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現実世界に魔物が現れたようです  作者: 羽良糸ユウリ
第四章:回りだした歯車
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其の四十七『後輩のお世話』

前回のあらすじ:昔話をしてあげる。

 学校からの登校禁止期間が開けたその日、生徒たちは体育館に集められていた。

 朝っぱらから体育館に集められたことによる不平不満が生徒たちの間で話題になり体育館がざわつきそれを教師陣がなだめるまでが一連の流れでありテンプレート。

 やがてざわつきが収まってくると何のために歌う必要があるのか分からない校歌を全校生徒で合唱した後、校長先生からの長い話が幕を開けた。




 ――――議題は言わずもがな一週間前のあの騒動について。

 警察の名を使った爆弾が仕掛けられたという話が学校側に伝わり、生徒側には偽の連絡網が流され、未だにその犯人は誰なのかどころか単独犯なのか複数犯なのかすら明らかにされていない。




 実際その犯人の一味である琳たちが全てを話せが丸く解決するのではあるが、当然言えるわけがない。

 だから琳たちはただ黙って、この長くどうでもいい話に付き合っていた。



 やがて全校集会が終わり、生徒たちはクラスごとに固まって降順に教室に戻っていった。

 一時間目から全校朝会という気だるい一日を迎えたことにクラスメイトたちからはまたしても不平不満や私語が飛び交っていた。



 「いやー、傍観者ってのは楽しいな」

 「どうした香月、悪い顔してるぞ」

 「琳君、悪党」

 「言うな言うな。しょうがないだろ、こんな経験滅多にないし」

 「まぁそうだが」



 クラスメイトたちが事件の真相を各々で推理もどきやら考察やらをしている中で、琳たちだけは傍観者を決め込んでいた。

 会話を周りに聞こえないようにボリュームを調整しながら、一時間目が合法的に潰れたことにありがたみを感じつつ残りの時間を談笑に費やすことにした、セラスも交えて。



 「そう言えば二人とも風邪は大丈夫なのか?」

 「私の方は香月君より前だから、もう大丈夫」

 「俺も問題ないぞ。今度は総一郎が風邪引くかもな」

 「フラグを立てるな」



 などと談笑していると会議でも開いていたのか、担任が遅れて教室に入ってきて生徒たちを席に着かせて裏紙を配布した。

 内容は今回の騒動についてどう思っているか、匿名でいいので一人意見を一つ以上書けというもの。

 実際、琳はこの件についてはどうも思っていない、ただ溝呂木を捕らえられなかったのが悔やまれるくらいだ。



 だから琳は裏紙に短くこう書いた、「この事件の犯人にも、こうせざるを得なかった理由があると思いました」と。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△




 それ以外は特に変わりのない普通の日常だった、普通に授業をして普通に昼食を取って普通に午後の授業を受けてと何も変わらなかった。

 朝のざわつきは何処へ行ったのか、放課後になればもう誰も気にしていない様子で教師たちも何も言わなかった。



 「せんぱーい!! お暇っすかー!」

 「暇じゃなくても誘う癖に」

 「いいじゃないっすか。今日ちょっと寄り道しません?」

 「あぁいいけど……」

 「それでその………」

 「ん? どした?」



 妙にもじもじして、中々言い出しずらそうな感じの葵。

 琳はどうしたと聞いたが「いや、その」となかなか言い出さない。



 「その……先輩と二人っきりで、お願いしたいっす……」

 「……? あぁ、別にそれくらい構わないぞ」

 「そ、そうっすか! じゃあ先に外で待ってるっす!」

 「おう」



 そのまま葵はぴゅーっと廊下を走って消えていき、琳はいつもと違う葵の様子に違和感を覚えた。

 琳はて総一郎たちの方に、「何を恥ずかしがってたんだろうな」と言いながら振り返るとそこにはほとんど帰り支度を済ませた三人がいた。



 「……なんだお前ら?」

 「頑張れよ香月」

 「は?」

 「大丈夫、琳君なら絶対に」

 「は??」

 「女の子に恥をかかせたらダメですよ香月君」

 「は???」

 「「「じゃあまた明日」」」

 「待て待て待て待て待て!! 何!? 何のことだ………ってあいつらはっや!?」



 ここが使い時だと言わんばかりにあっという間に帰っていった総一郎たちは琳になにも残してはくれなかった、強いて言うなら残ったのは虚無感だろうか。

 琳は顔をしかめながら荷物をまとめて、あまり待たせてはいけないのでさっさと葵と合流することにした。

 黒のダッフルコートに袖を通し、生徒玄関で上靴から外靴に履き替え、葵の待つ外へと出た。



 

 季節はなんだかんだでもう冬、外は雪がしんしんと降り積もっていた。

 



 「葵」

 「先輩、待ってたっすよー」

 「すまんすまん。で、どこ行くんだ?」

 「まぁお楽しみってことで。行きましょ!」



 元気よく走り出す葵の後を追って琳も後を追う。

 生徒たちが行き交う道を走り抜け、二人はとある店へと到着した。




△▼△▼△▼△◆△▼△▼△▼△



 「着いたっす」

 


 葵の案内と言っていいのか分からない案内で到着した店は一軒のこじゃれたカフェテリアだった。

 


 「なんでまたこんなとこに」

 「実はこれがありまして……」



 そう言って葵は二枚のクーポン券を琳に見せた。

 そこにはピンクで可愛らしい字で今日の日付まで有効期限で「カップル様限定割引!!!」と大きく書かれていた。


 

