第一話 みんな好き勝手言いやがって
第一話 みんな好き勝手言いやがって
放課後。
紀人は、いつものようにパンさんの店に寄っていた。
カウンター席に座り、注文した飲み物を横に置いたまま、スマートフォンの画面を眺めている。
見ているのは、先日の配信に対する反応だった。
「……すげえ増えてる」
少し見ない間に、感想も考察もかなり増えている。
紀人は画面を指で流していった。
『次回メモリー予想』
またこれか。
最近、配信が終わるたびに誰かが始める。
『次はカンガルーとコブラ』
『オニヤンマ使ってほしい』
ここまでは分かる。
実際に登場したメモリーだ。
問題は、その下だった。
『ゾウ』
「……」
『ティラノサウルス』
「……」
『シャチ』
「……」
『ワニ』
紀人はスマートフォンを見つめた。
(好き勝手言いやがって……)
そもそも、そんなメモリーが存在するのかどうかも分からない。
『ゾウは腕だろ』
『いや脚』
『鼻』
(俺の鼻に何つける気だよ)
思わず自分の鼻を触った。
「何してんだ?」
「うわっ」
顔を上げると、パンさんがいた。
「いや、何でもないです」
「鼻痛いのか?」
「違います」
「じゃあ何だよ」
「何でもないですって」
パンさんは不思議そうな顔をしながら離れていった。
紀人はもう一度スマートフォンを見る。
『ティラノサウルスは絶対そのうち来る』
『毎回言ってんな』
『言い続ければいつか当たる』
(……いや)
否定しかけて、紀人は止まった。
自分だって、すべてのメモリーを知っているわけではない。
今持っているもの。
これまで使ったもの。
その先に何があるのかは、紀人にも分からない。
(……まさか本当にティラノサウルスとか来ないよな)
少しだけ不安になった。
◇
メモリー予想を抜けると、今度は戦闘そのものについての考察が並んでいた。
『今回キットが新しいメモリー使わなかったの、コピーされるからだよな』
「お」
紀人の指が止まる。
『ノミ見せる→コピー』
『ヒクイドリ見せる→コピー』
『だから三つ目以降を見せなかった』
『新しい能力出すほど敵が強くなるからな』
(……よく見てんな)
戦っている最中、紀人自身が考えていたことだった。
さらに読む。
『最後も敵がやった切り替えを逆に使った感じだった』
『能力だけコピーできても使い込んだ経験まではコピーできない』
『だから型をコピーさせた時もキットが先読みできた』
「すげえ……」
思わず声が出た。
「何が?」
またパンさん。
「何でもないです」
「さっきからそればっかだな」
「気にしないでください」
「だったら声に出すな」
もっともだった。
紀人は少し声を抑えて続きを見る。
『キットは相手の未来が見えていた説』
(見えてない)
『実はカメレオンの心を読んでいた』
(読めない)
『空手の型を使うことで未来予知が発動する』
(何でそうなるんだよ)
正確な考察と、とんでもない考察。
同じ場所に並んでいる。
紀人は思わず笑った。
◇
さらに画面を流す。
今度は。
『あの空手の特殊部隊員について』
紀人の指が止まった。
「……」
少し嫌な予感がする。
『サクラの時にキット止めた人と同じだよな?』
『同じだと思う』
『今回も抜塞と五十七歩で普通に連携してた』
『絶対キットと知り合いだろ』
「……」
紀人は黙った。
(まあ……知り合いなんだけど)
そこは当たっている。
『師匠説』
(違う)
『父親説』
(もっと違う)
『実は親戚』
(違うって)
『未来から来たキット本人』
「何でだよ」
「だから何が?」
「うわっ!」
パンさんがまたいた。
「パンさん、さっきから急に来るのやめてくださいよ!」
「俺の店だぞ」
「そうですけど!」
「で、何見てんだ?」
紀人は一瞬だけスマートフォンを伏せた。
「例の配信の反応です」
「ああ、あの特撮」
「特撮じゃないですって」
「はいはい」
「本当なんだけどなあ……」
パンさんは完全に聞き流している。
「好きだな、お前も」
「まあ……気にはなるんで」
「ほどほどにしとけよ」
「はーい」
パンさんが離れていく。
紀人は再び画面を見る。
『あの空手の人、キットの正体知ってるんじゃない?』
「……」
今度は笑えなかった。
(北山さん、かなり俺のこと疑ってるよな……)
抜塞。
五十七歩。
言われた瞬間、身体が動いた。
あれで何も思われない方がおかしい。
(……ちょっと気をつけないとな)
ネットの考察より、現実の北山の方が問題だった。
