其の四十一『昔話』
前回のあらすじ:三日月、香月家を訪問。
「……どういう、ことだ?」
「そのまんまの意味、かなー。ね、立花ちゃん?」
「立花さん……」
昔一緒に働いていたということは、きっとこういうことだ。
三日月は楽園のメンバーであり楽園を創設した科学者は狂化細胞を作った本人である。
つまるところ、立花と翔馬は――――
「……元楽園メンバー」
「…………まぁ、そういうことだな」
「立花、詳しく話してくれ」
衝撃の事実に、涼は三日月への警戒すら忘れてしまい銃を下して立花の方を見ていた。
立花は麦茶の入ったグラスを持ち上げて一口飲んでのどを潤す、だが琳と涼はグラスを持つ立花の手が震えていることに気が付いていた。
「……楽園はな、元々名前のないただ研究チームだったんだ」
「生物の細胞を中心にね」
「品種改良や医療分野とかに使えるような新しい万能細胞を見つける研究をしている過程でたまたま強化細胞の元が生まれてな、当初私たちはそれを隠蔽したんだ」
「何故です?」
「愚問でしょ香月琳君。危険だったのよ、未知の細胞っていうのは生まれた瞬間からただの脅威なの。それがたとえ後々人類を救う万能だとしても、最初は総じて不発弾みたいに危険なの」
「どうやら生まれた細胞は狂化細胞となって行ったがな」
そこからは、お前の知っている通りだと立花は呟くように言った。
狂化細胞をネズミに投与したところその細胞の恐ろしさに気づき狂化細胞を厳重に保管していたが盗まれてしまい魔物が生まれ、その魔物を倒すために狂化細胞を改良した開化細胞が開発されて、それを投与された適合者たちが魔物と戦うようになった。
立花と三日月の話によれば、翔馬と立花そして三日月は初期の段階からいた研究チームのメンバーだったが三日月をはじめとした数人が強化細胞を盗み出し、そのメンバーが現在の楽園メンバーということらしい。
「待ってください……」
そこで、琳が気づいた。
とても重要な、ある事実に。
「確か……翔馬さんの説明によれば狂化細胞が生まれたのは百年くらい前、そしてその頃の初期の研究チームのメンバーってことは………」
「……っ! そういう、ことか、琳」
「気づかれちゃったみたいね、立花ちゃん」
「………」
「一体今…………いくつ何ですか…………あなたたち」
百年程前に狂化細胞は開発され、三人はその研究チームの初期メンバーであり今も生きている。
ならば、一体三人の年齢はいくつのなのか。
少なくとも正常な年齢ではないだろう。
「……相変わらず鋭いな、琳は」
「立花さん……」
「……後で、話させてくれ。頼む」
「……分かり、ました」
「それじゃあ私はこの辺でお暇するわ、このことを伝えに来ただけだし。麦茶ご馳走様」
三日月は麦茶を飲みほしてそう言い、部屋から出ていった。
琳はハッとして一応客人である三日月を追って階段を降り、玄関で見送った。
「追ったりしないの?」
「……どうせ撒かれる」
「そ、じゃあまたね」
「今度は戦場で、か?」
「そうかもね~!」
そうして三日月は二カッと快活に笑って琳に手を振って帰っていった。
ここだけ切り取れば物凄くいい画になっているのだが、生憎とそう言った関係じゃないのが残念である。
琳は三日月を見送って玄関に鍵を掛け自室に戻ると、自分の部屋なのに入りたくなくなるほどどんよりとした空気が漂っていた。
「えーっと…………」
「私も、今日のところはこれで。ご馳走様、お邪魔しました」
「あっ、おい立花!」
暗い顔のまま立花は部屋を出て、涼もその後を追って「お邪魔しました!」と琳に言い残して二人は帰って行った。
その後二人から何も連絡がないまま夜も更け、琳は眠り、やがて朝が来た。
琳は着信履歴などを確認するが誰からも着てはいなかった。
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翌日、琳は極東支部には足を運ばなかった。
理由としては、なんだか立花と顔を合わせづらいというものがあったからなのかそれとも別の理由なのか琳自身よく分かっていない。
幸いにもこの頃魔物たちの活動は嘘のように消極的になり平和の一途を辿っている、が、庭園の守り手の面々はこれが何かの前兆であると直感的に感じ取っていた。
そしてその予感は見事に当たり、立花や翔馬から何も説明が為されず、琳の部屋で起こったことを知りえる者はあの時の四人だけというままになり、
琳たちの通う学校が襲撃された。
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「私は…………」
薄暗い研究室で、宇宙で煌めく太陽の如く暗闇の中で異彩を放つパソコンのディスプレイ。
その目の前で、「私」は椅子に腰かけて背もたれに体重を預けていた。
「結局、琳にも何も言えてないな…………ははっ……」
「私」は乾いた笑いを浮かべながら、つくづく自分のことが嫌になった。
あれだけ偉そうにしてて、あれだけ琳に色んなこと説明しておいて、いざ自分のことになるともうどうしたらいいのか分からない。
それにまだ、あいつの部屋でのこと以外にも、秘密にしていることはある。
でもそれは、絶対に言ってはならない、琳にだけは、絶対に。
こうして「私」は全てを知っている上であいつにその全てを明かしていない、言うべきことは言うべきだと分かっているつもりなのに。
私は……私は……
「どうしようもない嘘つきだな――――」
「私」の声に応えたのは、静寂だけだった。
次回番外編。
そして新章突入という流れにしようかと思っています。




