其の二十九『訓練、訓練、そして採血』
前回のあらすじ:『それ』は全ての祖であると同時にパンドラの箱でもある。
「おらぁ琳! へばってんじゃねぇぞ!」
「は、はい!」
「葵! 動きが大雑把すぎる、もっと周りを見ろ!」
「はいっす!」
「総一郎! よく狙って撃て、焦って撃っても当たんねぇぞ!」
「分かりました!」
とある休日、琳・葵・総一郎の三人はウェポンモードの黒の武器を構え、同じくウェポンモードの黒の武器を持っている涼に挑んでいた。
三対一、それだけ聞けば琳たちの方が圧倒的優位にあるようにも感じられるがその実三対一でもまだ戦力不足というのが現状だった。
それもそのはず、適合者として覚醒してから三人と涼では時間が離れている上に戦闘経験の点では琳たちはまだ数回程度しか任務に出ていないため遠く及ばない。
ならばその差を埋めるにはどうするべきか、適合者として覚醒してからの時間差はどうしようもなく埋められはしない。
が、戦闘能力であればこれから実戦と訓練次第では如何様にも伸びる。まだまだ戦闘経験の浅い琳たちだがそれは裏を返せばどんな戦闘スタイルにも慣れる選択肢や伸びしろが多くあるということである。
そのためには訓練を積んでより多くの実戦に出るしかない。
といった理由で現在琳たち三人は涼に呼び出されて模擬戦闘訓練室にて汗だくになりながら挑んでは返り討ち挑んでは返り討ちのループ状態を味わっているというわけだ。
「三人とも、ふぁい、と」
「ファイトー」
そんな三人をジャージ姿の千鶴と珍しくラボラトリから出てきている立花が端っこに座って応援していたが立花にいたってはノートパソコンを持ち込んで何やらカタカタとデータ入力をしている。
「よし、んじゃちょっと休憩」
と、涼が言い休憩時間に入ったものの三人は床に倒れて「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……」と息を乱して疲れ果てていた。
「はい、これ」
「あ……ありがと……千鶴……」
汗だくで息を乱している琳のもとへ飲み物をそっと差し出し琳はそれを受け取った、それから千鶴は葵と総一郎にも飲み物を渡す、その姿はさながら運動部のマネージャーのようだった。
「いやー精が出るねー若人たちよー」
「立花もたまには体動かさねぇとダメだぞ」
「そのうちにね。涼の特訓に付き合ってたら体持たないってのー」
その一方で立花と涼は普通に談笑していた、白衣姿の見た目ロリっ子とスポーツTシャツにタオルを首に巻いたお姉さんの、その格好も見た目も違う二人のやり取りは知らない人が見たら一体どういう関係なのだろうと疑うだろう。
「あぁそうだ、琳。ちょっとこっちに来てくれるか~?」
「あーはい、今行きます」
タオルで汗を拭き飲み物を飲んでいた琳を立花が呼び、琳はペットボトルのキャップを占めて立花と涼がいる場所へ向かった。
「なんですか?」
「”あれ”に触ったんだって? 涼から聞いたよ」
「……”あれ”?」
頭にクエスチョンマークを浮かべる琳に立花はノートパソコンを画面が琳に見えるように向けた。
そこには、
『イヴ』と短く打ち込まれていた。
「……ああ。はい、触りましたよ。といっても軽く撫でる程度ですけど」
「それでも触ったことには変わりないんだよー、で、なんかおかしくなったりはしてないのー?」
「いえ、全く。至って普通の状態ですけど……」
「……ふーん。ならいいけど~」
「……何ですか」
「何もないよ。あ、それとこのことは誰にも言わないでね。これ関連の話をしていいのは私と涼と千鶴と住職の爺さんだけだから」
「分かりました。気を付けます」
「ん」
要件は全て伝えた、そう合図するように立花はノートパソコンを自分の方に向け直してまたキーボードをカタカタと叩き始め資料と画面を行ったり来たりしていた。
「おーっし! おらお前ら、再開すんぞー!」
