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エクストラ・ナイツ   作者: クマ
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エクストラナイツ 1-1

近代的な街並みを通り過ぎた、ちょっとした大通り、春の心地良い風が全身を包み込むような気分になりアデルは軽く背伸びした。


「風が心地良いし、花の香りがする…のどかだなぁ。春の匂いが気持ちがいいとは、さすが四季の国ウェスタリア」


 ここ、ウェスタリア王国は、温暖な気候に位置しているので四季を感じることが出来るのだ。

春の時期になると色とりどりの花が咲き乱れる。他国からの観光客が来るほど美しいことで有名だ。

 だが心地良い気分は、時として頭からお花を咲かせてしまう季節でもあったりする。

 アデルが歩いている通りの先で、メガネで三つ編みの如何にも大人しそうな女子が、頭からお花が咲いていそうなヤンキー二人に絡まれていた。


「あ…あの、通して…もらえません…か?が、学校に行けないじゃ…」

「酷いなぁねーちゃん、学校なんかふけてさぁ、俺らと遊ぼーよぉ。なぁ?」

「そ~そ~ネーちゃん遊んでこよ~よぉ」

「あの…ホント困りますから、時間が…」


 女の子は、男性対しての免疫がないのか目を伏せながらも必死に抵抗していた。下手に回っていたヤンキー達もなかなか釣れないのを見て、徐々に苛立ち始める。すると何やらヤンキーAがヤンキーBに小声で話しかけ始めた。


(ちっ、無理やり連れて行くぞ)

(やるんならさっさとやっちまおうぜ)


 小声で話し込んだヤンキー達は、じりじりと壁際まで女の子を追い込み始める。当然三つ編み女子は、押し返すことができず、身動きが取れないまま、あっという間に壁際に追い込まれてしまった。


「なぁいいだろう姉ちゃん、今からさぁ…俺達といい事しに行こうぜぇ」

「いや!…離してください!」


 ヤンキーAは三つ編み女子の腕を掴み、自分のとこに引き寄せようとする。 力の入ってない震えるような声をだして、懸命に逆らおうとするが、体格に差があるので負けてしまっている。

そして、ヤンキーBが口を塞ごうと手を出そうとした時、アデルがヤンキーBをヤンキーAごとドロップキックで蹴り飛ばした。


「痛ぇえ…なにしやがんだゴラァ!!」


ヤンキーBが、蹴りが入った腰を擦りながら立ち上がり、アデルを睨む。


「あちゃあ…すいませーん、大丈夫っすかー?」


アデルは悪びれもせず、さり気ない動作で、三つ編み女子を庇う体制をとる。

ヤンキーAも、膝の砂埃を払い立ち上がる。

「てめぇ…見知らぬ人を蹴っちゃいけないって教わらなかったかなあ?」


 ヤンキー共通心理の、世界の中心が自分かのような発言に、アデルは鼻で笑う。


「いやぁなんと言いますか、こんな気持ちのいい時間帯にナンパ?してる頭の悪いお兄さん達に、教育的指導?してあげようかなってね。ナンパなら俺が相手になりましょうか?」


アデルは、右手を自分の胸に当て、恭しく執事の礼をとって見せた。それを見たヤンキー達の頭の中で、何かのスイッチが入る、音がした。

ヤンキーBが掌に拳をぶつけ、臨戦態勢に入った。

「調子に乗ってんじゃねぞ…クソガキ…殺す!!」


 ヤンキーBは、体当たりするような勢いで殴りかかる。アデルは三つ編み女子を庇いつつ、ヤンキーBの左ストレートを、自分から外れるよう、左に逃がし、脚を出して転ばせた。つづいて仕掛けてきたヤンキーAには、顎先めがけて体重の乗った右フックを当てる。

ヤンキーAは、顎先を殴られたことで脳震とうを起こし、そのまま倒れ込んだ。


「ヨ、ヨッシー!?てめぇ…マジ許さんぞ!!」


 すぐ後ろで体制を立て直したヤンキーBが、走りながら懐から「何か」を取り出そうとする。

アデルは、ヤンキーBより先に腰にしまっていた回転式拳銃を右手で抜き放ち、ヤンキーBの顎先に銃口を突き付けた。


「はひっ…?!!」

「無許可で杖を、それも街中で抜くことは、御法度のはずだぜ?ちなみに、俺の場合は、正当防衛だけどな?」

「ご、ごめんなさい…!!…う、撃たないでくれ!」


アデルは、少しだけ殺気を放ち、ヤンキーを見据える。


「これ以上やろうっていうのなら、こちらも本気でやるぞ。わかったらそこに寝てる奴と一緒にさっさと失せろ」


 その表情に、簡単に怖気づいたヤンキーBは、半泣きになりながら、ヤンキーAのもとに向かい、背中におぶせて逃げて行った。それを確認したアデルは、三つ編み女子のほうを向き声をかける。