◇
次に目に入ったのは。
『サクラの仇について』
「ああ……」
開く前から、だいたい分かる。
『許さない』
『今回も逃げやがった』
『強いのが余計腹立つ』
『敵キャラとしては優秀』
『でも嫌い』
『サクラ返せ』
『仲間フラグ返せ』
『あいつだけは許さない』
「……」
紀人が下へ流す。
まだ続く。
さらに流す。
まだある。
「嫌われすぎだろ……」
「今度は誰が?」
パンさんの声。
「何でもないです」
「絶対なんかあるだろ」
「ないです」
紀人は画面へ戻る。
(まあ……)
サクラのことを思い出す。
あの時。
もう少しだった。
何かが変わるかもしれない。
そう思ったところで、全部吹き飛ばされた。
(……仕方ないか)
紀人自身、あの男をどう思っているのか。
まだうまく言葉にはできなかった。
◇
さらに画面を流していく。
そこで、見慣れない言葉が目に入った。
『今回のネズミ怪人かわいかった』
「……ネズミ?」
紀人は指を止めた。
『味方怪人説』
『あの特殊部隊員助けてたよな』
『次の仲間枠じゃね?』
『ネズミのグッズ欲しい』
「……何の話?」
紀人は配信映像を開いた。
自分とミラーカメレオンの戦闘。
そこから少し戻す。
画面の端では、特殊部隊とシロアリ怪人たちが戦っている。
「こんなやついたの?」
当時、紀人はミラーカメレオンとの戦いに集中していた。
CASH側の戦闘を細かく見ている余裕などなかった。
映像を進める。
川出が体勢を崩す。
「あ」
紀人は顔を近づけた。
「川出さん?」
シロアリ怪人が迫る。
そこへ、横から何かが飛び込んできた。
ネズミ型の怪人。
川出の身体を引っ張り、攻撃から逃がす。
「……え?」
紀人は映像を戻した。
もう一度。
再生。
ネズミ怪人が川出を助ける。
「……助けた?」
もう一度戻す。
再生。
「やっぱ助けてるよな……」
シロアリへ攻撃したわけではない。
川出を引っ張った。
守った。
そして、消えた。
「何だ、こいつ……」
紀人はネットの反応へ戻った。
『味方怪人きた』
『仲間になるやつ』
『特殊部隊員との友情イベントだろ』
『ネズミかわいい』
『グッズ化はよ』
「いや……」
紀人は画面を見つめた。
「俺も知らないんだけど……」
配信の主役扱いされている本人が、視聴者と同じタイミングで新しい怪人の存在を知っている。
何とも言えない気分だった。
◇
紀人はもう一度、映像を再生した。
ネズミ怪人が飛び込む。
川出を助ける。
戦わない。
そして逃げる。
「……怪人でも」
小さく呟く。
「人を助けるやつっているのかな」
サクラのことが頭をよぎった。
怪人だから敵。
人間だから味方。
そんなに簡単ではないことを、紀人はもう知っている。
もし、本当に自分たちを助けようとしている怪人がいるなら。
「……ちょっと、嬉しいけど」
でも、それだけで信用していいのか。
何のために川出を助けたのか。
そもそも、あのネズミ怪人が何者なのか。
何も分からない。
「そんな都合よくいくかな……」
今分かっているのは、あの時、ネズミ怪人が川出を助けた。
それだけだった。
◇
「ほら」
目の前に皿が置かれた。
「ありがとうございます」
「で」
パンさんがスマートフォンを見る。
「まだ見てんのか、その特撮」
「だから特撮じゃないですって」
「はいはい」
「本当なんだけどなあ……」
「で、今日は何が出たんだ?」
「え?」
「ずっと見てんだろ」
紀人は少し考えた。
「……ネズミ?」
「地味だな」
「いや、結構重要かもしれないですよ」
「ネズミが?」
「たぶん」
「ふーん」
パンさんには、まったく響かなかった。
紀人は苦笑しながら、またスマートフォンへ目を落とす。
最新の書き込みが増えている。
『次回メモリー予想』
「また始まった……」
『ゾウ』
『ティラノサウルス』
『シャチ』
『ワニ』
そして。
『カバ』
「……」
紀人は画面を見つめた。
(好き勝手言いやがって……)
でも、自分だってこれからどんなメモリーが出てくるのか、全部知っているわけではない。
(……まさか本当に、どれか来たりしないよな?)
少しだけ、本気で考えてしまう。
そして、もう一度。
『カバ』
紀人は小さく息を吐いた。
「……だから、どこにつけるんだよ」
「何を?」
「何でもないです!」
パンさんは首を傾げた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