涼の号令によって、五分程度の休憩時間は終わり再び実戦さながらの訓練をすることに三人はなった。
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「きつかったっす……」
「僕も体力落ちたな……」
「でも、涼の訓練について行けるだけ、みんな体力あるよ?」
今日の分の訓練が終わり、開放感と疲労感とが交わった状態の三人を千鶴は「大丈夫」だと言ってフォローしていた。
「皆さん、お疲れ様です」
「「お疲れ様です」」
「お疲れ様っす」
「あ、香月君、立花さんが呼んでいましたのでラボラトリへ向かってください」
「立花さんが……?」
琳は栞から伝えられた通り、エレベーターでラボラトリへと向かった。
「立花さーん」
「あら? いつぞやのボウヤじゃない、えっと確か名前は~……」
「香月です、香月琳」
「そうだ琳君ね、思い出したわ」
「倉持さん、でしたっけ」
「あら覚えててくれたのね、嬉しいわ」
琳がラボラトリへと赴くとそこには立花ではなくいつぞやのオネェさんの「倉持大介」がいた。相変わらずの口調だったが別に悪い人ではなさそうだというのが琳の今のところの印象である。
「立花さんいますか?」
「りっちゃんなら奥にいるわよ、何か用?」
「用っていうか、呼ばれたと言いますか……」
「そう」
大介と軽く話をしていると奥の扉が開き、琳を呼び出した張本人である立花が姿を現した。
「悪い悪い、二人とも適当に座ってくれ。あ、大介、これ頼まれていた書類だ」
「ありがと」
立花から書類を受け取ったのを誰かが見ていたようにタイミングよく大介の携帯電話が鳴った、大介は電話に出て何やら話したかと思うと「仕事が入ったからこれで失礼するわ」と言ってラボラトリから出ようとした。
「あ、そうだりんちゃん」
「……俺の事ですか?」
「そうよ、琳だからりんちゃん。再生者適合おめでと、応援してるわ」
「あ。ありがとうございます」
「じゃ、後はごゆっくり」
一体いつ知ったのか。
大介は去り際にそう言って琳に投げキッスを送った後に大介はラボラトリから出ていった。
「さ、んじゃ琳、そこ座って。採血するから」
「イヴに触ったから、ですか?」
「分かってきたね。そのと~り」
ここへ呼び出されて採血とあっては流石にそれくらいの予想はつく、それにイヴに触ったのは昨日の今日で忘れようにもあんな体験そう簡単に忘れられるわけがない。
「『再生者』で、『イヴに触った』のは恐らく琳が初めてだと思うから~一応念のため~採血~」
「……なんか楽しそうですね?」
「はっは~ん、さてはエスパーだな?」
「エスパーだな? じゃありませんよ」
「ま、いいじゃん。傷なんてすぐ塞がるんだからさ」
「そうですけど」
「ほら、腕出して~」
「はいはい」
立花は琳の腕に注射器の針を刺して血液を採った。
琳を呼び出した用自体はこれで終わりだがそれで終わるはずもなく検査結果が出るまで立花の手伝いを半ば強制的にさせられた。
小一時間ほど経って検査結果が出た。
結果としては体に異常はなくいたって健康的な体だった。
「まぁ昨日触ったばかりだからな~、一週間後にまた検査するからそのつもりで」
といったところで今日のところは解散、エントランスで総一郎や葵と一緒に駄弁ってから帰ることになった。
「さーってと、何も結果が出ないのはそれはそれで残念だな~っと」
琳が去った後、立花は鼻歌交じりに琳の血液を色んな機器で検査していた。
「ふんふんふ~………ん?」
と、その途中で立花の手が止まった。
「…………面白くなるかもね、これ」
立花は自分でも聞き取れるか分からないくらいの声量でそう呟き、キーボードを叩いた。
画面には、『香月琳とイヴの可能性』という新規ファイルが作成されていた。
琳「そういえば倉持さんっていくつなんですか?」
大介「ひ・み・つ」
立花「確かそれなりにいってた気が………ちょ、やめろ、笑いながらこっちに来るな目が笑ってないから!」




