其の六十五『視線』
前回のあらすじ:タイトルのまんま
琳たちが楽園になりすまして魔物を討伐してからというもの、本来の楽園メンバーの動きが徐々に少なくなっていった。
それと同時に一般市民たちは余計にこの出来事について様々な憶測を飛び回らせてネットのニュースサイトやまとめサイトなどでは連日ひっきりなしにレスが立てられているほどだ。
この事態に警察も重い腰を上げ、事態の究明を急いで各専門分野の専門家たちに協力を仰いだりしているが未だに解決したことは何もなく、実質的に琳たち頼りとなっていた。
この事実に立花と翔馬は一度琳たちの活動を停止させ、三日月たちの動向を伺うことにした。
すると案の定、琳たちが動かなくなったのと入れ替わるように本来の楽園メンバーが魔物を討伐し始めた。
「ふむ、なんというか予想通りの動きだな。これ以上のアクションがないのが少し怪しまれるが今のところは準備できる時間が設けられるから良い……か」
「ですがそれは向こうも同じことなのではないでしょうか。動かせる人員だけ動かせて三日月自身は次の作戦の準備にかかっているため、今はこれ以上の動きがないとも考えられます」
「あぁ、むしろそっちの可能性の方が大いに高いんだよな。琳は三日月のところでなんかちらっと見たんだろ? なにか覚えてないのか」
「というか………なんで俺の家で作戦会議してるんですかあなたたちは」
香月家二階、琳の部屋。
立花とセラスはそこで今後の活動についての作戦を考え三日月の行動やこれから起こるであろうことを予想したりしていた。
そのことに琳はコーヒーの入ったカップを二人の前に置きながらそう嘆いていた。
「良いだろー別にー」
「いやまぁ良いんですけど……来るなら一言連絡くださいよ」
「連絡しただろ、今から行くぞって」
「家の前で電話してくるのは事前連絡って言いませんから! マグノリアさんまで毒されて……」
「私はその……男性の家に入るのは初めてなもので緊張してしまいまして……」
琳は若干のめまいがした、セラスにではなく立花に対してだ。
しかし一々そんなことに付き合っていると時間と労力が足りたものではないので琳はぐっと飲み込んでそれらのことを気にしないことに決めた。
琳は最近新調したメッシュ生地のハイバックチェアに腰かけて二人の会話に混ざった。
「それに……何か見たと言っても、モニター越しにちらっと見た程度ですのであまり具体的には分かりません」
「何言ってんだそんなこと最初っから分かってるよ。第一、お前が連れ戻された時にそれは聞いたし」
「え、じゃあなんで――――」
「千里眼」
「あー…………なんか、俺の千里眼ってご都合主義能力になってません……?」
「適材適所というやつだ。たまたまタイミングが良く重なるだけだ」
「別に使うのはいいですけどあれですよ? 多少の制限はありますからねこれでも」
そう、琳の千里眼は万能ではない。
見ることが出来る景色には多少の制限などがあり、行ったことのないところや物理的に見れない場所それから抽象的な指示でしか場所が判明しない場所などは千里眼で見ることは出来ない。
千里眼なのにだ。
所詮人の体では伝承のようにはいかないのだ。
初めて発動した時は見慣れた庭園の守り手の風景だったので制限なく発動し、セラスを探し当てた時の場合は「セラス・マグノリアを探し出す」という強い思いと具体的に何を探し当てるかがはっきりしていたため見つけることが出来たのだ。
今回の場合だと楽園のアジトの風景、つまり琳が過去に三日月捕らえられたあのサイバールームのような場所を見ることは出来るがモニターに映っていた場所そのものを見ることは出来ないというわけだ。
「大丈夫だそれでいい」
「……分かりました。けどアジトってあれからどうなったんですか?」
「あれ言ってなかったっけ? そのまま放置してるぞ」
「放置ですか」
「あのあと涼がもう一回行ったらしいんだが、なぜだかどこからも入れなかったみたいでな。三日月がなんか細工してるんだろうから下手に触らずにそのまんまだ。あぁその辺も調べてみてくれ」
