其の四十八『抗うために』
前回のあらすじ:どう見てもデートです本当に(以下略
「互いに……」
「戦う………ですか?」
「あぁそうだ」
とある日の極東支部にて、琳とセラスは立花の言葉を復唱していた。
立花は白衣のポケットに手を突っ込みながら二人が復唱した自分の言葉を肯定する。
むふーっと何故だかドヤ顔をしている立花とは対照的に琳とセラスはその言葉の意味をなんとなく理解してはいたものの、本質までは分からなかった。
「えっとつまり……俺とマグノリアさんが戦うってことでいいんですよね、立花さん」
「逆に聞くが、それ以外に何があるってんだ?」
「いや……総一郎たちもいるからもしかしたらと……」
「あぁ……まぁそう言う考えも出来るな。でもそれならわざわざ個人個人に言うかよ」
ケラケラと笑いながら琳の可能性を正論で否定した。
セラスはその隣で口元に手をやって考え事をしているようだった。
琳が何を考えているのかと聞くとどうやらセラスは琳の倒し方を考えていたようで、琳は苦笑して「真面目だね」と相槌を打った。
「これからはまたいつ溝呂木とか三日月とかと戦うか分からないからな、お互いにパートナーの現状の強さを知っておいた方が良いだろう」
「まぁ、確かに」
「そういうわけだ。ほら、さっさと始めるぞ」
「ではやりましょう、香月君」
「………ノリノリなんだね、マグノリアさん」
妙にやる気のあるセラスに苦笑しながらも黒の武器を構えた。
そして立花の「始め!」の合図で琳とセラスは戦い始めた。
他のメンバー、総一郎たちが見守る中で行われたそれは十数分止まることなく続いた。
また、この戦いに勝敗なんてものはない。
あくまでお互いのことを知るための戦いなのだ、お互いに悪いところや良いところがどこなのかを教え合い感じたことを理解したうえで次につなげる、そのための戦いなのだ。
「そこまで」
「……はぁっ……はぁっ………やっぱり強いです」
「マグノリアさんも……だいぶ強くなったね」
互いに健闘を称えつつお互いの良かったところ悪いところを両者真面目にオブラートに包むことなく発言した。
琳が指摘したのは、セラスは相手の攻撃の読みを当てることが多くそれでいて動きが素早くフットワークに優れるため攻撃の手数が多いが、攻撃パターン自体は単調なため相手にも攻撃を読まれてしまうことがある可能性。
セラスが指摘したのは、琳は全体的なバランスが取れていて標準的な水準は高く細胞との適合率と相まって|黒の武器の扱いも長けているが、バランスが取れているがために突出したものがなく突然の事態に弱い印象を受けたという。
改めて言われたことでお互いに自分自身のことがよく分かり今後のトレーニングの課題が設定された。
同じことを涼たちも行い、その様子を見ることで今度は涼たちへのアドバイスも出来尚且つ自分自身はどうだろうかと考えるきっかけを持つことが出来る。
そうして培ったものを今度は魔物相手に実戦で試し、また訓練をして課題を設けて魔物相手で試す、その繰り返し。
「栞さん、残敵の確認をお願いします」
『はい……周囲に魔物の反応はありません、帰投してください』
「分かりました」
最近琳は単独で任務に当たることが多くなってきた、理由としてはもう琳が単独行動しても問題ないくらいの戦闘能力を兼ね備えていることが主な理由だ。
迎えのヘリが来て、それに乗り込むと琳のイヤホンから立花の声が聞こえた。
『琳、聞こえてるか?』
「聞こえてますよ、どうしました?」
『戻ってきたら住職のとこへ行くぞ』
「えっ、あの、それはどういう――――」
琳の質問に答える前に立花は一歩的に通信を切り、琳は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
そんな疑問を置き去りにしていくように、ヘリはコースを違えることなく庭園の守り手へと琳を乗せて帰っていく。
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「………ねぇ立花さん」
「なんだ琳」
「少し聞いてもいいでしょうか」
「おういいぞ。何でも聞け」
口の中でソーダ味のキャンディをコロコロと舐めながら自信満々に答える立花に、銃口を向けられている状態の琳は叫びながら言った。
「どうして俺は千鶴に殺されそうになっているんでしょうか!!?」
「琳君、ステイ」
「ああ畜生! 目が据わってやがる! しかもちゃんと引き金に指掛けてるし!!?」
「落ち着けよ琳、殺さないから」
「だとしても!!」
立花は面白そうに狼狽える琳を見てケラケラと笑いながら楽観的に「大丈夫だって」と伝えるが、現在進行形で目の据わっている千鶴にライフルの銃口を突きつけられている琳にはとても信じられなかった。
「……っていうかこれ如月神社に向かっているんですよね?」
「おうそうだぞ。だから私がこうして運転してるんじゃないか。あ、安心しろ。ちゃんと外から見えないように窓ガラス加工してあるから」
「いやそこ気にしてるんじゃなくて……気にするべきことですけど! なんでヘッドショットされそうになってるんですか俺」
一周回って段々落ち着いてきた琳は立花に最もな質問をした。
ただ如月神社に向かうだけならこんなことする必要はないはず、きっと立花なりの考えがあるんだろうがそれが明かされないのなら自分から聞くしかない。
立花は「そうだなー……」と言ってからこう答えた。
「詳しいことは後で説明するが、端的に言うと千鶴がお前が暴走した時の抑止力だからだな」
「………抑止力? 暴走? あの、どういう――――」
「琳」
「……なんです。まだ話している途中に」
「今、落ち着かないとかそわそわするとか、そんな感覚あるか?」
「なんですか藪から棒に」
「いいから、答えろ」
威圧するように聞く立花に困りながら琳は素直に「……まぁするかどうかと聞かれれば少し落ち着かない感じはします」と答え、立花はそれを聞くと「やっぱりか」と言いながらため息を吐いた。
琳はどうしてそんなことを尋ねたのか聞こうと思ったがそれは出来なかった。
何故なら、もう如月神社についてしまい車が止まったからだ。
「ちょっと待ってろ。千鶴、琳を任せた」
「うん」
そう言って立花は一人先に車を降りて本堂の中へと入っていき、住職を連れて戻ってきた。
ドアが開き、琳は千鶴に射殺されそうになりながら車を降り、そのまま神社の中へと入っていった。
最深部まで到着すると、立花は琳に尋ねた。
「琳、お前今体の状態はーどうですかー?」
「えっ? えーっと……何というかその……」
むず痒いですかね、と琳が言うと立花は予想通りだと言って大きく呼吸をした。
住職はイヴの様子を確認しに行き、確認を終えると立花に耳打ちして琳に聞こえないように伝えた。
住職の報告を聞いて立花は少し考えた後に琳に言った。
「琳、今お前の体にイヴの細胞があるのは何となく分かるな?」
「は、はい。実感があるわけじゃないですけど……」
「ならはっきり言うぞ。お前とイヴは共鳴し合っている!」
しんと静まり返る如月神社最深部で、立花の言葉だけが響いた。
琳の身に、一体何が……




