其の十九『メインウェポン』
前回のあらすじ:特訓(特訓描写があるとは言っていない)
ウイィィン………
エレベーターの扉が開き、涼と琳がエントランスに戻ってきた。
「……お疲れみたいですね」
栞はぴんぴんしている涼とは打って変わってへとへとになっている琳に目をやると優しくそう語りかけて心配した。琳は小さい声で「えぇ……まぁ……」と相槌を打つと隣からやんややんやとヤジを飛ばされた。
「なんだ琳、なっさけねぇなぁ……それでも男かよ」
「まぁまぁ朝比奈さん、香月君は初めてなんですからそう無理させちゃダメですよ」
「いいじゃんかよーたまにはさー」
「どんなことしたんですか? まさか全部実戦形式なんてことはないと思いますけど」
「あたしだってちゃんと考えてるっての」
そう、事実琳が叩き込まれた訓練のメニューはちゃんとしたものだった。
まだ体にも慣れ切っていない琳のためにまずは自分の体がどこまで強化されているのかを知るために軽い準備運動から入った。
軽いと言っても他の人がやるには相当なものだけど。
「始め方としては結構まともじゃないですか」
「そうだろそうだろ?」
「それで他にはどんなことを?」
「他にはそうだな………とりあえずやってみないことにはどうにもなんないから実戦やって……」
「早くないですか? 実戦」
「そうか?」
「そうですよ、だって香月君アクロバット系の動きとかできないじゃないんですか?」
「あぁ出来ないぞこいつ」
そう、何が酷かったって、琳は運動部で運動神経もそれなりにはある方だがあくまでもスポーツの話。アクロバットとか体操となるとまた違う。
準備運動から始まったため琳もちゃんと段階を踏んでいくのかと思っていたが準備運動が終わるとそこからはもう実戦形式で足ががくがくになるほどまでしごかれた。
「普通、ちゃんと回避方法とか教えてからの実戦だと思うんですけど」
「うーん、あたしが知らない間に出来るようになってたから大丈夫だと思ったんだが……」
「朝比奈さんは元から出来てたじゃないですか」
「あれ? そだっけ?」
あははは、と愉快そうに笑っていたが琳にとっては笑えなかった。栞も頭を抱えておりため息を吐いている。
そこへ翔馬と千鶴が総一郎と葵を連れてエントランスへと戻ってきた。総一郎と葵の手には黒の武器が握りしめられており、その状態を見るとどうやら正式に加入したらしい。
「あっ! 香月先輩! どうしたんすか? そんなに汗だくで」
「あぁ……ちょっとな……」
「朝比奈、君か」
「やっ……そのー……ついテンション上がっちまって……あはは」
「お前、前に一般兵たちの訓練を任せた時もそうだったよな」
どうやらこのようなことは今回が初めてではなく前にもあったようだ、涼はこれまたあははと笑っていたが涼以外誰も笑っていなかった。
時間も時間でいい頃なので一度昼食を挟み、その後翔馬の方から三人に話があると言ってとある場所まで連れてこられた。
そこは薄暗く先もよく見えない場所だった。
「ちょっと待っててねー」
翔馬が何やら手探りで何かを探しているとパチッという音が聞こえ、その直後手前から順に電気がついていきその場所に明かりが灯った。
その場所は多数の防護服や銃火器などが保管されている武器庫のようで、その装備のどれもがあの軍用車両に乗っていた兵隊たちの持っている装備だった。
翔馬はずんずんと先に進みその先にある扉を開け、さらに進んでいくともう一枚扉がありそこを開けるとそこには一つの四角柱の本体にタッチパネルが取り付けられた操作端末があった。
翔馬は慣れた手つきで電子音を鳴らしながらパスコードを入力していくと下からその操作端末から等間隔に離れて円形に並んだ縦長の箱が出現した。
「ここはさっきの通りを見てもらえれば分かる通り武器庫になっている。その中でもここは適合者が使う武器、つまり黒の武器の保管庫になる」
「でも俺ら今普通に持ってますけど……?」
「確かにそうだね。でもそれはあくまで『携行型』なんだ、つまり本来の姿じゃない。本当の黒の武器はこの箱の中に入ってる」
「つまりこれはあくまで緊急時とかに使われるようなやつで、そっちが本来魔物と戦う時に使われるもの、ってことですか?」
「うん、大体そういうこと。ほら、街中で刀とか槍とか銃とか大っぴらに持ち歩いていたら怪しまれるし警察に声かけられちゃうでしょ? 元々武器はこっちを使ってたんだけど、そういうことがないように新たに開発されたのが今みんなが持ってるやつってわけ」
「でもこの小さいやつでも十分戦えるっすよ?」
「確かにそれでも十分魔物たちと戦える、でもそれだけだといずれは限界が来てしまう。正式な任務の時はそれだけでは心もとない場合もある。この前琳君が戦ったような任務は正式なものじゃなくてゲリラ的なもの、この先より強い魔物たちと戦うには携行型よりこっちのほうがスペックも高いし攻撃力も段違いなんだ」
「なるほど、つまり今持っている携行型はサブウェポンでこの箱に入っているのがメインウェポンってことですか。なんとなく分かりました」
にこやかに説明をつらつらと三人にする翔馬は再びタッチパネルを操作し、その箱を開けた。
その中には一本の黒い棒が入っているだけだった。
「とりあえず手に取ってごらん、君たちのメイン武器だ」
三人はその黒い棒を手に取り持ち上げて箱から出してみる、特に変わったことはなかったが、何故かずっと前から慣れ親しんだもののように感じた。
「今は正式な任務が届いたわけじゃないから使うことは出来ないけどね」
三人を連れてきたのはこのいわゆるメインウェポンを見せるためだったらしくすぐに収納して元来た道へと引き返した。
再びエントランスへと戻ってきた三人は適当にソファーに寝転がってだらーんとのんびりしていた。
あと数日もすれば夏休みが終わり学校が始まってしまう、琳はそんなことを考えながら、ぼやくように総一郎と葵の二人と久しぶりとも思える雑談を始めた。
まだこの場所に来て少ししか経っていないが、琳にとってすでにここは居心地のいい場所となっており、ここで過ごす時間が自分にとって欠かせない存在となっていった。
そんなことを考えた夏の日の午後だった。
説明がややこしい感じになってしまいましたが、
いつも所持している黒の武器はサブウェポン
収納されているのが上位互換の性能を持つメインウェポン
という設定です。
メインのほうを使う回はまだ先になります。




