫………」
「どこが大丈夫なんですか。立てますか香月君、掴まってください」
「………ありがと……マグノリアさん」
「セラス、葵、琳を頼んだ。よしじゃあ入るぞ」
周りを確認してから立花は古びた洋館のドアを「ギィィ……」を木が軋む音を鳴らしながら開けて室内へと足を踏み入れた。
その後に続いて琳たちも入り、窓から差し込む光に誘われるかのように琳たちは建物の中を歩いた。
そうして辿りついたのは綺麗に整頓されていて今も人が住んでいるのではないかと思うほどだった。
大きめのベッドが一つとアンティークなデスク、ぎっしりと本が詰まった本棚が四つにクローゼットなどシンプルな感じだったがしっかりと使い込まれている感じが手に取って分かるようだった。
「セラス、琳をベッドに寝かせてやれ」
「はい」
セラスは琳をベッドに横にすると相当体に負担をかけていたのだろう、琳は目を瞑って眠りについてしまった。
「んで、立花。ここはどこなんだ?」
「私の自宅だ」
「ここが……以前立花さんから聞いたことがありますがここだったんですか」
「そう言えば前にそんな話をしてたな……まぁ、全員少しゆっくりしててくれ。あいつみたいに休まないと動きたい時に動けなくなる」
栞たちはその場に座って体を伸ばしたり床に寝転がったりして疲れを取った。
立花は一度部屋を出ると人数分のコップと冷えた麦茶を持ってきた、どこにあるのかは分からないが冷蔵庫はあるようだ。
自宅、と言っただけあって生活に必要なものは大体揃っているみたいだ。
暫くはここが拠点になるだろう、それにこの場所は立花曰く三日月にも知られていないはずだと言った。
立花はそして栞に言ってこっそりと琳の服のポケットからスマートフォンを抜き取って自分のスマートフォンとケーブルで繋いだ。
何をしているのかと言うと三日月から探知機能のあるウィルスなどを埋め込まれていないかスキャンをかけたとのことで現在琳のスマートフォンは感染していない状態らしい、これでこの位置情報が割れたり盗撮や盗聴がされることはまずないだろう。
「琳君、疲れてたんだね」
「こいつは……昔から自分のキャパシティを考えないで行動するから。人のためだと尚のこと」
「最近、こいつの目に頼りすぎちまったところもあるしなぁ。しばらく休ませた方が良いだろ、戦闘も控えさせないとな」
「だが三日月たちは容赦なくこいつを狙いに来るはずだ。きっと私たちのところにも」
「その前にどうにかして対抗策を打たないといけませんね……」
「はいっ! 提案があるっす!」
「お、どうした葵?」
「今日はもう考えないことにしましょ! 作戦を考えたり行動するのは明日にして、今日はもうゆっくり休んだ方が良いと思うんす」
「………一理ありますね。確かに切羽詰まって焦るよりは一拍置いてからの方が良いアイディアが出るかと」
「そう、だな。そうするか! 琳も寝てるし、今日はもう、いいや~!」
立花は床に寝転がって「あぁぁぁぁぁぁ~!」と溜まっていた疲れを口から吐き出しながらグーッと体を伸ばした。
結局今日はこれ以上何もせずに体を休めようという葵の考えが満場一致で採用され、数時間後に琳が起きた時にはみんな揃って銃撃された死体のように床に倒れていたため軽くパニックになったらしいのだが、それはまた別の話。
まだ何が起こるか分からない逃亡生活一日目。
人知れずひっそりとたたずむ洋館の中で琳たちは集団生活を開始した。
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