 「………ほー」

 「よしじゃあ入りましょうかさっさと入っちゃいましょう先輩」

 「帰るか」

 「ちょちょちょ!! 慈悲はないんすか!?」

 「冗談だよ。てかなんで俺なんだ? クラスの男子とかいるだろ」

 「こういうことお願いできるの先輩しかいないんすよー」

 「……まぁ、別にいいけど」



 あまり深く考えないことにした琳は葵に急かされて店内に入った。

 店内ではカップル割引券の影響からか男女のペア客で賑わっており、天井のスピーカーからは流行りの曲がBGMとしてかかっていた。



 「いらっしゃいませ、二名様でしょうか?」

 「はい。それとこれお願いします」

 「拝見します……カップル割引券ですね、こちらへどうぞ」



 店員さんに案内されてテーブル席に案内された琳と葵はメニュー票を見て何を頼むかを考えた。

 カップル割引券の効果は全メニュー二割引というもので、いつもよりは贅沢に頼める。



 琳はホットコーヒーとチョコレートケーキ、葵はメロンクリームソーダとフルーツタルトをそれぞれ注文してしばらく談笑した。

 やがて先に飲み物がやって来て二人をそれを飲んでほっと息をついた、それから注文したケーキとタルトがやって来てしばしの至福の時間を過ごした。



 「んん~! 美味しいっす!」

 「たまには悪くないな、こういうのも」

 「先輩先輩、そのケーキ一口ください」

 「いいぞ。んじゃ俺も一口貰う」

 「あー……」

 


 と、いきなり葵が琳の方に体をズイっとやって口を大きく開けた。

 その行動と「一口ください」の言葉から琳は葵が何をしてほしいのか、自分は何をするべきなのかを理解し、やれやれと思いながらもフォークでチョコレートケーキを葵の口の中に入れてやった。



 「うまうま」

 「満足か?」

 「満足っす。んじゃ先輩」

 「……俺もか?」

 「当たり前じゃないっすかーほらほらー!」

 「ぬぐ………あ、あー……ん」



 照れながらも琳は諦めて葵の差しだすフルーツタルトをパクリと食べた。

 葵は満足そうにクリームソーダをストローで飲んでニコニコとしていた。

 と、そこへ一人の少女がやって来て葵の声をかけた。




 「あれ、あおいっちー」

 「裕子ちゃん、なんでこんなところに」



 それは葵のクラスメイトであり友人の佐藤裕子だった。

 


 「あれ言ってなかったっけ。ここでバイトしてんの………っておおっとぉ、この方はもしや?」

 「あ………!」

 「もしやこの方が噂の香月先輩かなーあおいっち」

 「……噂?」



 そして裕子は琳の方を見るや否や何か琳に興味を示した学者のようにじっと見た。

 琳はクエスチョンマークを浮かべて良く状況を飲み込めていなかった。



 「あぁ初めまして。私あおいっち……葵の友人の佐藤裕子です」

 「香月琳です………もしかして一回こいつに電話送れってメッセージくれた……?」

 「覚えてくれてましたか! その通りです」

 「あぁやっぱり」

 「いやいやーにしても……」

 「……?」

 「ついにゴールインですかー!」

 「ぶふっ!!?」

 「ゴールイン……?」




 そう言った瞬間ストローでクリームソーダを飲んでいた葵がごほっとむせて咳き込んだ、その様子を裕子はニヤニヤと見て、琳は大丈夫かと心配した。

 琳は葵に何の話だと聞いたが葵は頑なに「何でもないっすから気にしないでください!」の一点張りだった。



 「裕子ちゃんはもう黙っててー!!」

 「はいはい、部外者はさっさとスタッフルームに出も行きますよっと」

 「あ! このこと言ったらダメだからね!?」

 「分かってる分かってるー。あそうだ香月先輩」

 「なんでしょう」

 「あおいっちのこと頼みます」

 「……? よく分からんが、任された」

 「んじゃ後はごゆっくり」




 そう言って裕子は裏方へと消えていった。

 琳は葵に「良い友達だな」と言うと葵はちょっとだけ不機嫌そうに「そんなことないっすよ」とぷいっとそっぽ向いてしまった。

 やがて二人ともケーキを食べ終え飲み物を飲み終えると少し話した後に店を出た。

 会計は琳が全額支払い、葵は申し訳なさそうに自分の分を琳に渡そうとしたが琳はそれを断り、「彼氏ならこれくらいするだろ」と言って受け取らなかった。



 葵は「ご馳走様っす」とお礼して琳の隣を歩いた。

 雪が降りつもり、さっきまで店の中にいて暖かかったからだがすぐに冷え始める。

 そのためか、二人の並ぶ間隔はいつもよりも近く、お互いのコートが軽く触れあった。



 「冬っすね」

 「冬だな」

 「今度みんなでクリスマスパーティーとかやりましょうよ」

 「それまで、楽園エデンが大人しくしてくれればいいんだけどな」

 「そうっすね」





 なんてことを話しながら琳は葵を家まで送り届けてから家に帰った。

 その翌日、葵が裕子ともう一人、北上鳴子という友人に葵がカフェでのことで絡まれているところに琳が出くわし、葵のヘルプを琳は軽く受け流した。

 だが最終的には捕まってしまい、琳はそのクラスメイト二人と葵と放課後を過ごすこととなり、結果的に裕子と鳴子の二人と仲良くなるというなんともまぁつまらなくオチで終わったそうな。

甘酸っぱい青春など今朝のゴミにまとめて捨てた。

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