「さてと、て…あれ?いない…」


先程までいたはずの三つ編み女子が、どこを見ても見当たらず、その場に立っていたのは、アデルの学生カバンを持った、長い黒髪を、うなじで結った別の女子だった。


「ア、アデル君?大丈夫?はい、鞄」

「ん、おはようカテレア。さっきまで居た三つ編みの子、知らないか?」


彼女の名前は、カテレア・ウエストウッド。11年前の誘拐事件以降、ずっと行動を共にする、所謂幼馴染みである。


「さっきの子、凄い勢いで走って行っちゃったけどなんだったんだろうね」


風でなびく黒髪を右手で抑え、アデルを見つめる。アデルはため息をして、渡されたカバンを肩にかける。


「制服は俺たちの学院と同じ制服だから、まぁまたいつか会うでしょ」


 アデルの言葉を聞き、にカテレアはがくりと頭をうな垂れる。が、すぐに頬を膨らませてアデルに向き直る。


「そういう問題じゃないでしょ?もう…アデル君、撃っちゃうのかと思ったんだよ?」

「ん?大丈夫だって、減音の魔法はかけてあるから」

「そういうことじゃないよ!…もぉ!」


 完全にそっぽを向いてしまったカテレアを見て、アデルは苦笑する。いつまでもそっぽを向かれる訳にはいかないので、アデルは今日行われる事の話を変える。


「そ、そういえば、今日の契約の儀式を行って、初めて魂装ファントムを纏うことができるんだったよな」


アデルの問いかけに、渋々といった顔で、カテレアは応える。


「そうだよ。この儀式を行って、初めて入学したことになるんだよ」


まだ顔は拗ねているが、ようやくこちらを向いてくれたことに、アデルはホッとする。



「で、魂装を卒業までに天装(へカルト)魔装ラギアに至った者は王国騎士にそのままエスカレーターらしいな。俺は、どっちに進むんだろうなあ」


アデルとカテレアは、歩調を合わせて歩いていると、2人と同じ制服を着た学生がちらほらと見えてきた。


「私、どっちに進むんだろ…ちょっと不安かな」


 並んで歩くカテレアの顔は、少しだけ曇ったように見えたが、アデルはそれに気づかなかった。


「悩んでどうすんだよ。こればかりは俺達じゃどうしようもできないぜ?大丈夫だよ、カテレア。何事もなく終わるさ」


アデルの励まし?の言葉にカテレアはそれ以上考えることを辞めた。


「ア…アデル君は、どう思ってるの?その…私と一緒になったら…とか」


後半が尻すぼみになり、アデルは聞き取ることができなかったが、カテレアは少しだけ、上目遣いの姿勢で、恐る恐るとアデルに質問をした。


「俺?、俺はどんな時もカテレアと一緒だよ」


 この一言を、待ってましたと言わんばかりにカテレアの表情は弛緩する。


「えへへ…ズルいなあアデル君はぁ…へへっ」

「幼馴染みとして、当たり前だろ?」

 

アデルの二言目は、カテレアが纏った幸せオーラを光速で打ち壊した。カテレアの感情は、ガルナの滝並の勢いで流れ去った。


「アデル…君?」


カテレアは、自身の内でで巻き起こった感情の嵐で、膝から崩れ落ちるのを食い止めた。しかし、口元は、痙攣したように引きつっている。


「ん?どうしたカテレア、お腹でも痛いのか?」


アデルの方向音痴な心配に、完全に肩を落としてしまったカテレアは、アデルを置いていくように歩調を速めた。


「えっ?!ちょ、どうしたんだよカテレア!」


アデルの呼び止めスルーして、カテレアスタスタと先を歩いて行った。その後、アデルは帰りにパフェを奢る条件を呑むまで、カテレアに口を聞いてもらえなかったのであった。

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