「は、はぁ。分かりました」
琳は「スゥ……」と息を吸い込んで目を閉じ、それから息を吐きだして目を開いた。
琳の目には現在、捕らえられた時と同じ風景が見えておりそれはまるでまた三日月に捕らえられたのだろうかと錯覚するほどだ。
そこから視点をずらしたりズームしたりして琳はモニターに映し出されている映像を見た。
「廃病棟みたいな映像ですね……洋物のホラーゲームみたいな………人が、えっと、四人くらい拘束されています」
「………他には」
「別のモニターには何かがホルマリン漬け? みたいになってます。何がそうなっているのかは………もう少し近づいてみないと………って、え……?」
「どうした!」
「俺の、考えと目が間違ってなければ………魔物です」
「なに……?」
「あれ、魔物を培養しています………!」
と、そこで琳の視界に動くものがあった。
琳はモニターから目を離してその動く物体の方に視線をやった。
三日月だった。
「立花さん、三日月です。三日月が来ました」
「よし、そのまま監視してくれ」
「分かりま―――――」
その時、三日月が振り返って琳と目が合った。
勿論三日月が振り向いた空間に本当に琳がいるわけでもないし何かがあるわけでもない、それなのに三日月は確実に琳の視線の方向を見てにっこりと笑ったのだ。
琳はそれに動転して、座っていたハイバックチェアから床に落ちて「ドスン!」という音が鳴った。
下からは母親の文乃が「だいじょうぶー?」と叫ぶ声が聞こえ、琳は反射的に「大丈夫!」と答えて体を起こした。
「いててて………」
「大丈夫?」
「あぁうん、ごめんマグノリアさん」
「それより何を見たんだ琳。魔物が培養されていたって言ってたが……」
「信じられませんが、三日月と目が合いました」
「は?」
「それだけなら俺の勘違いで良かったんですが、初めて会った時みたいに笑っていました。今、もう一回向こうを見てみましたけど三日月以外に人は誰もいません」
「まさか気配だけで気づいたと………いや、そんなこと………まぁいい、考えていても今答えは出ない。んで、魔物培養についてもう少し詳しく」
「あ、はい」
琳はたった今見たことを包み隠さず二人に言った。
薄暗い部屋で、怪しく緑色に光る液体に満たされたガラスの筒の中に大小や種類が様々な魔物の幼体や、見慣れた大きさの魔物などが眠っていたのだ。
正直に言って、この時点で琳は正気を失いそうだった。
だってそうだろう、適合者にならなければ決定的な致命打を効率的に与えられなくて、生身で戦おうものなら確実に殺される異形の化物がたった一室で培養されているのだ。
これで合点がいった。
溝呂木は魔物をコントロールする術はもうあると言い、三日月は魔物を育てることのできる術を持っている。
三日月が、楽園が、行っていることを一言で言えば、ごくごく単純な結論に行き着いた。
現在進行形で街を賑わせているこの事件、こんなものはただの壮大な自作自演過ぎなかったのだ。
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「………気のせいかな~? 今確かにあの子の気配がしたんだけど……ま、いいか」
三日月はモニターに映し出されている映像の数々を見ながら満足そうにうんうんと頷いて鼻歌交じりに作業をしていた。
その後ろにはローブを羽織り仮面を被った五人の人物が一言も発さずに黙って跪いていた。
重心がぶれることもなくただただじっと、まるで蝋人形のようにそこにあるだけの存在となっていた。
「ではでは、計画も第二段階に移るとしますか」
三日月がそう言って二回手打ちを鳴らすと五人の人物たちは息ピッタリに立ち上がった。
「五人には新たな任務を与えます」
そして三日月が与えた任務とは――――
「如月神社に眠るイヴを攫ってきなさい。私は、香月琳君をもう一度攫ってきます」
そして三日月がもう二回手打ちを鳴らすと五人は一言も発さないままどこかへと消えていった。
「さて……じゃ、本気でやろっか」
スピードを上げていこうか




