其の四十『訪問』
前回のあらすじ:楽園メンバーその二、邂逅
三日月と出会ってから二日が経ち、琳は休日を過ごしていた。
今のところ任務もなく立花からの呼び出しもない、至って平和だ、葵からの突発的な誘いもない。
母親の文乃はリビングのテレビでサスペンスドラマを見ながらコーヒーを啜って今日のチラシを確認し、琳は自分の部屋で漫画本を読み返したりスマホをいじったりしていた。
時刻は午後十二時半、先ほど昼食を食べ終えて今日一日怠惰に過ごそうと琳は決めていた。
文乃は今日の夕飯の買い物に行き家には琳一人、誰も琳の子の堕落を脅かすものはいなかった。
が、それはたった一つのインターホンにて打ち壊されることになった。
ピーンポーン………
「はーい、今出ます!」
部屋には今ゲームアプリの効果音やBGMだけが最小音量で流れているため、インターホンの音はすぐに分かった。
琳はゲームアプリを一時中断して、念のためキューブモードにした黒の武器を持って自分の部屋から階段を降りて玄関に向かう。
そして玄関の鍵を開けて戸を開ける。
ガチャ!
「こんにちは~!」
その瞬間、琳は叫んだ。
「ライフル!」
一瞬で狭い玄関で刀を振り回すよりは銃の方が得策だと判断して琳は千鶴がいつも使用しているライフルに黒の武器を変化させた。
「待って待って待って、今日は別にそういう用事じゃないから。安心して」
「安心できるわけないだろ、三日月さん」
インターホンを鳴らした人物は、二日前に琳の前に現れた楽園メンバー「三日月小夜」だった。
三日月は両手を上げて何も持っていないことを示したが琳はライフルを持ったままだった。
「ま、それもそうだよね~」
「………どうしてここが分かった」
「それを話すにも、上がらせてくれないかな~? お姉さんちょっと寒いんだけど」
「知ったことか」
「まぁお姉さんが凍えるのは良いとしても、このまま玄関開けてたら見られちゃうかもよ?」
「何が」
「君が物騒なものを持ってる姿が」
その言葉で琳はハッと我に返って冷静になった。
確かに、傍から見れば無抵抗の一般人に銃を突きつけているやばい人間だと琳は思われる。
それに三日月は昨日の今日で襲うような野蛮な奴にも見えない、ブーツにジーンズに無地の長袖そしてロングコートという格好の三日月はにへらと笑いながら琳の返答を待っていた。
「……まず、今日はどういったご用件で?」
「お話に」
「……本当にか?」
「ほんとほんと、揉め事を起こす気はないから」
「………」
琳は一種の賭けだと思い、黒の武器をキューブモードに戻して三日月を自宅へと入れた。
三日月は「ありがと~」と言って玄関の戸を閉めて靴を脱ぎ、礼儀正しく揃えた。
琳は玄関の鍵を閉めて三日月を自分の部屋へと案内した。
「お邪魔しま~す!」
自分の部屋にいれるのは躊躇ったが、もし何かあった場合家族共有である一階部分をおかしくされるよりは自分の部屋だけに被害を修めた方がまだいいと琳は判断した。
階段を上がり、部屋のドアを開けて、三日月になにもするなと念を打ってから琳は一応客人である三日月と自分用にグラスに麦茶を注いで片方を渡した。
折り畳み式の小さいテーブルの上にグラスを置いて、琳はキャスター付きの椅子に座って三日月に話しかけた。
「で、お話っていうのは?」
「なんだと思う?」
「質問を質問で返すな、まだ完全に信用したわけじゃないし、出来るなら今すぐにこの場から離れたいくらいなんだから」
「……この前もだけどさ、私ってそんなに怖いかな?」
「怖いというよりは危機感を感じるって言った方が正しい」
「それはちょっとショックだなー」
何なんだ、こいつ。
琳は地味にショックを受ける三日月を見て内心そう思っていた、いきなり敵対組織のメンバーのうちの一人の家に突然訪問したと思ったらそいつの言葉で精神的なダメージを食らっている。
何がしたいのか琳にはさっぱりわからない。
その時、琳に救いを差し伸べるかのようにスマホに涼から電話が入った。
三日月は「出たら?」と言って麦茶を一口飲む、琳は目の前の三日月から目を離さないようにして電話に出た。
「もしもし?」
『よぉ琳、暇か?』
「全くです」
『そっか……友達と一緒か?』
「友達では……ないです」
『なんだよ、煮え切らないな』
今のこの状況をどう説明するべきか琳は迷った、が、ここは嘘をつくことにした。
自宅に三日月がいるなんて分かれば、それこそ大事だ。
いや、だがここはあえて素直に話すことで協力を得られるのではないかと思いそこでしばし考えこんでしまった。
『お~い、琳~?』
「ほいっと!」
「あっ、ちょっ!」
「こんにちは、私三日月小夜と言います~」
『……三日月小夜……っ! てめぇ……!』
微かに涼の声が聞こえた、それが怒気と殺意を含んでいることも分かった。
琳はすぐに三日月からスマホを奪い取って涼と話すが、なんと涼が三日月との会話を望んだため三日月にスマホを渡した。
しばし二人の会話は続き、電話が終わってから数分も立たないうちに再びインターホンが鳴った。
琳は三日月に一緒に来るように言って玄関まで行き鍵を開けてドアを開けるとそこには焦った顔の涼が立っていた。
「っ琳! 無事か!?」
「涼さ………ん!?」
涼は琳がドアを開けるや否やすぐに飛び込んで琳を自分へと抱き寄せると同時にハンドガンに形を変えた黒の武器の銃口を三日月に向けた。
その時強烈な風が吹いてドアがひとりでにバタンと閉まった。
「銃口を向けられるのは今日で二回目ね。それにしても、まるで保護者みたいですね朝比奈さん?」
「………」
「そう怖い顔しないでくださいよ~、私はただお話しに来ただけなんですから」
「冗談じゃねぇ………たとえ本当にそうだとしても、琳一人に重荷を背負わせるわけにはいかない。こいつはあたしが守るって決めてんだよ」
「……カッコいいわね」
「だが万が一があったら困るからな、助っ人を用意してきた」
次の瞬間、ドアが再び開いて立花が入ってきた。
琳の顔がドアの方に向けられていたためすぐに分かった。
立花は一度深呼吸をして、三日月と向かい合った。
「よ、顔を合わせるのは久しぶりだな三日月」
「そうね、立花ちゃん。いや、安心院博士と呼んだ方が良かった?」
「ほざくなよ、ここが琳の家じゃなきゃ速攻で捕らえているところだ」
自宅の玄関で繰り広げられる生涯感じたことのなかった緊張感と殺気の入り混じったこの空気に琳は耐えきれず、涼の体をすり抜けて脱出し、ひとまず自分の部屋にと全員を案内した。
リンは追加で二人分の飲み物を用意してから上に上がり、テーブルの上に置いて椅子に座った。
依然として涼は黒の武器を構えたままだったが、立花は落ち着いていた。
「それで三日月、なぜ琳の家に来たんだ?」
「ちょっと話しておいたほうがいいかなって思ってね?」
「何をだ?」
そして三日月はにたりと笑ってこう答えた。
「あなたと須崎君が昔私と一緒に働いていたことをね」と。
次回も会話回




